外食分野。トップ3は、“肉”人気、教育制度、サードウェーブ。
- 原価高騰も衰えぬ“肉”人気
- 熾烈化する食べ放題業態の競争
- 人手不足深刻化、教育制度導入相次ぐ
- 拡散するコーヒーの「サードウェーブ」
- 居酒屋を襲う「ちょい呑み」包囲網
- 外食企業の「上場熱」ヒートアップ
- 始まった「団塊世代=シニア市場」の争奪戦
- 強まる生産者との結びつき
- 広がるインバウンドのニーズ
- 熟成魚、サバ、のどぐろ、地魚――細分化する専門店
(順不同)
1. 原価高騰も衰えぬ“肉”人気
2014年から引き続き、肉業態の人気が高まった1年だった。居酒屋チェーンのつぼ八(東京都中央区、塩野入稔社長)が開発したフードコート向けのステーキ業態「ニューヨークステーキファクトリー」は計画値を大幅に上回る出足を見せたほか、大庄が開発した肉バル「RUMP CAP」(4月15日、東京・神田にオープン)も好調だ。また、「大阪王将」のイートアンドも、札幌に「サッポロボーン」をオープンして肉バル業態に参入、多店舗化を狙っている。
コロワイド東日本(現コロワイドMD/横浜市西区、四方田豊社長)も1月に居酒屋「うまいもん酒場えこひいき」ブランドをシュラスコなどを売りにする「肉酒場エコヒイキ」へと“リ・コンセプト”し、居酒屋でシュラスコを取り扱う珍しいケースとして注目された。ワンダーテーブル(東京都新宿区、林祥隆社長)が展開する本場のブラジルのシュラスコ業態である「バルバッコア」も、出店を増やした1年だった。
4月には「渋谷肉横丁」が増床し、3階に「渋谷肉横丁離」が誕生。ラム肉専門店など7店舗が出店した。中小のベンチャー系でも、もつ焼きの「串屋横丁」や肉酒場「小松屋」を展開するドリーマーズ(千葉県茂原市、中村正利社長)が初のイタリアン業態として、Tボーンのビステッカ(Bistecca)を名物としたイタリアンステーキの店「ビステッケリア・コマツヤ・ギンザ」を2月にオープンするなど、肉酒場や肉バル、肉ビストロといった業態が全国的に増殖した。
塊肉やTボーン、Lボーンといったダイナミックな部位を中心に、ここ数年注目の高まっていた熟成肉も依然として人気が高かった。
日本酒の酵母と乳酸菌を使った独自の熟成方法を取っている「六花界」(東京都千代田区、森田隼人代表)の新店舗「CROSSOM MORITA」が11月、都内にオープン。独自の熟成方法に加え、お客が買った肉を熟成させ、次回来店時に提供するという「ミートキープ」という仕組みを構築し、話題づくりのためにクラウドファンディングで資金調達した。完全予約制の“劇場型飲食店”を展開する同社が「焼肉屋の店主から焼肉屋の料理人へと昇華させる」新たな挑戦が「CROSSOM MORITA」だ。
また、ファミリーレストラン(FR)でもステーキが人気になるなど、専門業態の増加だけではなく幅広い業態で肉メニューの人気が衰えることなく支持された。
しかし、仔牛の価格が跳ね上がったことによる牛肉価格の高騰は深刻で、牛だけでなく、豚や、為替の影響を受けた馬にもこの価格高騰の波は及んだ。
2016年につながる動きとしては「牛カツ」人気の高まりだろう。2016年は「牛カツ」が大きくブレイクしそうな気配だ。
2. 熾烈化する食べ放題業態の競争
居酒屋最大手のモンテローザ(東京都新宿区、大神輝博社長)が2015年5月、東京・三鷹に「しゃぶ食べ」を出店して新たに市場参入するなど、食べ放題業態の中でも、焼肉に並んで参入が相次いでいるのが「しゃぶしゃぶ」だ。
すかいらーくグループのニラックス(東京都武蔵野市、崎田晴義社長)が展開するしゃぶしゃぶ店「しゃぶ葉」もFRと競合しない専門業態として展開が進んでいる。過去にはショッピングセンター内のビュッフェ業態として展開してきたが、業態転換によって郊外ロードサイドでも拡大している。「しゃぶ葉」はすかいらーくグループが今後の拡大を見込む業態として重要視しており、店舗展開の拡大を見込んでいる。2015年11月末現在で84店舗を展開する。
