ちょっと遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。今年もマイペースで、おいしいものを食べて行けたら、と思っています。
それにしても、寒いですね。今年の冬は東京も一段と冷えているようです。風邪も流行っているようですし、着替え、うがい、手洗いは必須ですよ~。
パン好き注目のパン屋さんが江古田に
東京も連休最後の積雪のおかげであちこちに雪が残っている。そんな足元の悪い中でも、わざわざ「この店のパンを食べないと……」と、お客さんがやってくるのが、江古田にある、その名も「パーラー江古田」。
一見、そっけないようにも見えるこちらのお店、実は小竹向原に姉妹店である「まちのパーラー」もオープンさせ、いま、パン好きの中でも注目度ナンバーワンのお店になっている。
このふたつのお店を率いるのが、オーナーの原田浩次さん(39)。ピアスが光るそのスマートな外見は、パッと見ではパン屋さんと言うより、ヘアメイクさんやスタイリストさんのような印象を与える。
話す言葉は穏やか、冷静。朝から晩まで忙しい「パーラー江古田」と「まちのパーラー」2店を切り盛りするようになっても、そのたたずまいは変わらない。どこからこんな落ち着きが生まれてくるのか、まずはお店を開いた経緯を聞いてみると……
オーストラリアのサンドイッチで開眼
広島出身で、江古田の武蔵大学の出身である原田さんが飲食店開業を志したのは、大学時代のワーキングホリデーで滞在したオーストラリアでのこと。土地の人々が集まってくる居心地のいいカフェの雰囲気が好きだったと言う。
卒業の頃は“失われた十年”の真っ最中。親の心配もあって、まずは一般企業に就職したが、飲食店への想い断ちがたく、3年後には「給料は低くなるかもしれないけれど、やりたいことを」と、千葉のベーカリーに勤めることになる。
そのときに原田さんの頭にあったのは、オーストラリアのカフェの“どっしりおなかがいっぱいになるサンドイッチ”。「30歳で独立しようかな」と思っていたところに、独立系のベーカリーとしては業界でも有名な松戸の人気店「Zopf」(ツオップ)がカフェを出店する、との情報が入る。それに興味を抱き、カフェスタッフとして働くことになった。「Zopf」ではパン焼き修業はしなかったものの、オーナーや奥さんの薫陶を受けて、得るものが多々あったという。
そしていよいよ独立へ。最初は、移動店舗として愛車のフォルクスワーゲン・タイプIIでもってパンを売ろうとしていた。ところが運命のいたずらか、交通違反で免許取消。当時付き合っていた彼女に免許を取ってもらって運転することも考えたが、車を出す場所、パンを作る場所を探す過程で、現在の「パーラー江古田」の場所に巡り合って、そのまま住みながらパンも売るカフェを始めた。それが7年前の2006年。
最初、カフェばかりの営業だったのが、お客さんの求めに応じてパンを売っていたら、そのパンが口コミで少しずつ評判に。それにつれて、当初小さかったベーカリーオーブンも大きなものとなり、天板も1枚から始まって現在は12枚を使用するまでに。さらに評判が評判を呼び、住居部分も窯にして、「パーラー江古田」は地域では知らぬ者はいない人気のパン屋さんに成長した。
似顔絵のようなオリジナル
「パーラー江古田」のパンは、どこのパンとも似ていない。
ふわふわとやわらかいパンではなく、表面は固くどっしりとして、そのくせ食べていくと軟らかく、驚くほど味が多層的で、かみしめると味があふれてくる。
パン焼きは製パン学校で体系的に学んだのではなく、千葉のお店での経験と、自分が食べ歩き、本を読んだ中で培ってきたものだと言う。原田さんのパン作りのセンスに恵まれている。
「結局は独学に近い、ということになるのかな。でも、たくさんパン作りの本は出てるし、名店と言われるお店のパン作りだってわかりやすくなっている。僕は、当たり前のことを当たり前にやってるだけですよ」
原田さんは気負わずに言うが、その言葉を額面通り受け止めてしまっていいかどうか、ちょっと判断に苦しむ。それぐらい、重層的で味が深いパンなのだ。
「どことも似てないって言われるけど、僕からすると、このパンはAさんのお店のパンに近くて、この種類のパンはBさんのお店のパンに近い、って思えたりするんですけどね」
