「2010年食の10大ニュース」は予想以上に各界の皆様からご協力をいただきました。食について、正しい情報、真に有益な情報を発信したいという皆様の情熱の強さに改めて敬意を表し、ご協力に感謝申し上げます。
そして、FoodWatchJapanをご覧くださっている皆様の情熱も感じております。仕事納めが終わった後も閲覧数は高く、スタッフ一同冥利に尽きることと存じ、読者の皆様に感謝申し上げます。
「2010年食の10大ニュース」は当初まとめて一つの記事としてご紹介しようと計画していましたが、ご執筆いただいた皆様の記事の一つひとつがユニークかつ重要な情報を豊富に含んでいますので、編集部で手を加えることはなるべく控え、できるだけそのままの形でご紹介させていただいております。
本日は一挙7名の方々の記事をお届けします。
「2010年食の10大ニュース」、続いては外食産業分野の識者4名の登場です。(FoodWatchJapan 齋藤訓之)
- 低価格居酒屋業態一気に増殖
- 飲み放題・食べ放題メニュー導入進む
- 牛丼安売り戦争過熱
- 猛暑でビアガーデンは好調も、農家・漁師は悲鳴
- 食べるラー油ヒットでオンメニュー相次ぐ
- 受動喫煙防止対策迫られる
- 女子会人気でコース導入店拡大
- 消費者庁が全国焼肉協会にロース表示で指導
- 飲食店のツイッター活用広がる
- 空前のハイボール人気でサントリー〈角瓶〉の原酒がタイト、出荷調整に
低価格居酒屋増殖。均一価格は「鳥貴族」一人勝ちか
居酒屋では大手を中心に低価格総合居酒屋が急激に増加。昨年までの不振店対策から一転、コロワイドや三光マーケティングフーズは新店を低価格居酒屋中心にしている店が特徴だろう。
レインズインターナショナルは「ぶっちぎり酒場」をFC化、ワタミはレジを置かない完全セルフ式の低価格居酒屋「仰天酒場和っしょい2」を開発し業界を驚かせた。養老乃瀧は食材を養老乃瀧と共通化した「一軒め酒場」でコストパフォーマンスの高さを訴求する。
低価格ではない居酒屋チェーンでも100円台や200円台のメニューを拡充するなど、低価格総合居酒屋の影響が通常の居酒屋チェーンへも波及した。
来年の展開としては、低価格均一居酒屋を展開する企業は「価値訴求が差別化につながる」と考え、商品力強化、居酒屋の楽しさの提案に力を入れる意向だ。
専門均一業態では、大手が総合居酒屋の低価格均一業態に踏み切る遙か以前から、業態確立を進めてきた「鳥貴族」が強さを発揮。東京への旗艦店出店も果たし、首都圏での知名度向上を一気に進める意向だ。
1985年、東大阪に鳥貴族第1号店を創業した同社は、大手の低価格総合居酒屋とは一線を画す。26年もの間、強力な商品力と専門性をブラッシュアップしてきており、来年1月には200店舗を達成する予定で、専門均一業態では同社が一人勝ちの様相を呈している。
牛丼戦線、勝負は終盤か。居酒屋にはバイキング形式も
牛丼チェーンでは低価格競争がさらに熾烈化。「すき家」「松屋」が09年12月に値下げを実施し、その後も期間限定で割引キャンペーンを定例化し、「吉野家」をジリジリと追い込んだ。「なか卯」も牛丼の値下げを決めるなど、先行する値下げ組にお客がながれ、「吉野家」も価格面を意識した〈牛鍋丼〉などの280円メニューを投入し後半に巻き返しを図ったが、すでに勝負はついた感があった。
今年はデフレに伴う価格志向の強まりを受け、「飲み放題」「食べ放題」「焼酎無料」や「生ビール100円」などといったサービスを導入する店が一気に拡大した。なかでも、「飲み放題」「食べ放題」メニューは酒類や料理のバライエティがこれまでの「放題」より格段に広がっており、潜在ニーズを大きく掘り起こした格好だ。「焼酎無料」で話題を集めた「居酒屋革命」は店舗を大幅に縮小し建て直しを図っているという。
「飲み放題」「食べ放題」から派生した流れとして、今年後半あたりから出てきたビジネスモデルが、「バイキング居酒屋」だ。これまで「備長扇屋」「日本橋紅とん」など500店におよぶ飲食店をプロデュースしてきた山本浩喜氏が東京・三軒茶屋に出したバイキング居酒屋に続き、12月8日、今度は「元祖神戸バイキング本舗」の店名で東京・赤坂にオープン。昼はうどんバイキング、夜は居酒屋バイキングの二毛作で仕掛ける。料理のクオリティも高いのが特徴で、均一総合居酒屋の対抗軸として、この流れは来年以降さらに本格化しそうな気配だ。
猛暑が明暗分ける中、「食べラー」メニューのヒット
さて、デフレの象徴ばかりが目についた1年だったが、猛暑による影響は明暗それぞれ出た。まずは明だが、ビアガーデンが昨年に続き好調となり、各社ともに記録的な売上高を確保した。天候要因に加え、客層の多様化が重なりあったことで、好調だった前年をさらに2割程度上回った店舗も多い。また、晴天日が多かったことから、ファストフードやファミリーレストランも集客が好調だったのも特徴だろう。冷やし中華の販売増加により〈錦糸タマゴ〉製造メーカーでは7割増を記録した例もみられた。