注目されるのは客層の幅広さだ。食べ放題形式のしゃぶしゃぶ店は親子3世代のファミリーだけでなく、ヤングファミリーにも親しまれている。業態によっては女性の集客が増えるといった傾向も見られている。
主な食べ放題形式のカジュアルなしゃぶしゃぶ提供店を見ると、和食FRでは、サトレストランシステムズの「和食さと」をはじめ、ゼンショーホールディングスの「華屋与兵衛」、すかいらーくの「夢庵」や「藍屋」、KRフードサービス(大阪市中央区、中川晃成社長)の「かごの屋」といった業態が導入を進めている。しゃぶしゃぶは、近年、大手和食FRで導入が広がってきたメニューだ。
専門業態では、最も店舗数が多いレインズインターナショナル(横浜市西区、松宮秀丈社長)の「しゃぶしゃぶ温野菜」をはじめ、すかいらーくグループのニラックスが展開する「しゃぶ葉」、吉野家ホールディングスグループのアークミール(東京都北区、長岡祐樹社長)が展開する「どん亭」、物語コーポレーションの「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」(以下「ゆず庵」)、ワンダイニングの「きんのぶた」などといった業態が中心だ。専門業態を展開する外食企業ではオーダーバイキング形式の焼肉店を展開している事例も多く、食材仕入れやオペレーションといった点で相乗効果を高めている。
焼肉店やラーメン店などの複数業態を展開する物語コーポレーションは「ゆず庵」を成長の柱と位置づける。しゃぶしゃぶだけでなく、すしなどの和食をオーダーバイキング形式で楽しめる専門業態として拡大を狙う。利用者はテーブルに設置されたタッチパネルで注文し、従業員が各席にメニューを届ける仕組みだ。コックレスで展開できるシステムを構築したことで、今後の出店戦略の柱と位置づける。同社の「焼肉きんぐ」や「お好み焼本舗」と比べるとよりシルバー層に強い業態であり、宴会需要も見込めることから今後の成長余地を大きく残している。
もともと、しゃぶしゃぶ店は高級業態が多く、早くからチェーン化した企業も木曽路の「木曽路」ぐらいであり、市場としての拡大も限定されていた。ところがここに来て食べ放題形式を採用したカジュアル店舗が増えたことで、しゃぶしゃぶ市場そのものが拡大している状況なのだ。食べ放題形式を採用したカジュアルな店舗が市場の拡大を担う存在として、今後も成長が見込める。しゃぶしゃぶ店の市場全体で見ると、近年は食べ放題形式を採用したカジュアルな業態が店舗を増やしているため、増加傾向が続く。しゃぶしゃぶ市場全体は1,200億円前後で、前年を数ポイント程度上回る成長が続いていると見られる。
3. 人手不足深刻化、教育制度導入相次ぐ
「大阪王将」を展開するイートアンドは、「Chef’s Portアカデミー」を2015年1月16日、東京・神田に開校した。飲食・ホテル業界を目指す人(業界経験者および未経験者)を対象に、基礎講習およびスキルアップ講習を無料提供(材料費など一部自己負担有り)。講習に関しては、専任講師が各々の経験年数に応じて、受講者1人1人に合った講座内容を提案し、「MBAのような形で、飲食業界に合った実践的な授業を提供する」(同社)と説明。
また受講完了後の就職・転職をバックアップすることで、飲食業界全体の人材不足解消を担うことを目的とする。スキルを身につけた生徒が就職する際に、企業を斡旋する際の手数料で成り立たせるビジネスモデルだ。人材が足りないなら、飲食業界を目指す人材を自ら育成しようという動きだ。
