冬至にカボチャを食べるのにはわけがある

西洋カボチャ
西洋カボチャ

今年の「冬至」は12月22日である。「冬至にはカボチャ」というのが、今日の日本人の季節感だ。この日に柚子湯に入って、冬至がゆ(小豆がゆ)とカボチャを食べると「カゼをひかない」と言われている。厄払いや無病息災を願うためでもある。

いくつもの名を持つカボチャ

西洋カボチャ
西洋カボチャ

 カボチャはウリ科カボチャ属のツル性1年草。通年出回る野菜だが、最も多く出回るのが9月から12月までだ。

 カボチャは外来の野菜である。日本には2段階で渡来し、最初の渡来物が「日本カボチャ」、2回目のものが「西洋カボチャ」と名づけられているという、なかなかユニークな歴史を持っている。

 カボチャの原産地は中央アメリカおよび南アメリカの熱帯。日本カボチャが渡来したのは戦国時代の天文年間(1531~1555年)で、ポルトガル人が初めて日本に渡来したときにもたらしたものだ。渡来地は豊後(現在の大分県)だそうだが、ポルトガル人が「カンボジアの瓜」(カンボジャ・アボボラ=camboja abóbora)と伝えたことから「カボチャ」と呼ばれることとなったらしい。「カボチャはカンボジア原産」という説は噂に過ぎないようだ。また、カボチャの古い呼び名に「ボウブラ」というものがあるらしいが、これは上記「アボボラ」から転じたらしい(「らしい」ばかりが続いて恐縮です)。

 名前の話が続く。「唐茄子」(とうなす)の別名もあるが、これは「唐」すなわち「外国」のナスの意。さらに「南京」(なんきん)は中国の都市、南京から来た瓜。「南瓜」の字を当てるのはこの南京の南を取ったか、南蛮渡来、南から来た瓜という意味だ。

主流は日本カボチャから西洋カボチャへ

西洋カボチャが日本に伝わったのは19世紀、幕末である。開国を迫り押し寄せて来た西欧列強とともにやって来た。日本カボチャが中米および南米の熱帯産であったのとは異なり、西洋カボチャは同じく中米・南米でありながら高原乾燥地帯の原産であった。

 日本カボチャの場合は“熱帯出身”ということで、高温多湿の日本の気候風土に合ったらしく、渡来後日本各地で栽培が始まった。とくに西日本では栽培が盛んに行われ、この過程でさまざまな品種に分かれていった。

 ところが、高温多湿を嫌う西洋カボチャのほうはなかなか普及しなかった。北海道など夏でも涼しい地域での栽培が始まりはしたが、栽培地を選ぶという条件付きのため、なかなか日本カボチャのライバルにはならなかった。

 状況が変わったのは戦後で、品種改良によって西洋カボチャが日本各地で栽培できるようになった。そして、急激に進んでいった日本人の食の西欧化により、ポタージュ、パイ、サラダ、あるいはプリン、ケーキなどに合う西洋カボチャに人気が集まり、現在では日本カボチャは劣勢に回ることとなった。

 甘みが強くホクホクした食感が特徴の西洋カボチャ。それに比べて、日本カボチャは甘みが控えめで、水分が多いためにネットリとした味わいが特徴だ。だから、日本カボチャは和食の煮物、精進揚げ、蒸し物、汁物、炊き込みご飯などに最適である。日本カボチャには日本カボチャの“生きる道”があるのである。

カボチャを薦める機能の話

 だが、西洋カボチャは、栄養面でも日本カボチャに優るらしい。では、その栄養について説明しよう。

 カボチャは緑黄色野菜の代表的なものの1つだ。炭水化物、タンパク質、ミネラル、食物繊維などさまざまな栄養素をバランスよく含んでいることから、巷間、次のようなことが伝わっている。

(1)肝臓が弱るとタンパク質の合成能力が衰えるが、それをカボチャのタンパク質が補うことから「カボチャは肝臓にいい」。それに関連して、肝臓が弱ると精力も落ちるので、カボチャを食べると精力が復活するので「カボチャは強精野菜」。

(2)カボチャは内臓の機能を活性化し体を温める作用があるので「カボチャは冷え性改善と疲労回復に効果がある」。

(3)カボチャのミネラルの中ではとくにカリウムが多い。カリウムは血圧を下げる働きがあるので「カボチャは高血圧改善につながる」。

(4)その他「糖尿病患者はカボチャを常食するといい」「カボチャの食物繊維が便秘を解消する」などなど。

 とは言え、あくまで巷間伝わっているということであり、玉石混淆だ。カボチャをせっせと食べていれば病気が治るというものでもあるまい。実際に内臓や血圧に心配がある人は、管理栄養士や医師に確認していただきたい。

カゼの季節にカボチャ

 カボチャのビタミンで最も注目されるのはビタミンAだ。と言っても、ビタミンA自体がカボチャに含まれているわけではない。その前駆体であるβ-カロテンが体内に入ると、その一部がビタミンAに変化するというメカニズムを持っている。

 まずβ-カロテンについて説明する。これは植物の黄色や赤色の色素の成分体である。カボチャの果肉の黄色がその正体だ。β-カロテンには強い抗酸化作用があるので、生活習慣病の予防につながる。とくにβ-カロテンの場合、血液中のコレステロールの蓄積を抑える働きがあるので、動脈硬化の予防につながるという。なお、β-カロテンは脂溶性なので、カボチャを油で調理することで、より効率的に体内に摂取しやすくなるということになる。

 体に取り込んだβ-カロテンは、必要に応じてビタミンAに変換される。このビタミンAには、肺や気管支、鼻などの粘膜を正常に保つ働きがある。つまり、カゼの予防に役立つわけだ。

 カゼの流行が気になる冬至の頃にカボチャを食べるのは、理に適ったものなのである。

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About 旭利彦 15 Articles
ジャーナリスト あさひ・としひこ 旅行会社勤務の後、スーパーマーケット専門紙「流通ジャーナル」、海外旅行専門誌「トラベルタイムス」(オータパブリケイションズ)、同「トラベルマネジメント」(トラベルコンサルタンツ)での社員編集者勤務を経て、1996年よりフリーランス。「夕刊フジ」「サンケイスポーツ」などで健康および医療・医学分野の契約ライターを担当。その後、「週刊新潮」で連載コラム「よろず医者いらず」、夕刊フジで一般食品の健康的効能を紹介する「旭利彦の食養生訓」、飲食業界専門誌「カフェ&レストラン」で「カフェのヘルシー研究」、経済雑誌「経済界」で50代以上の男性に向けた健康コラム「経営者のための“自力”健康法」を連載。現在は食品専門誌「食品工業」(光琳)、スーパーマーケット専門誌「週刊ストアジャパン」、医療専門誌「月刊/保険診療」(医学通信社)で取材・執筆活動を行っている。主な著書に「よろず医者いらず」(新潮社)、「カフェの『健康食材』事典」(旭屋出版)など。