2016年食の10大ニュース[4]

遺伝子組換え技術の多面的な実用化やゲノム情報の活用が少しずつですが着実に進んでいます。これからはヒトのゲノム情報が、医療だけでなく日々の食生活を通じた健康の維持・増進とつながっていくようです。食の分野では原料原産地表示をめぐる議論も大きな話題ですが、食と技術の未来を考えながら、2016年の10大ニュースを選びました。

 今年、筆者の心に残った出来事の一つに「ポナチニブ」という抗がん剤の製造販売承認の取得があります。ある医療機関の治験審査委員としてそのプロセスを見守ってきたことから、新しい技術と社会について考えることができました。そこで学んだことは食の安全を守ることとの共通点もあると思いますので、後日、改めてご報告したいと思います。

  1. 遺伝子組換え“ワクチン米”の共同研究進む
  2. 遺伝子組換えパパイヤが外食にも登場
  3. 原料原産地表示の検討
  4. 消費者直販型遺伝子検査(DTC)の認定を開始
  5. 機能性表示食品の増加と評価
  6. 新生農研機構が発足
  7. 花粉症治療米粉末の試料提供開始
  8. ゲノム編集を用いたトマト、トラフグの研究進む
  9. 日本ゲノム編集学会発足
  10. 植物分野のゲノム編集説明資料を公開

1. 遺伝子組換え“ワクチン米”の共同研究進む

 東京大学医科学研究所とアステラス製薬株式会社はコレラ、毒素原生大腸菌を対象とした経口コメ型ワクチン「MicoRice CTB」(ムコライス)の共同研究契約を締結しました。遺伝子組換え技術を用いて、コメのタンパク質に無毒性であるコレラ毒素Bサブユニット(CTB : Cholera toxin B subunit)を発現させるものです。

メッセージ(東京大学医科学研究所炎症免疫学分野)
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/enmen/message.html
経口コメ型ワクチンに関する共同研究契約締結のお知らせ(アステラス製薬)
https://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/post-243.html

2. 遺伝子組換えパパイヤが外食にも登場

 夏の期間限定で遺伝子組換えウイルス抵抗性パパイヤ「レインボー」が、中華ファミリーレストランなどで「ハワイ産パパイヤ レインボー」という名前でデザートやスムージーなどとして登場しました。

3. 原料原産地表示の検討

 2015年に策定された食品表示法をもとに、原料原産地表示に関する検討が行われ、可能性表示、大くくり表示などの提案に対して賛否両論の意見が寄せられています。

4. 消費者直販型遺伝子検査(DTC)の認定を開始

 個人遺伝情報取扱協議会(CPIGI)は、インターネットなどを通じて販売されている遺伝子検査キットの技術面、倫理的配慮などを含めて健全な育成を目指し、自主基準による消費者直販型遺伝子検査(DTC)の認定を実施しました。

 機能性表示食品、栄養成分に配慮した宅配弁当などの食の分野と、遺伝子情報を取り扱う分野の連携が始まっています。

5. 機能性表示食品の増加と評価

 機能性表示食品の消費者庁への届け出は500件を超えました。消費者市民社会をつくる会(ASCON)では科学者委員会を設置し、科学的根拠(論文)の状況をもとに申請書類の評価を行いました。

6. 新生農研機構が発足

 4月、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)は、国立研究開発法人農業生物資源研究所、国立研究開発法人農業環境技術研究所および独立行政法人種苗管理センターと統合して、一つの国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構となりました。本部、5地域農業研究センター、7研究部門、3重点化研究センター等から成る大所帯です。

7. 花粉症治療米粉末の試料提供開始

 農研機構は、「スギ花粉ポリペプチド含有米」および「スギ花粉ペプチド含有米」の用途開発と実用化の加速のために、研究用試料を用いた研究計画を募集しました。採択された3つの組織が試料提供を受け、研究を進めています。

8. ゲノム編集を用いたトマト、トラフグの研究進む

 日本国内でも、ゲノム編集技術を用いたトマトやトラフグの研究が進み、実用化が期待されています。遺伝子組換え生物として安全性確認が必要性に関する規制の方向性が、企業の参入に大きく影響すると考えられます。

9. 日本ゲノム編集学会発足

 日本ゲノム編集学会(http://jsgedit.jp/)が発足し、9月第1回大会が行われました。技術講習会を開催したり、倫理的な配慮について検討を行ったりしています。

10. 植物分野のゲノム編集説明資料を公開

 くらしとバイオプラザ21では内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP)の中で、植物分野におけるゲノム編集技術の説明資料を作成、公開しました。以下のサイトからダウンロードできます。

私たちのそして世界の食生活を支える育種技術〜未来への可能性を秘めた新旧技術〜
http://www.nbt-japan.com/archives/miraiheno.html

《特別企画》2016年食の10大ニュース[一覧]

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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。