「テング酒場」などの居酒屋を展開するテンアライドは、2015年3月期の人件費率が前期比0.2ポイント上昇し38.4%となったことで、収益が悪化した。そこで同社は、収益改善とともに人材の拡充を目指して、パート・アルバイト(P/A)、社員の採用に向けて新たな施策を盛り込んだ。その施策とは外国人のP/Aの採用と社員の「働き方の多様化への対応」だ。具体的には限定社員制度という、地域、時間、ポジションをそれぞれ限定する3種類の枠組みを設けた。それぞれ働きやすい柔軟な環境を整備することで社員の採用につなげ、P/Aの採用に関しては、日本語学校と連携して外国人留学生の採用を進めている。
物語コーポレーションも外国人採用を強化。2015年度入社の新卒社員のうち、外国人社員は全体の2割強に達した。外国人の採用でポイントとなるのは定着だ。同社でも試行錯誤をしてきた。教育研修の機会を設けるだけでなく、受け入れる店長が積極的に話を聞いて「通常の社員よりも目をかけてフォローをする」といった考えが浸透している。さらに外国人社員を集めたインターナショナル社員支援ミーティングを複数回実施。インターナショナル社員支援ミーティングは営業部門の社員を含めず、経営者、採用・教育などの部門の担当者が参加して、悩みや要望、不満などを話しやすいように配慮している。
コロワイドグループ入りしたカッパ・クリエイト(横浜市西区、五十嵐茂樹社長)は、2015年4月に人材育成機関「カッパ・アカデミー」を設置した。「カッパ・アカデミー」は新たに始めた取り組みで、階層別研修の実施、店舗関連情報の共有化、教育トレーナーチーム派遣といった施策を進める。とくに店舗関連情報の共有化では、各店舗での成功や失敗の事例を共有化することで「店長力を高める」。教育トレーナーチームは店舗で集中的に課題を洗い出して解決策に取り組む。
教育とともに採用方法も多様化し、人材の安定確保を目指す。現場の中心戦力であるP/Aの雇用を厚くする。P/Aから社員への登用制度を設置し、団塊の世代を意識して、P/Aの定年年齢は70歳まで延長した。こうした取り組みで、P/Aに厚みを持たせている。
4. 拡散するコーヒーの「サードウェーブ」
コーヒーの第3の波「サードウェーブ」。ハンドドリップで1杯ずつ丁寧に淹れるスタイルが世界中でトレンドになった。“コーヒー界のApple”とも呼ばれているアメリカで大人気のコーヒーショップ「Blue Bottle Coffee」(ブルーボトルコーヒー)が東京・清澄白河に2015年2月6日にオープンして、一気に話題になった。
サードウェーブ系のコーヒーショップが扱うコーヒー豆は、どんな品種で、どの国、どの地域、どの農園から出荷されているかまで明確になっている点が特徴だ。さらに、浅煎りを最も豆の持ち味を活かせる焙煎度合いとし、1杯ずつペーパードリップで入れるのも特徴である。「Blue Bottle Coffee」の日本初上陸によって、その後、コーヒーショップの出店が相次ぎ、清澄白河はサードウェーブ系コーヒーショップのメッカに早変わりした。
国内大手もサードウェーブには注目している。ユーシーシーフードサービスシステムズ(UFS/東京都港区、井上雅雄社長)は、新業態「MELLOW BROWN COFFEE」(メロウブラウンコーヒー)の本格展開をスタート。商品・空間・サービスにこだわったUFS独自のサードウェーブ業態として内容が固まったことから、1月25日オープンの自由が丘本店(東京・自由が丘)をモデルに店舗展開を進める意向だ。コーヒーの抽出技術やノウハウを活かした業態として、「今後2~3年かけて約20店舗」(梅下雅英取締役兼フルサービス事業本部本部長)を目処に、住宅街や商業施設立地などへの出店を進める。
「メロウブラウンコーヒー」の売りは、常時6種類をそろえる単一産地のコーヒー豆(シングルオリジン)を使ったコーヒーとワッフルパンケーキ。コーヒー豆は2カ月に1回程度のペースで入れ替える方針で、6種類の豆をサイフォンやペーパードリップ、ステンレスフィルター、コーヒープレスといった4つの抽出方法から選べるようにしている。6種類のコーヒーは、オープン時は「グアテマラ カップ・オブ・エクセレンス1位 エルインヘルト農園」1,300円(税込、以下同)や「パナマ ゲイシャ サンタテレサ農園」780円などを提供する。
