外食分野。トップ3は、マクドナルドの凋落、多様化するハンバーガー市場、コスト上昇圧力強まる。
- マクドナルドの凋落、一層加速
- 多様化するハンバーガー市場
- 人件費高騰、食材原料費高騰など、コスト上昇圧力強まる
- “ちょい飲み”市場拡大
- 高級コーヒーブームの兆し現る
- “肉食”ブーム到来か?
- 何度目かの海外進出ブーム
- ファミリーレストラン復活の兆し?
- 激化する外食と他業界との“胃袋争奪戦”
- インバウンド景気対応の動きが活発化
1. マクドナルドの凋落、一層加速
2014年7月の鶏肉問題以降、客数離れによる急速な経営悪化は上場以来初の赤字決算という結果を招いた。さらに、2015年に入ってから幾多の異物混入事件に関する負の情報のソーシャルメディアによる拡散が止まらず、矢継ぎ早に繰り出されたさまざまな改善施策が思うような成果を上げられず、2015年の1年間、経営改善の兆しは一向に現れなかった。業界トップ企業の急転落は、マスコミの格好のネタとなり、同社の動向が切れ目なく報道された。
そして12月中旬過ぎに、米マクドナルドによる日本マクドナルドホールディングスの保有株一部売却の動きが新聞各紙の紙面を賑わすことになった。売却がどうなるかは不透明だが、日本の外食産業をけん引し続けてきたファストフードがその力を失い、業界構造が大きく変化していることを印象付ける結果となった。
2. 多様化するハンバーガー市場
マクドナルドというガリバー企業低迷を商機と見たのか、ハンバーガーチェーンはじめ海外ファストフードの進出が相次いだ。4月の「タコベル」、6月の「ドミニクアンセルベーカリー」は別として、7月に「ベアバーガー」、11月に「シェイクシャック」が上陸し、2016年3月には「カールスジュニア」の再上陸が予定されている。
いずれも「マクドナルド」よりかなり高い価格帯のグルメバーガーチェーン。日本のハンバーガー市場は「マクドナルド」が切り拓き、多くのチェーンが参入する素地を作った。半面、ロワーポピュラープライスを主戦場とする「マクドナルド」の呪縛が解けず、300円台がハンバーガーの売れ筋価格となっているが、海外からの新興チェーン進出はこの呪縛を解くきっかけとなるかもしれない。
国内既存チェーンも500円以上の高価格帯商品への期待が大きく、ハンバーガー市場の広がりが見えそう。
3. 人件費高騰、食材原料費高騰など、コスト上昇圧力強まる
少子化等や景気回復によって人材が他業界に流出する傾向があり、外食業ではそれによる人員不足が深刻化し、人件費上昇が止まらない。また、円安基調が長引き、原材料価格が高騰している。外食業界は、厳しい企業経営の環境にさらされていると言える。
これを受けて2014年暮れあたりから、業界では値上げ政策をとる企業が増えている。単純値上げでは受け入れられないと、たとえば野菜をすべて国産にするとか、高額商品導入による価格ラインの拡大などの対策を採っている。しかし消費者にはなかなか受け入れられず、客数減という結果を招いている企業が多い。
4. “ちょい飲み”市場拡大
低迷する居酒屋を尻目に2014年にファミレスや牛丼店に広がった“ちょい飲み”市場が広がりを見せている。
全ブランドで“ちょい飲み”対応しているすかいらーくでは、主力業態の「ガスト」でアルコールメニューを10種類以上に増やしている。「吉野家」もちょい飲み向けの「吉呑み」併設店を拡大している。ハンバーガーチェーンの「フレッシュネスバーガー」では、ちょい飲み客向けサービス「フレバル」でワイン飲み放題などを展開している。
さらに、外食だけでなくコンビニエンスストアの「ミニストップ」でもイートインコーナーでちょい飲みをするサラリーマン向けに、輸入ワインや輸入ビール、高級缶詰などを販売する。
5. 高級コーヒーブームの兆し現る
2015年2月に東京・江東区清澄白河に「ブルーボトルコーヒー」が開店。アメリカで「サードウエーブ」と呼ばれる新潮流の人気チェーンで、1杯ずつ手で丁寧に淹れるコーヒーは、吟味した豆を使って味にこだわったもの。「スターバックスコーヒー」に代表されるシアトル派コーヒーとは、コーヒーそのものの味を追求するところに置いている点が異なると言える。
3月の同店の進出がサードウエーブという波の日本への到来となり、以降、高品質を売りにする店の登場が目立っている。さらに、食品スーパーでも高品質な豆の販売や淹れたてコーヒーの提供をする店も現れている。
6. “肉食”ブーム到来か?
