赤身のおいしさをたくさんの人に!「SATO ブリアン」(東京・阿佐ヶ谷)

九州和牛ハラミの塊焼き
「九州和牛ハラミの塊焼き」。まずは塊を見てほれぼれ

いきなり秋が来たような気温。おいしいもの好きな気持ちは、肉に向かう。涼しくなったら、やっぱり極上の肉。それも溶けるような……と言うと、自然と阿佐ヶ谷の「SATO ブリアン」に足が向く。

情熱を注ぐなら肉!

SATO ブリアン
「SATO ブリアン」(東京・阿佐ヶ谷)
看板
店頭には食べてほしいものを書き出した看板が

 とは言え、突然行ってすぐに食べられるようなお店ではない。連日予約で満席、こちらのお店で食べるには、事前に予約をするのが必須となっているのだから。

 そもそも、こちらは、2011年6月の開店当初から、おいしい肉好きの間では秘かに話題になっていた。

 なんせ、店名自体が“シャトーブリアン”ならぬ「SATO ブリアン」というインパクトのある洒落。メニューも「和牛ヒレスキ」だの、「トロタン」だの「ブリ飯」だのといった、いちいちキャッチーな名前が並ぶ。

 その全部が一口食べれば踊り出したくなるようなおいしさなのだから、大盛況もむべなるかな。

「どうしてこんな人気店を、阿佐ヶ谷に?」ということで、店主の佐藤明弘さん(39)に聞いてみた。

 福島県出身の佐藤さんは、22歳まで横浜で美容師として働いていたが、飲食業への興味から焼鳥チェーンに就職。24歳で店長になって順調な仕事ぶりだったが、27歳のときに第二の転職をする。“肉の世界”の門をたたいたのだ。

「焼鳥もよかったんですが、個人的にも“焼肉大好き”で食べ歩いていたし、自分の情熱を注ぐのだったら、こっちの肉かな、って」

 焼肉店等複数の飲食店を展開する神奈川県が本拠の外食企業に勤め、東京エリアの統括マネジャーとなるなど、ここでも仕事は順調。それでも、独立心の強さからか、周囲には「35あたりで独立したい!」と公言。勤続10年となった2011年を期に、会社に独立開業の意思を伝えた。それが震災の直前。そして震災の影響と節電で街中が暗かった6月に、現在の本店の場所へ「SATO ブリアン」を出店したという。

「周りからは『この時期に開店するのはどうか?』と言われましたが、駅近にもかかわらず家賃が比較的安く、居酒屋だった店舗の設備もそのまま使え、ロースターなども格安で設置できて……」という、好条件の物件が見つかって、「これなら、自分が考えるコンセプトのお店が出来る!」と船出を決意した。

シャトーブリアンで赤身を堪能してほしい

シャトーブリアン
これぞシャトーブリアン
ロースター
シャトーブリアンを焼く。ソースパンには自家製タレ

 佐藤さんが大切にし、店名にもした肉、それが「赤身のシャトーブリアン」だった。

 もともと1頭買いの焼肉店に勤めていた時から、お客さんの“のけ反り方がハンパなかった”のがシャトーブリアン。霜降りの肉ではなく、肉本来の味が堪能できる赤身、その中でも最上級のシャトーブリアンの味を広めたい、このおいしさと、店舗の設備費の安さだったら、勝負できる、と佐藤さんは考えたという。

 そして、タン1本から5人前ほどしか取れない極上部分を「極上厚切りトロタン」(2980円)として供し、残る部分はお通しの「ビーフシチュー」として出す……。そんな、肉自体ではあまり儲けが出なくても、「3カ月に一度ではなしに、毎月1回来てくれれば」という目論見で、店はオープンした。

 ところが、最初の半年はなかなか満席にはならなかった。「お客さんが1組だけ」ということも2日ほどあった。そんな、お客の入りが悪く悩んでいた中で編み出したのが、「和牛ヒレスキ」(1380円)。極上のヒレ肉をすき焼き風にして溶き卵で食べるこのメニューは、のちに「SATO ブリアン」の目玉メニューになった。

 そして、「SATO ブリアン」の看板メニューたるシャトーブリアンも、A-4ランク角切り5カット1480円、A-4ランク大判2780円と手が届く値段。さすがにA-5ランクになると大判で4980円と値段は張るが、そのおいしさはA-4ランクで十分堪能できる。