それでも、この取材日にランチとして食べたチキンとマイタケのオーブン焼きのサンドイッチ(800円)は、やっぱり、どこのパンとも似ておらず、それでいて忘れられない味になった。
(ちなみに、サンドイッチは、セットになると飲み物がついて、挟むパンはたくさんの種類のパンの中から選ぶことができる。今回は全粒粉のパンにしてみた)
まず、内側に挟む鶏のローストの焼き加減が素晴らしい。表面はちょっとスパイシーで、カリリとしたクリスピーさがあって、それでいて内側はしっとりと味が深くジューシーで。
その肉を受け止めるパンの歯ごたえ、味の深さと言ったら……。どっしりとパンだけでボリューミーなのに、内側の具をしっかり受け止めて、それでもパンの味を損なわず、歯ごたえよく、トマトソースや鶏の肉汁もしっかり受け止め、しかも内側はやわらかい。
「ああ、ランチ食べてる!」って深く実感できる極上のサンドイッチなのだ。
「そりゃそう。おいしいサンドイッチを食べさせるために……って考えて、パンを作っていったから。サンドがおいしくないと、カフェとしてがっかりでしょ?」
そう笑う原田さん。
今流行りのソフトなパンとは一線を画すような歯ごたえと味の深みはどこから来るのか、尋ねると、「自分のパンって似顔絵に近いかなって思う時がある」と教えてくれた。
「似顔絵って元の顔からデフォルメするでしょ? 僕のパンも、もともと参考にしたお店のパンからいろいろ変えているけれど、そのコンセプトや想いみたいなものはゆるがせにしてないって思うから」
なるほど!「パーラー江古田」のパンの秘密の一端が伝わるような気がした。
それにしても、不思議なお店である。
ひっきりなしにパンを買いに来るお客さんの横に、ランチを食べ、スイーツを楽しみながらカウンターやテーブル席で歓談しているお客が共存している。
取材者の自分もあまりにおいしいサンドイッチだったので、去りがたく、デザートのピーカンナッツのタルト(330円)まで注文してしまった。
これがまた極上なのだ。
サクサクしたタルト生地は、歯ごたえよく、アーモンドの味もしっかりしていて、甘さもほどよく。そこに濃厚なバニラアイスが添えられているのだから……ザッツ、デザート。
「やっぱり、カフェとしての機能はちゃんと生かしたいから。お客さんに楽しんでもらえればうれしいんですよ」とさらりと言ってのける。
保育所に併設の「まちのパーラー」
そして2年前から新たな試みが始まった。
それが小竹向原の「まちのパーラー」。
新しく作られた「まちの保育園」(東京都認証保育所)に併設する形で、地域の人が、保育園に親しみ、拠点としてほしい、というコンセプトに賛同し、新たに、「まちのパーラー」としてカフェ兼ベーカリーショップをオープンしたのだ。
こちらは天井が高くゆったりとした造りのカフェになっていて、20時30分までの保育時間中は開いていてほしい、ということから、夜のメニューも充実させた。原田さんこだわりのイタリアンワインとビストロメニューが並ぶ。
開店時間は朝7時30分から、ラストオーダーが21時というロングラン。若いスタッフを中心としてなんとか回しているという。
この「まちのパーラー」と「パーラー江古田」合わせて10名のスタッフを差配するに当たって、原田さんは、昨年ついに株式会社の会社組織にした。最初は、新婚ほやほやの奥さんと2人で始めたお店が、2店舗を回す企業に。
「会社なんて作る気はさらさらなかったんだけど」と笑うが、これ以上、急速に事業を拡大する気はないと言う。
「自分の目が届く範囲じゃないと。ちゃんとパンを作っていきたいし。あくまで自分ができる範囲で、自然体で」
そうさらりと言う原田さんに、やはり気負いはない。
「パンを作ることとか、飲食の仕事って、好きな人しか続かないと思う。自分も大切にしている店を、しっかりきっちり営業していく、それが第一だから」
かくして今日も、お店には、極上のパンを求めて、ひっきりなしにお客さんたちが訪れるのだった。
●「パーラー江古田」
東京都練馬区栄町41-15
Tel.03-6324-7127
営業時間:8:30~18:00
定休日:火曜日
●「まちのパーラー」
東京都練馬区小竹町2-40-5 1F
Tel.03-6312-1333
営業時間
7:30~21:00(Lo.)
※10時よりランチメニュー、18時より夜メニュー。
定休日:火曜日
公式ブログ「3度のメシよりパーラー。」
http://blogs.dion.ne.jp/parlour/