2015年食の10大ニュース[9]

農業に関する話題をまとめました。

  1. TPP交渉の大筋合意
  2. 改正農協法成立
  3. 有機JAS適合用含む肥料で成分偽装
  4. 米先物取引の試験上場が再延長
  5. 機能性表示食品制度始まる
  6. 地理的表示保護制度始まる
  7. 農業を科学する研究会発足
  8. 2015年ミラノ国際博覧会・日本館の主役が食
  9. 平成27年9月関東・東北豪雨
  10. 「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」公開

1. TPP交渉の大筋合意

 実は年初まではてっきり交渉しているポーズだけ見せて漂流させるものだと思っていたので、大筋合意となって実は驚き、関係者に申し訳なかったことだと思いました。

 今後は農業について攻めの姿勢が取れるところとそうでないところで評価も成否もはっきり分かれてくるでしょう。攻めというのは輸出だけの話ではありません。日本国内が世界有数の食マーケットであることをお忘れなく。

 また、かつてのウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業費のほとんどが有効でなかったこと、それへの批判があることを、国はよく理解しているはずで、農業関係者はそのことも忘れてはいけないでしょう。

2. 改正農協法成立

 施行は2016年4月。JA全中の監査・指導権をなくし、理論的には単協は身動きが取りやすくなるでしょう。

 非営利規定を廃止して「農業所得の増大に最大限配慮するとともに、的確な事業活動で高い収益性を実現し、農業者等への事業利用分量配当などに努めることを規定する」というのもいいでしょう。

 地域の農業法人のほうが遥かに農協らしい働きをしているという例が多い今日、力を発揮する単協が多く現れてくることを祈ります。

3. 有機JAS適合用含む肥料で成分偽装

 太平物産の製品が実際の成分と表示内容が異なるということが発覚。有機JAS適合に必要な有機肥料のメーカーとして有名であっただけに、有機栽培・特別栽培に取り組む方面に衝撃が走りました。

 ブランドの決め手となる部分を他社に委ねるリスクを改めて感じさせる事件でした。

4. 米先物取引の試験上場が再延長

 2011年から2年間と期限を切ってスタートし、2013年から2年間つまり今年8月までの延長が決まっていた米先物取引の試験上場。廃止も危ぶまれていたところ、2017年8月までの再延長が決定しました。

 ただし農林水産省としては、それ以降の延長は認めない方針とも。本上場に移行する上でカギとなる出来高、昨日の大納会では「今年の出来高は前年比46.6%増の35万5301枚で、1日平均の出来高は1456枚」(産経)。本上場移行の目安は1日平均3000~4000枚とのことで、大阪堂島商品取引所もこれからが正念場。

 先物取引は生産側にとっても需要側にとっても売上高・仕入値を安定させやすくする仕組み。量と品質が安定しているものなら先物市場はあっておかしくないもので、それが成り立たないとなれば日本の農業の歪みを印象づける新たな証拠となるでしょう。

5. 機能性表示食品制度始まる

 消費者庁に届け出れば食品に機能性表示を行うことが可能に。農業の話題としての注目ポイントは、これが生鮮品を含む制度であるという点。

 ただし、届出は「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして」行うもの。ということは、届出に際してエビデンスをそろえ、また万一安全性や機能性に問題があったり、実際に健康被害が起こったときには責任を取る必要があるわけです。

 もう一度農商工連携の形を考え直す材料となるでしょう。

6. 地理的表示保護制度始まる

 地域で長年培われた特別の生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性により、高い品質と評価を獲得するに至った産品について、その名称を「地理的表示」という知的財産として保護する制度。

 地理的表示の保護は世界的な流れであり、日本も制度化を迫られたわけだが、TPP同様に攻めの勢いを加速するものとして活かしていきたいもの。

7. 農業を科学する研究会発足

「『よい農産物』とはどんな農産物か?」執筆者の岡本信一さんと彼が推進する農業技術に賛同するメンバーが集まって研究会を起ち上げました。

 岡本さんの考え方は農業に統計的プロセス制御を導入するものであり、これまでの日本の“農業の常識”をひっくり返し得るものとして注目しています。

8. 2015年ミラノ国際博覧会・日本館の主役が食

 現地を見ていないので手放しの評価は避けますが、日本の農林水産物と日本の料理人の料理が大々的に紹介され好評だったようです。

9. 平成27年9月関東・東北豪雨

 平成26年豪雪に続き、今年も気象に起因する大災害が起きました。茨城県常総市付近の鬼怒川をはじめ、80を超える河川で堤防の決壊、越水、漏水等が発生し、農地も大きな被害を受けました。

 河川の管理は行政がしっかりしてもらいたいものですが、経営上のリスク管理の重要性をまた思い知らされる出来事でした。

10. 「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」公開

 日本の農林水産業に関する映画の公開が昨今散見するなかで、とくに日本の研究者の成果が世界の食糧供給に大きな貢献をしたことを思い起こさせる映画が公開されたことの意義は大きいと思います。

“クールジャパン”でおいしいものとアニメとファッションを売り出すのももちろんいいのですが、今一度「バイオ立国」を真剣に考えていきたいものです。

●「NORIN TEN 稲塚権次郎物語」のコメとムギ(rightwide)
https://www.foodwatch.jp/screenfoods0110/

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →