2016年食の10大ニュース[3]

私のメールマガジン「安心!?食べ物情報」の2016年の記事から、恒例の今年の10大ニュースを拾ってみました。

安心!?食べ物情報
http://food.kenji.ne.jp/
  1. 廃棄物横流し事件
  2. 冷凍メンチカツでO157食中毒
  3. 水素水ブーム
  4. 鳥インフルエンザ
  5. 漁業の大不振
  6. 北海道の洪水被害など
  7. 築地市場移転延期
  8. 輸入米価格偽装
  9. 新製造所固有記号/原料原産地名表示
  10. 受動喫煙防止

1. 廃棄物横流し事件

 年初に起った事件ですが、廃棄物として引き取った食品を転売するという、二重の詐欺事件がありました。

 今回は廃棄物を出した壱番屋の従業員が発見して通報したということですが、これまでもやっていたのでしょう。この産廃業者の社長は先日有罪判決を受けています。

 業者に渡す前に転売できないように破壊しておくべき、という意見もありましたが、二度手間というものでしょう。要は「信頼できる業者」に「適正な価格」で破棄を依頼するということにかかっていると思います。

 産廃業者が利益を出せるような適正な料金設定も必要です。ここをケチると、悪の循環が始まるのは、公務員の給与を下げると汚職がはびこるというのと似ています。

 なお、私はできるだけ廃棄よりもフードバンクのようなシステムを通じて社会に還流させる方がよいと考えています。

2. 冷凍メンチカツでO157食中毒

 これは年末に近い時期のニュースでしたが、O157に汚染された食品の場合、家庭での通常の調理では食中毒を防ぎきれないということが示唆された、重大なものです。

 今までは最終的には家庭で揚げるのだから、細菌についてはあまり考えなくてもよいということでしたが、今後「未加熱・加熱後摂取」という食品はなくなっていくべきと思います。

 工場で安全な温度まで加熱処理をしてあり、そのまま解凍しても食べられるし、家庭で揚げてもよい、という形が望ましいのではないでしょうか。

3. 水素水ブーム

「水素水」という、わけのわからないものが大いに流行したそうです。

 医療の分野で、水素を使う医療行為については研究されているそうですが、市販されている水素水はそれとは関係ありません。

 値段も比較的安く、害もなく、「水分の補給」という立派な効果がありますので、「理想的な健康食品」であると(皮肉を込めて)言えると思います。

 少なくとも水素水を飲んでいる方が、高価で怪しげな健康食品よりもずっとよいはずです。

 ということで、私は水素水ブームは暖かく見守るつもりです。

4. 鳥インフルエンザ

 現在進行形のニュースですが、今年は久しぶりに重大な流行になりそうな気配です。

 韓国で壊滅的な被害が出ているので、どうしてもこちらに飛び火してきます。野生の鳥に入国禁止と言っても仕方ありませんし、何とか鶏舎への侵入を防ぐことに成功してほしいものです。

 韓国については近所迷惑なものですが、管理の杜撰さ以外にも、あそこには非武装中立地帯という野鳥の楽園があることも関係していると思います。一説には、朝鮮戦争後、朝鮮半島を経由して渡って来る鳥が増えたのだとか。

 動物園でも対策に苦慮しているとか。何とか被害の拡大を防いでもらうよう、期待しています。

5. 漁業の大不振

「不漁」で検索すると、サンマ、サケ、スルメイカ、ウナギ、カツオなどなど、実に多くの魚類の不漁がニュースになっています。

 かつてニシンを獲り尽くしたのと同じことを、他の魚でも再現しようとしています。

 今は個人の釣り舟にも、GPSと魚群探知器が搭載されています。昔と違って獲ろうと思えばいくらでも獲れる時代になったのです。その結果が乱獲――資源の減少ということになっています。

 解決策は禁漁または漁獲制限しかありませんが、自主的な規制は困難ですし、国もやる気がないようです。

 ここは環境保護団体の出番と思いますが、いかがなものでしょうか。

 ついでに言うと、原発事故以来休業状態の福島県近海では、資源の回復が見られるとか。すでに放射性物質の影響もなくなっていて、操業は可能なようですが、せっかくの資源回復が元の木阿弥にならないよう、慎重な対応を期待しておきます。

