海外の食品安全関連情報を紹介する「食品安全情報(化学物質)」の記事の中からピックアップしました。順不同です。(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室 畝山智香子・登田美桜)
- 「食品安全情報」(食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報)
- http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html
- 卵のフィプロニル汚染
- EUはグリホサートの認可を更新
- ピーナッツアレルギーの臨床ガイドラインとFDAの限定的健康強調表示
- FDA/EPAの魚食ガイダンス
- アクリルアミドに関するEUの新規則
- 健康食品による健康被害
- EFSAがテトロドトキシンを評価
- EUのヒスタミン大規模食中毒
- EU食品寄付ガイドライン
- 未承認の遺伝子組換えペチュニア
(順不同)
卵のフィプロニル汚染
2017年7月、EU域内の産卵鶏家禽農場においてフィプロニルがワクモ(Dermanyssus gallinae)対策として違法に使用されたことが発覚しました。フィプロニルはイヌやネコのノミ、ダニなどの対策用の動物用医薬品に使用される物質で、食料生産動物への使用は禁止されています。
当初、その違法使用が卵の輸出量の多いオランダで確認されたため、当該農場で生産された鶏卵および鶏肉の大規模なリコールに発展しました。その後、ベルギーなど他の加盟国でも同様の問題が発覚しEU全体を巻き込む騒動となりました。
しかも、この問題はEUだけでは終わりませんでした。EUの報告を受けて韓国政府が輸入品に限らず自国内の産卵鶏農場の検査を実施したところ、複数の農場の鶏卵からフィプロニルやビフェントリン(※)等が検出され、関連農場の閉鎖や鶏卵の回収や廃棄が行われました。食品安全の担当機関である韓国食品医薬品安全処(MFDS)のトップページが変更されて卵の専用サイトが開設されるなど、EUとは別途に大問題となりました。
※編集部註:ビフェントリンはピレスロイド系の殺虫剤の一つ。
EUはグリホサートの認可を更新
ここ数年の「食の10大ニュース」で取り上げているグリホサートです。現在も、ヒトに対しておそらく発がん性があると主張している国際がん研究機関(IARC)と発がん性はないとする各国の公的リスク評価機関との間で論争が続いています。
EUではグリホサートの再認可を認めるかどうかが焦点となり、なかなか議論がまとまらず採択が延長されていました。2017年3月に欧州化学品庁(ECHA)のリスク評価委員会がグリホサートを発がん物質とは分類しないと結論したことを受けて、ようやく11月末に5年間の認可更新が認められました。
グリホサートは世界中で使用されている除草剤なので、もし認可が更新されてなかったならば、農業への影響は計り知れなかったでしょう。
ピーナッツアレルギーの臨床ガイドラインとFDAの限定的健康強調表示
米国でピーナッツアレルギーの発症予防について新しい臨床ガイドラインが発表されました。米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が設立した専門家委員会が作成したものです。
そのガイドラインは乳幼児期にピーナッツを含む食品の導入を薦めており、ピーナッツアレルギーのなりやすさ(リスクレベル)に応じて導入時期が示されています。以前はアレルギー予防のためには乳幼児期のアレルゲンを避けるという考え方だったので、この発表は話題となりました。
その後、米国食品医薬品局(FDA)が、重症アトピー性皮膚炎および/あるいは卵アレルギーのある乳児向けに、4~10カ月齢の間に挽いたピーナッツを含む食品を摂取することと5才までにピーナッツアレルギーを発症するリスクを減らすことの間の関連性を説明する限定的健康強調表示(qualified health claims)の使用について反対はしないと発表しました。ただし、その表示を支持する根拠は一つの臨床試験に限られることや、予め医師に相談することの記載も必要だとしています。
FDA/EPAの魚食ガイダンス
ここ数年、諸外国では魚食に関する助言内容が少し変わりました。以前は、メチル水銀による健康影響のリスクを考えてメチル水銀の濃度が高い魚を避けることを重視した助言が主流でしたが、現在はリスクだけでなく栄養摂取などのベネフィットとのバランスを考えた助言が多くなりました。
