2011年食の10大ニュース[11]

  1. 東日本大震災が起こり、特定の食品が売切れたり、食品からの放射能が検出された出荷が停止され、戦後、初めて食料不足を経験した世代が多くあった(3月11日~)。
  2. 放射線、放射能のリスクに関する情報提供とその伝え方に注目が集まった(3月11日~)。
  3. 生活クラブが震災で畜産飼料の入手が不可能になり、数カ月間、遺伝子組換え不分別飼料を利用し、そのことを公表した(4月4日)。
  4. ユッケによる食中毒が起った(4月19~26日)。
  5. 食品表示一元化検討委員会(消費者庁)がスタートした(9月30日)。
  6. 第4期科学技術基本計画が閣議決定された(8月19日)。
  7. 京大チーム(山中伸弥教授)iPS細胞の特許が欧州と米国で認可された(5月、8月)。
  8. リングスポットウイルス耐性を付与された遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」の輸入が解禁になった(12月1日)。
  9. 「メディアの方に知っていただきたいこと~遺伝子組換え作物・食品」の反響があった(3月31日)
  10. Food Communication Compass(略称フーコム)やFoodWatchJapanなど、食のリスクに関する情報提供サイトがスタートした。

 東日本大震災をめぐり、直接的な被害のほかに、情報提供のあり方やリスクコミュニケーションにおいても多くの課題が改めて認識された1年だったと思います。サイエンスコミュニケーションの視点から、気になるイベントを上記のように集めてみました。なお 3. 以降については、とくに重要度の順は考えておりません。

新しいリスクコミュニケーションの時代

 2011年3月11日の震災で、被災地の食品加工工場や漁港・水産物加工場が被災したり、福島第一原子力発電所から放射性物質が放出されたりしました。そのため、多くの人が生まれて初めて、特定の食料が限定期間、不足し、スーパーマーケットの棚が空になるという経験をすることになりした。そして、食品から放射性物質が検出されているかへの関心が高まり、「直ちに被害が起ることはない」という記者会見の表現に戸惑いや不安を抱く市民が少なくありませんでした。

 関係者はリスクコミュニケーションの難しさに直面しています。一方、生活クラブのように、ありのままの情報を出して、組合員の理解を得てリスクコミュニケーションを積極的に行っている団体もあります。

 食品添加物、農薬、遺伝子組換え食品、放射能汚染など、安全性が審査されて市場に出回っている食品に対して不安を持っている市民は多くいますが、ユッケの事故では、残念なことに亡くなった方も出て、食のリスクで本当に怖いことは食中毒であることが再認識された事件だったと思います。

 食品に関する情報を提供する機会である「食品の表示」に関する検討が消費者庁で行われています。表示は毎日、消費者が接する情報提供であり、リスクコミュニケーションの基盤になるものです。消費者が本当に求める情報に対し、適切で実現可能な表示のルールが決まれば、食をめぐるリスクコミュニケーションが大きく改善されるのではないかと期待します。

新しい科学の時代

遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」
遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」。「ハワイ パパイヤ(遺伝子組換え)」のラベルを付けて販売することになった。

 科学全般で見ると、第4期科学技術基本計画が閣議決定されました。震災からの復興に貢献し、社会とともに創り進める科学技術政策の実現を目指すものです。国民の理解と信頼を得るための科学技術コミュニケーション活動の推進も掲げられました。市民社会で活かされる研究成果が求められる中で、山中伸弥教授のiPS細胞の研究が再生医療につながるという道筋が見えてくることは、市民の科学技術への理解を一段と深めることになるではないでしょうか。

 ハワイのパパイヤ産業に壊滅的な被害をもたらしたリングスポットウイルスに耐性を持つ遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」は、パパイヤ産業の救世主として、研究者、生産者、消費者に歓迎されました。その「レインボー」の日本への輸入が12月1日に解禁になり、すでに売り切れていると言います。

 リリースから数年の間に、ハワイの人々にバイオテクノロジーの成果が見える形になったことは、リスクコミュニケーションの成功事例として意義深いことです。このような背景を含めて、レインボーの上陸は私たちの学びとなるでしょう。

 芽が出てきた科学・技術が社会と健全な関係を築くのに情報の交換は重要であり、そのときのメディアの影響は大きいものです。食をめぐる情報提供をしていたFood Science(日経BP社)が惜しまれながら閉じられて1年。新たにFood Communication Compass(略称フーコム)と私たちのFoodWatchJapanがスタートし、幅広い情報提供が開始されました。いろいろな立場の人たちの間での、情報交換、そして他者理解の重要性が高まってきていることをひしひしと感じています。

 NPO法人くらしとバイオプラザ21は、遺伝子組換え作物・食品に関する最低限の情報をコンパクトにまとめて伝達する「メディアの方に知っていただきたいこと~遺伝子組換え作物・食品」を作成しました。メディアの方ばかりでなく、研究機関の見学会の配布資料として、大学の講義資料として広く利用されています。

「新読み書きバイオ」を読んでいただき、ご意見をくださった方々、ありがとうございました。今年はあまり更新できなくて反省しています。

 2012年1月21日には、日本サイエンスコミュニケーション協会が発足します。食だけなく、エネルギーや自然科学、科学技術ジャーナリズムなど、科学をめぐって連なるいろいろな人たちと関わりながら、震災や原発事故で失われた科学・技術への信頼を取り戻せるように、あきらめないで努力していきたいと思います。

 どうぞ、来年もよろしくお願いします。


2011年の10大ニュース
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About 佐々義子 42 Articles
くらしとバイオプラザ21常務理事 さっさ・よしこ 1978年立教大学理学部物理学科卒業。1997年東京農工大学工学部物質生物工学科卒業、1998年同修士課程修了。2008年筑波大学大学院博士課程修了。博士(生物科学)。1997年からバイオインダストリー協会で「バイオテクノロジーの安全性」「市民とのコミュニケーション」の事業を担当。2002年NPO法人くらしとバイオプラザ21主席研究員、2011年同常務理事。科学技術ジャーナリスト会議理事。食の安全安心財団評議員。神奈川工科大学客員教授。