6. 北海道の洪水被害など

 今も北海道では大雪のニュースが流れていますが、今年は北海道は災難続きでした。

 食糧の生産に関しては北海道の比率は大きいので、北海道で被害が出るとすぐに価格に影響してきます。

 幸い、洪水の直後に言われていたほどの生産の落ち込みはなく、かなり復活したようですが、全体としては被害は深刻なものでした。

 自然災害はどうしようもない、とも言えますが、少しでも被害を減らせるような努力は続けていくべきでしょう。

 こういうニュースを聞くたびに、「コンクリートから人へ」というスローガンがいかに異様で間違ったものであったかと思います。

7. 築地市場移転延期

 今年の夏の話題に、東京都知事選挙がありました。大方の予想どおり小池知事の誕生となったのですが、その後迷走を続けています。期待して損をした、という感が強いですね。

 その最たるものが、オリンピック施設での無意味なもめ方と、築地市場の移転延期です。

 私は当初、確認のための延期で、年度内には解決するつもりだと見ていたのですが、これは間違っていて、1〜2年はかかるなどと平気で言っています。

 政治的な眼のつけどころはよいのですが、現状認識があまりにお粗末だと思います。

 老朽化し、不衛生極まりないと言われる現市場を延命させて、何かよいことがあるとは思えません。今からでも遅くないので、一刻も早く移転を決断してほしいものです。

8. 輸入米価格偽装

 1993年の米不作の際にひどい目にあって以来、米穀業界を目の敵にしているのですが、相変わらずひどいものだというニュースでした。

 輸入価格を不当に高く申告して、その差額をリベートとして米穀業者に渡すという手口ですが、これは国の確保するはずだった差益を掠め取る詐欺行為です。

 その後の対応を見ていると、バレてしまったので改善はするが、以前の不当利益については不問にするようです。

 私は農水省の役人もグルだったのではないかと疑っていますが、ますます怪しいな、というところです。

9. 新製造所固有記号/原料原産地名表示

 食品表示関連で、4月に新製造所固有記号のデータベースがスタートしました。法律が施行されたのに、運用の内容が決まらないという異常事態が一年続きましたが、ようやく解消したわけです。

 そろそろ「+」記号のついた、新しい製造所固有記号を表示した商品も出てきています。

 製造所固有記号については、原則は製造所表記ですので、例外的にしか使われないはずですが、実際には大手はほとんど固有記号を使用して、製造所表記をうやむやにするという方向に進みそうです。

 厳しく審査して、固有記号の使用を認めない……ということはやりそうにないです。

 それから、「原料原産地名表示」をすべての加工食品に強制するといいうトンデモな案が提起されていて、消費者庁はどうしてもやる気のようです。

 もともとTPP関連の農業対策として考え出されたものですが、いかにも姑息です。

 実行可能は「国産マーク」表示である、という意見がチェーンストア協会から出ているようですが、これが正しいと私も思います。

 目的は加工食品の原料に国産品を使われていることを表示したいというものですから、一定の条件を満たした加工食品に「国産マーク」をつけるのが、簡単で消費者にもわかりやすい方法です。

 そもそもTPPが絶望的なんだから、アホな「対策」も取り下げればいかが?

10. 受動喫煙防止

 最後は明るいニュースで、東京オリンピックに向けて、受動喫煙防止の対策がようやく始まりそうです。

 近年のオリンピック開催地で、自由にタバコが吸える都市はなかったそうですので、今のままでは世界に恥をさらすことになります。「全面禁煙で客が減る」と反対する向きもあるようですが、自分の店だけでなく、全体で禁煙になるのですから、影響は出ないはずです。

 分煙設備を設置できる大手に客が行くとか心配しているようですが、それなら「分煙は認めない、すべての店で完全禁煙を!」と言うべきでしょう。

 そもそも、禁煙で客は減らないと思います。タバコを吸う客は減っても、そうでない客は増えます。タバコを吸うのは長時間粘って売上に貢献しない客、吸わないのは客単価も高く、お行儀もよい客、というのは私の偏見でしょうか。


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About 渡辺宏 5 Articles
Webサイト「安心!?食べ物情報」主宰 わたなべ・ひろし 1974年から1998年まで生協に勤務し仕入れや商品開発にかかわる。1999年Webサイト「安心!?食べ物情報」を開設し、生協時代の経験を活かした、食に関する情報発信を行う。メールマガジン「安心!?食べ物情報 Food Review」を毎週発行中。また、その前年からWebサイト「宮沢賢治の童話と詩 森羅情報サービス」を運営している。2010年、中国・大連に食品販売会社を設立、総経理となる。著書に「『食の安全』心配御無用!」(朝日新聞社)、「食の安全 裏側の話―元生協仕入れ担当者が明かすつくり手の事情・消費者の言い分」(カザン)。和歌山市在住。