こうしたサードウェーブの波は、元々のカフェ人気にも乗ってジワジワと地方にも拡散中だ。
5. 居酒屋を襲う「ちょい呑み」包囲網
吉野家ホールディングスグループの京樽(東京都中央区、森下裕一社長)が、料飲動機業態に参入した。新たな事業として立ち飲みスタイルを採用した二毛作業態「立ち呑み 凪○」(なぎまる、以下「凪○」)を開発し、1月31日に東京・門前仲町の商店街立地に出店。新たな需要の開拓に動いた。「ちょっと一杯飲みたい」という料飲動機を狙った提案であり、「軽く飲める業態は少ないので需要がある」(同社)と分析する。持ち帰りずし、回転ずしに続く事業として育成に当たる方針だ。
吉野家ホールディングスグループでは「吉野家」を始めとした業態で、ちょっと一杯飲みたい」といった利用動機を開拓する提案を採用している。商圏ニーズへの対応や既存のノウハウを活用した新たな事業展開の一環と捉えており、同社でも約1年間に渡って準備を進めてきた。持ち帰りずしや回転ずしのノウハウを活かし、すしや刺身といったメニューをそろえるとともに、テイクアウトや回転ずしとは異なるニーズを開拓する狙いだ。回転ずし業態でアルコールメニューを提供しているが、夜のアルコール需要を取り込める業態を開発するのは初めてのことである。
「リンガーハット」では、東京都内などの都心部を中心に居酒屋モデルの構築に着手しており、すでに居酒屋モデルの店舗を20店舗展開しているが、利用客には「(食事利用の店としての)『リンガーハット』として捉えられており、アルコールを楽しんでもらうことが難しい」との課題を残していた。食事をしている利用者と混在することから「アルコールを楽しめる雰囲気にならない、といった声も多かった」と言う。こうした反省点を活かして、時間帯によって店舗を明確に分ける業態「ちゃんぽん酒場」を開発した。
「ちゃんぽん酒場」は東京・浅草の「リンガーハット浅草店」2階部分を改装して開店。16時までは「リンガーハット」として営業し、16時からが「ちゃんぽん酒場」の営業となる。「ちゃんぽん酒場」の時間帯には専門の居酒屋メニューを提供するとともにユニフォームも変更する。30代以上のビジネスマン層やOLを中心に集客し、軽いアルコール需要を開拓しながら売上増を目指す。「ちゃんぽん酒場」の導入により、導入前との比較で売上高を30%増やす狙いだ。
これまでの居酒屋タイプは「リンガーハット」の延長線上の位置付けで、食事をしている人、アルコールドリンクを楽しむ人の双方にとっても落ち着かない状態だったが、時間帯に応じて「ちゃんぽん酒場」として営業することで利用動機を明確化した。ターゲットは1時間程度の利用。客単価も1,000円弱の水準で、つまみとドリンク1~2杯で滞店時間は約1時間という計算。これまではアルコールを楽しんでいる利用客にもちゃんぽんを最後に食べてもらうことを想定していたが、「ちゃんぽん酒場」は「あくまでも軽いアルコール動機への対応を意識している」(川内辰雄執行役員)と言う。
「ちゃんぽん酒場」のメニューはつまみとなるギョーザと串焼きを中心とした構成とした。「ちゃんぽん酒場」の営業開始2時間前ほどから居酒屋メニューの仕込み作業に入る。「リンガーハット」のギョーザは自社工場で生産したものを提供しているが、「ちゃんぽん酒場」では店舗でフィリングも手づくりしたものに切り替えることで「まずは品質を高めたメニューで評価を判断する」。