続いては暗。農作物の不作は深刻を極め、野菜価格の高騰に拍車をかけた。猛暑は野菜に止まらず養鶏場の鶏にも影響した。「夏バテ」により卵を産む量が減り、タマゴの仕入れ価格がkg20円程度上昇した。海水温度上昇により漁業にも影響が出た。カニやエビを筆頭に漁獲量が激減した魚種が目立ち、こちらも需給逼迫により価格が高騰した。
外食チェーンでも「食べるラー油」を使用したメニューのヒットが目立った。品薄状態にある「食べるラー油」が食べられることなどから利用者の関心も高く、投入した業態では予想を上回るヒットとなった。
レインズインターナショナルの「牛角」が投入した〈ぶっかけラー油 de ネギカルビ〉620円を始め、すかいらーくの「ガスト」で提供した〈和風おろしハンバーグ 食べるラー油で楽しむ野菜添え〉523円や、モスフードサービスの「モスバーガー」が投入した〈テリー伊藤のざくざくラー油バーガー〉390円、ファーストキッチンが「ファーストキッチン」で販売した〈レタスとベーコンの食べるラー油パスタ〉580円など各商品とも販売状況が予想を上回るペースで推移した。その他業態でも「食べるラー油」を使用したメニューの投入が相次いだ。
受動喫煙は集客の話題から労働環境の話題へ
受動喫煙防止対策の問題については、特にアルコール販売業態での売上への影響が懸念されるだけに、大きな注目を集めた。店舗での受動喫煙防止対策を求める動きが急速に活発化しており、神奈川県では全国に先駆け、4月から条例施行によって受動喫煙防止対策を実施した。その動きは他県にも波及、兵庫県や千葉県流山市でも受動喫煙防止対策の条例化を検討中だ。
神奈川県の条例化にしても、兵庫での議論にしても、これまでの受動喫煙防止対策の論点は、「客席の分煙」に象徴されるように、お客側の受動喫煙防止対策にあった。しかし、厚労相の諮問機関である労働政策審議会が新たに持ち出した論点は「職場の受動喫煙」対策にある。未成年者のアルバイトを多く抱える外食業界にとって、「職場の受動喫煙」の問題は、すなわち未成年者を含む従業員の健康問題となるだけに、反論できる材料がない。
外食業界はお客と従業員の双方の切り口からこの問題を突きつけられおり、もはや避けて通ることは不可能な状況となった。ちなみに、厚労相の諮問機関である労働政策審議会は、12月に職場の受動喫煙防止対策強化を盛り込んだ「職場の安全衛生対策」を細川律夫厚労相に建議している。
ロースの表示問題は、消費者庁が11月に焼き肉店がメニューにモモ肉などをロースと表示して客に提供しているとして、景品表示法に基づき、全国の約500社で作る業界団体「全国焼肉協会」に表示の見直しなどを求める指導をした。
消費者庁が今年、焼き肉チェーンや個人営業の複数の店を調べたところ、ロースとして販売している肉が、モモ肉やその他の部位の赤身を使用していたことが判明したことから指導に動いたものだ。同庁によれば、本物のロースは、上ロースとして売るケースが多いとしている。ある業者によれば「赤身が多いと部位にこだわらずロース、脂が乗った肉はカルビとして客に出すのが、業界の慣行になっていた」と今回の指導には戸惑いを隠せない。モモ肉は背中の部位を指すロースと肉質が似ているため、一般人には見分がつかない。いずれにしても、表示見直し浸透にはなお時間が掛かりそうだ。
女子会、ツイッターで販促。アルコールの新風
明るい話題でいえば、肉食系女子が積極的に外食シーンをリードする一方で、それら外食推進派の女性による「女子会」の動きが活発化したことがあげられよう。素早くその動きに対応した外食企業による「女子会コース」の導入がキッカケとなり、「女子会」は外食業界の消費シーンをリードする重要なキーワードとなった。
ツイッターも今年一気に拡散、浸透したメディアだ。販促情報やランチ情報など、様々なコンテンツを発信する動きが広がり、実際にツイッターを販促に活用する外食業も多く現れた。
最後に、昨年からブレイクしているハイボールの話題だ。今年はウイスキーだけでなく、日本酒や焼酎にも波及し、ハイボールメニューの拡大が進んだのも特徴。さらに、引き続き高いウイスキーハイボール人気により、サントリー〈角瓶〉の原酒がタイトになり、出荷制限がかかった。これを機に、〈角瓶〉から〈トリス〉へのシフトが一気に進んだ格好だ。色々な物で割って飲むベースとしてサントリーは〈トリス〉を位置づけており、「単なるウイスキーの炭酸割り=ハイボール」とは異なる、チューハイのような世界観や飲まれ方を想定しているようだ。
また、昨年から引き続き人気のマッコリは、眞露をはじめ、12月からはサントリーも首都圏の一部で試験販売を開始するなど、中小に加え大手の参入業者も相次ぎ、総市場は昨年の倍に広がっている。
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