そのよい例が今年1月に米国FDAと環境保護庁(EPA)が共同で発表した助言です。この助言は、妊婦または妊娠する予定がある女性、授乳期の女性、乳幼児のいる親を対象に、水銀濃度をもとに62種類の魚について、選択しやすく次の3つに分類しています。
- ベストチョイス(1週間に2、3回程度食べる)
- グッドチョイス(1週間に1回程度食べる)
- 避けるべき。
消費者向けのリーフレットが非常にわかりやすく作られていたのが特に印象的でした。
- Advice About Eating Fish(FDA)
- https://www.fda.gov/downloads/Food/ResourcesForYou/Consumers/UCM536321.pdf
アクリルアミドに関するEUの新規則
2017年11月にEUで食品中アクリルアミドの低減化に関する新規則が採択されました。来年4月に発効します。新規則では、ジャガイモや穀類製品、コーヒー類、乳幼児用食品などアクリルアミドを含む主要製品を対象に、各食品事業者が低減措置を行うことを要求しています。
新規則にはベンチマーク濃度(benchmark levels)という値も提示されていますが、この値は他の汚染物質に設定されている最大基準値とは位置づけが異なり、各食品事業者が自社の製造工程や低減措置の効果を評価できるようにするための指標値として示されています。
健康食品による健康被害
例年と同じく、今年も健康食品の摂取による健康被害報告や注意喚起のニュースが絶えない一年でした。
例としてフランスの取り組みを挙げると、フランスには食品・環境・労働衛生安全庁(ANSES)が運営するニュートリビジランスという健康被害報告システムがあります。フードサプリメントや強化食品、特定集団向け食品(乳児、不耐症患者など)による健康被害を医療従事者や製造・販売業者、さらには消費者個人に報告して貰うことで事例データを集積し、そのデータを分析することにより迅速に問題を特定しようという取り組みです。2017年にANSESは、このシステムに寄せられたデータをもとに、アスリート用フードサプリメントや妊婦用フードサプリメントの注意喚起を行っています。
国内では2017年7月に独立行政法人国民生活センターが、「プエラリア・ミリフィカ」を含む健康食品による危害事例の増加を発表したこと、農林水産省が天然のシアン化合物を含むとしてビワの種子粉末を食べないよう注意喚起したことがニュースになりました。
EFSAがテトロドトキシンを評価
2016年にオランダ産の二枚貝(牡蠣)からテトロドトキシン(TTX)が検出されたことを受けて、欧州食品安全機関(EFSA)が海洋二枚貝のTTXについて行ったリスク評価結果が2017年に発表されました。
TTXはフグを食べる日本独自の問題と思っている人もいるそうですが、TTXを産生する藻類が存在するところであれば食用水産物に蓄積する可能性があります。たとえばタイでは食用カブトガニのTTXが問題になっていますし、今回のEUのように二枚貝が問題になることもあります。
EUのヒスタミン大規模食中毒
2017年4月頃、スペイン産マグロによる大規模なヒスタミン食中毒が発生しました。スペインはマグロ漁が盛んな地域で他国への出荷もしていますので、スペイン国内に留まらずEU全土の問題になりました。
EFSAが原因究明に関する報告書を発表していますが、特定の原因だけでなく多数の業者が係わっていたことが示唆され、結論としてはフードチェーンの各段階での適切な温度管理と衛生管理を勧告しています。
EU食品寄付ガイドライン
先進国では食品ロスを減らす取り組みが進んでいます。その方法の一つとして食品事業者が食品寄付をするというやり方があり、これを利用しているのがフードバンクです。EUでは、それらの食品の安全性を確保して余剰食品の再分配をやりやすくすることを目的としたガイドラインを公表しました。
ガイドラインによると、通常の食品製造・販売で守るべきこと(衛生管理、履歴管理、等)を原則に、各加盟国が自国の状況に応じて各々に関連規則やガイドラインを作成するよう勧めています。
未承認の遺伝子組換えペチュニア
2017年4月にフィンランド食品安全局(Evira)が流通している一部のペチュニア品種が遺伝子組換え体であったと公表したことをきっかけに、当該品種について複数国で販売停止などの対応がとられました。ただし、一年生の観賞用植物で交雑可能な野生近縁種がなく、環境リスクはないと報告されています。食品には直接関係ないですが、世界規模で話題になり印象に残っているニュースなので最後の一つに選びました。