ギョーザは、「ぎょうざ3個」150円(税別、以下同)、「鉄鍋パリパリぎょうざ10個」390円のほか、「黒豚巻きぎょうざ」360円など、6種類をそろえる。串焼きは野菜に強い「リンガーハット」の特徴を活かして国産野菜を豚肉で巻いて「野菜豚(とん)焼き串」として提案。10種類で各180円をそろえる。このほか、九州で支持を集めているちくわにフライドポテトを入れて揚げた「ポテちく揚げ」390円、〆のメニューとして小サイズの「〆のちゃんぽん」500円も用意する。
ドリンクメニューは「ビールメーカーと協力してアイテムを開発した」として、生ビール、ハイボール、酎ハイ、シャリ酎ハイ、生しぼりサワーといったアイテムを用意する。「シャリ酎ハイ(レモン、グレープフルーツ)」各350円は、凍らせた水と焼酎に炭酸水とシロップを加えて涼感のあるドリンクとして提案。生ビールは「アサヒスーパードライ」290円、「アサヒスーパードライエクストラコールド」510円などをそろえる。
すかいらーくの「ゆめあん食堂」は定食などの食事メインの業態だが、「ちょい飲み天ぷら」330円や「おぼろ冷奴」120円、「ひれかつ煮」620円など19品のつまみをそろえる。また、17時以降に生ハム食べ放題・ワイン飲み放題にして支持を広げているフレッシュネスバーガーの夜ブランド「フレバル」も年末までに100店舗程度まで拡大している。
このほかにも、中華FRの「バーミヤン」や「中国ラーメン 揚州商人」などでも、小皿メニューを拡大し、ちょい呑み需要を取り込む動きがあり、お通しのない「ちょい呑み」業態の居酒屋包囲網が強まった1年だった。
6. 外食企業の「上場熱」ヒートアップ
2014年に新規上場を果たしたのは、鳥貴族、ホットランド、すかいらーく、SFPダイニングの4社で、近年、1年間に4社が新規上場することはなかったが、株高を背景に新規上場が増えた。また、2月16日には、エスエルディー(東京都渋谷区、青野玄社長)がJASDAQ(ジャスダック)への、ヒューマンウェブ(東京都中央区、吉田琇則社長)が東証マザーズへの上場承認を受けている。ともに売上高30億円台の成長企業で、事業拡大に向けて上場を選んだ。
外食企業が上場することで、金融機関から資金を調達する際や物件契約上での信用力向上が有利に働く。今のご時世で言えば、人材採用時の知名度向上というメリットも大きい。3月19日付の JASDAQ市場上場が承認されたエスエルディーは、主力ブランド「kawaraCAFE&DINING」を中心とした56店舗(ライブハウス2店舗含む)を展開。
上場の目的について同社では「『社会の公器である企業は、そもそも社会に対して公開された存在であるべき』という弊社代表、青野(青野玄社長)の考えから、創業当初より上場を検討してきた」(エスエルディー)と言う。同社は今後も店舗展開を続ける方針で、来期は10店舗の新規出店を計画。2014年3月期業績は、売上高38億9,500万円、経常利益1億4,800万円、当期純利益9,400万円。
3月19日付で東証マザーズに上場するヒューマンウェブは「ガンボ&オイスターバー」を始めとしたカキ料理専門レストラン28店舗の展開を始め、カキの卸売り事業を手掛ける。2014年3月期業績は、売上高31億6,400万円、経常利益2億1,600万円、当期純利益2億1,600万円。
7月7日には、ダイヤモンドダイニングが東証1部に格上げされたことに代表されるように、指定替えの動きも散見された。また、串カツ田中(東京都品川区、貫啓二社長)、「立ち呑み 晩杯屋」(バンパイヤ)のアクティブソース(東京都品川区、金子源社長)、「SABAR」の鯖や(大阪府豊中市、右田孝宜社長)、「そば助」のビー・スプリングス(東京都台東区、八木大助社長)なども上場を目指すないしは上場準備に入っているなど、上場を視野に入れるベンチャー外食企業が増加傾向にあるようだ。
7. 始まった「団塊世代=シニア市場」の争奪戦
コロワイドグループのコロワイドMDは居酒屋「北の味紀行と地酒北海道」で、昼の宴会需要の開拓を狙い、シニア層をターゲットとした高価格のコースを新たに用意した。これまでにも昼の宴会コースに特典を設けるなど、夜以外の時間帯を開拓する狙いだ。