2000年代初頭のBSEによる肉離れは深刻だったが、2010年あたりから食肉需要が堅調に推移している。13年には米国産骨付き牛肉の輸入解禁があり、2012~2013年には熟成肉ブームが起き、その勢いを加速させた。昨年は焼き肉店や高級ステーキ店の売上げが大きく伸びた。中心は赤身肉。健康にいいというイメージが浸透し、年輩層や女性層にも消費の波が広がった。こうした動きを受けて、居酒屋チェーンでも肉の専門店展開を始めるところや、希少部位を売り物にしたバル業態運営に乗り出すところも現れている。
7. 何度目かの海外進出ブーム
全体マーケットの縮減や外食離れなどによる国内市場の縮小を受けてか、海外の出店展開を進める動きが活発だ。
タイや台湾を中心に東南アジアに80店以上展開する「大戸屋」は、2020年までに中国・上海に50店開業を皮切りに他都市にも出店を予定している。また、東南アジアに「丸亀製麺」の店舗網を築きつつあるトリドールはオランダの外食大手を買収、欧米展開の拡充を意図している。「コロワイド」も東南アジア、北米大陸に複数の業態で出店を拡大。また、ミラノ万博をきっかけに、欧州進出を狙う大手企業もある。各社とも、海外事業を第2の柱に育て上げたい模様。
8. ファミリーレストラン復活の兆し?
2014年に再上場した「すかいらーく」のファミリーレストラン(FR)業態が堅調だ。
FR業界はかつてのように新規出店を軸に拡大を図る手法が、外食市場の縮減傾向もあってか有効性を失ってきている。各社は2013年あたりから、こぞって既存店磨きに注力しており、製造・物流の効率化・整備や改装などに取り組んできた。その成果が2015年、徐々に表れ始めた模様。また、メニュー面では“ちょい高”の“プチぜいたくメニュー”やシニア向けサービスを導入するなどの施策を導入して、高客単価・客数確保を果たしつつある。
「ジョイフル」のように、シニアに限りモーニングメニューの全時間注文可能といった施策をとるチェーンもある。
9. 激化する外食と他業界との“胃袋争奪戦”
2014年のコンビニコーヒーの外食業界に与えたショックは大きかったが、昨年はさらにドーナツ販売やイートインスペースの拡大など、明らかに外食を意識した施策が目立った。スーパーマーケットにもそれは飛び火し、店内のそうざいや飲み物をイートインスペースで消費してもらおうという動きが大手チェーンを中心に拡大した。実際、若い世代の主婦層やシニア層の利用が目立って増えているようだ。
外食と他業界とのボーダーレスな“胃袋争奪戦”が一層熾烈(しれつ)になっている。
10. インバウンド景気対応の動きが活発化
“爆買い”が流行と語大賞になるほど、インバウンド消費のインパクトが大きい。年間の来日外国人が1900万人を突破し、2020年の東京五輪に向けてその勢いはますます強まるだろう。こうしたインバウンド消費に、外食業界でも対応する動きが目立った。
イスラム圏からの訪日客の取り込みを図るために、ムスリム向けのハラールに対応することはその代表的な動きと言える。ロイヤルホールディングスやリンガーハットなど大手チェーンがハラール認証を取得している。外国人への対応としては、ほかにも、ベジタリアンメニューの充実や肉を増量したメニュー開発といった、さまざまな動きが出ている。
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