 この、肉の味を凝縮したようなシャトーブリアンを、自家製のニンニク醤油だれで食べるわけだが、ここにごはんが登場。“シャトーブリアンのっけの極上のバター醤油ご飯”とも言える「ブリ飯」は、誰でも食べたら必ず悶絶するほどのおいしさなのだ。

 これだけのお店をマスコミが放っておくわけがない。ラジオ、雑誌を中心に次々に紹介され、そのたびに予約が殺到。サービス精神旺盛で、肉のおいしさを語り始めると止まらない佐藤さんのキャラクターもあって、瞬く間に人気店になった。

  • ビーフシチュー
    ヒレのシャトーブリアン以外の部分はお通しのビーフシチューに
  • 和牛ヒレスキ
    「和牛ヒレスキ」をご飯に乗せていただく
  • ブリ飯
    「ブリ飯」はシャトーブリアンのっけ極上バター醤油ご飯

2店目の売りは“塊焼き”

SATO ブリアン にごう
「SATO ブリアン にごう」(東京・阿佐ヶ谷)

 そして、この6月10日に、同じ阿佐ヶ谷に満を持して出店したのが「SATO ブリアン にごう」というお店。

 こちらの“売り”は“塊肉”。「本店より、ちょっと狭いお店で、カウンターの店員からお客さんのロースターが見える。それで、塊肉を、お客さんとの共同作業でじっくり焼き上げていく。この楽しさと、出来上がりのおいしさがあるんですよ!!」

「厳選赤身の塊焼き」(150g、1900円~)、「九州和牛ハラミの塊焼き」(180g、2800円~)、「シャトーブリアンの塊焼き」(200g、4980円)とラインナップする“塊焼き”は、その焼き上がるまでが実にエキサイティング。下の写真は「九州和牛ハラミの塊焼き」だが、焼いているとき、スライスした時、それぞれがほれぼれするほどの美しさだ。

「表面はカリカリ、中はレア、というローストビーフ以上のおいしさを堪能してほしい」というこの塊肉焼きには、数種類のつけダレがあり、それぞれの味の変化を楽しめて、やみつきになるおいしさなのだ。

  • 九州和牛ハラミの塊焼き
    「九州和牛ハラミの塊焼き」。まずは塊を見てほれぼれ
  • 九州和牛ハラミの塊焼き
    焼いている最中もほれぼれ
  • 九州和牛ハラミの塊焼き
    焼き上がりをスライスしてもらって、またほれぼれ

「SATO ブリアン にごう」は電話番号を公開しておらず、お客さんは予約時に本店へ電話し、誘導してもらう、という形になっている。

「コンセプトは、“とっておきのお店”感覚。大人のお客さんが楽しめるお店でありたいんです」

 というひっそりとした打ち出し方だが、「にごう」も、すでに予約殺到の人気店となっている。

  • チョレギサラダ
    野菜メニューも充実。「チョレギサラダ」(640円)
  • たっぷり豆もやしナムル
    「たっぷり豆もやしナムル」(380円)

 こんな人気店を次々とヒットさせた佐藤さん。今後の展開を聞くと面白いアイデアが出てきた。

「ものすごくこぢんまりした個室のような店舗をやりたいんです。6名個室一つで従業員は1人というような。目当てはちょっとあったりするんですが……乞うご期待!」

 実は、本店も来年の9月で明け渡しが決まっている期限付きの賃貸。家賃が抑えられたのはそのためなのだが、それ以降も近隣で営業を続けたい考え。

「まだ不確定なこともありますが、楽しみにしていてください。いろいろアイデアもありますしね」

 まだまだ佐藤さんと、「SATO ブリアン」からは目が離せない。


●「SATO ブリアン」

佐藤明弘さん
店主の佐藤明弘さん

東京都杉並区阿佐谷南3-34-14 小堀ビル1階
Tel.03-6915-1638
営業時間:
日曜~木曜17:00~23:30(L.O.23:00)
金曜・土曜
17:00~24時 (L.O.23:30)

ブログ
http://ameblo.jp/satoburian/

ツイッター
http://twitter.com/SATOBURI1129


※「食って・走って・また食った」は今回で終了します。長い間ご愛読ありがとうございました。新連載群にもどうぞご期待ください(FoodWatchJapan 編集部)

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。