「北海道の会席料理」は小皿料理で構成されたコースメニュー。タラバガニ、銘柄鶏のきたの黄金鶏、銘柄牛のふらの牛など、北海道産の高品質な食材を使用した料理を少しずつ楽しめることが特徴だ。「北海道の会席料理」の価格設定は5,000円で、全体の半分に当たる30店舗で導入した。うち、8店舗では1万円のコースも用意。通常の昼に実施する宴会コースよりも高めの設定となるが、「高品質なものを少量ずつ楽しみたいといったシルバー層に向けた提案」として新規需要を開拓する狙いだ。
昼間に時間的な余裕があるシルバー層について、同社では新たな需要を持つ層として有望視する。これまで昼の宴会コースを提案して「宴会利用の10%を昼の宴会が占める」までに成長してきた。昼の宴会利用で過半数を占めているのがシニア層であることから「新たな需要がある」と見ている。こうした動きからシニア層のニーズを意識したコースとして開発した。
運営面でもランチ営業や夜の営業に向けた仕込みの時間を活用できるので、「大きな負担が生じにくい」と言う。昼の宴会需要は予約制で人員の配置や食材のロスがないことから、空いている時間帯を活用できるといったメリットも見込める。
2015年には約800万人のボリュームを持つ団塊の世代が前期高齢者(65~74歳)に達しており、昼の時間帯に余裕を持つ高齢者の人口が増えた。一方、二次会需要が取りにくい環境になっていることを考えると、「昼の時間帯に新たな需要を見出せる」としている。
すかいらーくは和食FR「藍屋」でテーブルやイスの見直しに着手した。「藍屋」は掘りごたつ式のテーブル席だけでなく、小上がりも設けているが、小上がりはシルバー層にとって座りにくいことから「座敷席が空いていてもテーブル席を待つ人も多い」と言い、これが客席の効率を下げる要因になっている。そこで、シルバー層のニーズを意識して、小上がりの座席の構造を見直している。座敷席のテーブルの脚を延長することでテーブル高を上げ、着脱が可能なイスを設置する。これによってシルバー層が座りやすくなり、客席効率を高めることが期待できる。現在は6店舗で実験を進めており、今後の拡大を視野に入れる。
ジョイフルはシルバー層の集客で実績を上げている。60歳以上の利用者に対してモーニングメニューを全時間帯で提供しており、シルバー層が多い商圏ほど集客力が高まるといった結果が出た。シルバー層は地域のコミュニティとしての利用が増加。1店舗1日当たりの客数を見ると、シルバー層の客数は計画対比3倍になった。
セブン&アイ・フードシステムズ(東京都千代田区、大久保恒夫社長)は新たな取り組みとして「デニーズ」の新モデルを開発した。新モデルはそばと天ぷらを中心とした和食メニューをそろえており、看板も「そばと天ぷら」の文字を加えて緑色を基調としたものに改めている。新モデルはシルバー層を含めた3世代の利用を見込んだものだ。シルバー層の多い地方や郊外での多店舗化も視野に入れる。
8. 強まる生産者との結びつき
単なる“産地直送”という切り口ではなく、実際に産地を訪れ、生産者と直接的につながった上で取引をするという“生産者直結”の動きが強まった。ご当地酒場でビジネスモデルを確立したファン・ファンクション(東京都中央区、合掌智宏社長)に代表される産地がテーマの酒場も急増。それ以外でも、“生産者直結”の動きは全国的に見られた。
居酒屋「グラスワインと折衷料理 土龍」(もぐら)などを宮城・仙台で経営するカフェクリエイト(仙台市青葉区、八尋豊社長)は「ここで採れたものをもっと知り、全国に推奨する」(八尋豊社長)との考えで「知産地奨 宮城」を掲げ、自分たちの取り組みを全国に発信する。それは「見せかけの生産者とのつながりではなく、真に生産者とお客さんが喜ぶ取り組みをしていきたい」(同)との考えに基づいている。
八尋社長は、たとえば食材の比較試食セットを使い、生産者を店に招き、自らお客に説明してもらっている。これこそが、より地域を知ってもらい、そのよさを発信するという、同社が進める「知産地奨」に合致した営業スタイルなのだ。
こうした事例で見えてきたことは、単に“産地直送”だとか、“生産者の顔の見える野菜”という表現は飲食店側が売るための都合であって、産地のためにもお客のためにもなっていないということ。そして、真に地域活性につながる取り組みは、少なくとも野菜に限れば、できるだけ飲食店の近い地域の生産者と取り組むということ。もちろん、首都圏では米などは中々、地場にはないが、できるだけ近くの生産者と結びつくこと。そうした動きが拡散を広げている。
自社で野菜を栽培する動きも見られた。大手では壱番屋とサンマルク(岡山県岡山市、富樫司社長)がレタス栽培を実験中。中小では2014年6月にオープンした代々木上原の人気店「WE ARE THE FARM」(ウィーアーザファーム)が恵比寿に2号店を出店。同店は千葉に自社農場を持ち、「その日に採れたオーガニック野菜を提供する」ことをコンセプトにする、自らが生産者のパターンだ。オーガニックというだけでなく、交配品種(F1)ではない在来種や固定種といわれる伝統的な野菜を栽培する尖りようで、しかも畑ありきの飲食店だ。この「WE ARE THE FARM」はかなり特殊な例だとしても、こうした“生産者直結”“生産者直営”の店が増加傾向にある。
水産では画期的な物流の仕組みがスタートした。9月末から本格始動した羽田市場は、漁師と直接取引し、オンラインで相対取引を可能にした。この仕組みは、「漁師の収入を上げつつ、飲食店に鮮度がよい魚介類を安く提供する」ものとして注目を集めた。IT技術と人的なネットワークを組み合わせたまさに「デジタルとアナログ」の融合だ。元エー・ピーカンパニーの副社長を務めた野本良平氏が構築した仕組みで、羽田空港内に自社加工センターを持ったことで実現できたものだ。これまで難しかった、どの漁師がいつ獲ったものなのかがわかる「海のトレーサビリティ」を実現した。
北海道に限定した漁港直結の取引が、北海道に地盤を置く飲食企業、ラフダイニング(札幌市中央区、大坪友樹社長)の開発した「SHIHACHI」(シハチ)だ。アプリで受発注をする仕組みで、北海道の20の漁港と契約。3年間の自社店舗での試験を経て実用化した。「あったらいいな」の現場目線で改良を続けている点が、飲食店にとっては使いやすい仕組みとなっていることが特徴だ。こうした漁港もしくは漁師直の取引は今後も拡大していきそうな気配だ。
9. 広がるインバウンドのニーズ
日本政府観光局(JNTO)が発表した2015年11月の訪日外客数(推計値)は、前年同月比41.0%増の164万8,000人で、これまでの11月としては過去最高だった2014年(116万8,000人)を48万人上回った。1月~11月累計では1796万人に達し、累計で過去最高を更新した。
このインバウンド需要の拡大を受けて、大手居酒屋では「年間の利用者数が30万人を上回る見通しとなった」(コロワイド)と、旅行会社などと連携して大都市にある居酒屋業態への送客を強めている。ツアーの利用客は30~40人の規模を最小単位としており、複数の都市を観光する。
コロワイドは東京・大阪・名古屋などの繁華街で客席数100席以上の大規模な店舗を持ち、多業態を展開することで一つのツアーで複数店舗での利用を提案する。2014年度はコロワイドとアトムの合計で訪日外国人旅行者22万人を集客したが、コロワイドでは専門部署を設けて旅行会社やガイドへの営業活動を実施した成果もあり、2015年度は両社合計で30万人以上に達する見込みだ。
同社はグループ会社にオーダー端末メーカーのワールドピーコムを持っており、タッチパネル式の端末を各店舗に設置することで、日本語、英語、中国語、韓国語といった4カ国語のメニューを表示する。「外国人観光客が注文しやすい環境を整備した」ことも需要増加を後押しする要素の一つとなっているようだ。
こうした動きは中小にも波及。ホリイフードサービス(水戸市、堀井克美社長)の「忍家」や銚子丸(千葉市美浜区、石田満社長)でも、外国語メニューを用意することで、外国人観光客の受皿になっている。
訪日外国人のトップスリーは中国、韓国、台湾の順で、個人客も増加傾向にある。個人客ならば席数の少ない中小飲食店でも十分に対応できる。インバウンド獲得の成否は、詰まるところ店側がそうした需要を取りたいか取りたくないかの意識の問題が大きいようだ。積極的に情報発信し、外国語のメニューも用意している店は、インバウンドの恩恵を受けていることは言うまでもない。中国経済の先行きが不安視されているが、来年以降もこのインバウンド需要は拡大すると見られ、「引き続き好調に推移する」との見方が有力だ。
10. 熟成魚、サバ、のどぐろ、地魚――細分化する専門店
2014年11月に開店したレヴェラ(東京都千代田区、大久保崇裕社長)の運営するイタリアンバル「Italian bar VAMPIRO」(イタリアンバルヴァンピーロ)では、宮城県石巻市で水揚げされたアイナメ、マダイ、メバル、ホウボウ、コチなどを神経〆して低温で熟成した熟成魚を導入しているのが特徴。
今年2月16日には、飲食事業と人材コンサルティング事業を行う大阪のリバリュース(大阪市北区、箱部照太社長)が熟成魚と明石漁港昼網直送の鮮魚が二枚看板の「神戸地魚食堂 鯛之鯛」(tai-no-tai)を神戸・三宮にオープンした。そして、6月29日には、ご当地酒場で知られるファン・ファンクションが日本橋に「熟成魚場 福井県美浜町 日本橋本店」をオープンし、昨年来の熟成肉に続いて、熟成魚も話題を集めた。発信力のあるファン・ファンクションが風を当てながら熟成を進める独自のドライエイジング技術で作った熟成魚を核にご当地酒場を作ったことで、注目度も高まった。
サバ専門店で知られる」「SABAR」(サバー)も、サバに特化して業態を居酒屋、そうざい店、小売店の3タイプとして関西・関東で出店を進めた。同社は飲食業界でいち早くクラウドファンディング(ある“志”を持った人や団体に対する資金をネットを通じて多数の支援者から集める手法)を活用して店舗展開を進めたことで知られている。
また、山陰居酒屋「炉端かば」の東京の店舗を管理するK・Kダイニング(松田幸紀社長)の取り組みもユニークだ。山陰の日の目を見ない地魚の雑魚を活用した立ち天ぷら業態を東京・新橋にオープン。「山陰もったいないプロジェクト」をスタートさせた。こうした専門店も、より切り口が多様化し、研ぎ澄まされた感がある。
東京・八丁堀を中心に魚介と中俣酒造の本格焼酎を飲ませる店「八丁堀茂助」や「中俣酒造茂助」などを展開するザガット(東京都中央区、栗原秀輔社長)が10月19日に東京・東銀座駅前にオープンした「銀座 中俣」は、高級魚のどぐろの専門店だ。メニューは、ほぼ、のどぐろしかない。東京でもかなり尖った超専門店でのオープンだったが、いきなり人気店となり、早くも予約なしでは入れない繁盛店となっている。東京広しと言えども、ここまで“のどぐろ尽くし”の店も珍しい
しかも、栗原秀輔社長のこだわりは、長崎県対馬沖で獲れる「紅瞳」(べにひとみ)ブランドののどぐろ。400~500gの比較的大ぶりで脂の乗ったのどぐろを中心に、刺し、焼き、揚げ、しゃぶしゃぶなど、のどぐろのおいしさをトコトン追求した“超専門店”だ。
また、銀座の人気鉄板焼き業態「宮地」が最高峰の店として、神戸牛の熟成肉を使用した「THE MIYACHI」を銀座・コリドー街にオープンし、話題を集めた。こうした専門店が“超専門店”として細分化し、さらに尖りを増した1年だった。