年の瀬です。先生も走る「師走」ではありますが、自分もいろいろ片付けなきゃならないことがあって走ってます。悩みは、あまりにあわただしいと実際のランニングや自転車通勤ができない、ということ。体力がなくなって寝不足が続くと体調を崩しがちになりますので、みなさんも体調管理、気を付けてくださいね~。
たっぷりでありながら繊細
あわただしい年の瀬。ただでさえ仕事が詰まっているのに、忘年会やら打ち上げやらの会合も入ってくるのが痛いところ。もちろん、気の置けない人たちとの食事会は楽しいのだけれど……。
先日、懇意にしている取引先の担当女子二人と、前々から約束していた食事会を敢行した。アーティスティックな才能あふれるお2人なので、店の選定にちょっと悩んだけれど、ゆっくりフレンチ系の美味が楽しめて、その上気持ちが和らぐ家庭的な雰囲気も持っていて……と言うと、おのずと店が絞られてくる。中でも、イチオシだったのが、今回ご紹介する白金台の「ルカンケ」さんなのだ。
こちらのお店は、西麻布の名店「シテ」で料理長を務めた古屋壮一シェフが2009年に独立オープンしたもの。フランスのレストランやオーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)で研鑽を積んだシェフが、それまでの想いを込めたお店になったと言う。
白金台のプラチナ通りから一本入った路地にたたずむ一軒家というか、小さなレンガ造りのビル。一見小さなペンションのような作りの2階の扉を開けると、そこは、たっぷりでありながら繊細、大胆でいながら細心、という上質なレストラン。
フランス語のREQUINQUERは元気になるという意味。「訪れた人みんなが心から『おいしかった!』と笑顔になり元気になるような、“あったかいレストラン”にしたかった」という古屋シェフの願いを込めて命名された。
食材に頼り切るのではなく手間を惜しまず
まず、店内に入ると、アットホームながらも充実したサービスで出迎えてくれて、小さな驚きがある。そして、特徴的なカラトリーの数々。
黒板にズラリ、と書かれたメニューを見て、ジビエの種類に圧倒され、これから始まる食事への楽しみでワクワクしてしまうのだ。その上、うれしいことに、本格的な料理の質を提供してくれながら、値段はぐっとビストロ風に抑えられているのだ。
これは、食材にお金をかけるのではなく、自らの仕事に力を入れたいという古屋シェフの信念による。
「どんなに高い食材を使っても、手をかけなければ意味がない。我々の仕事は、どれだけ手をかけ、工夫をするか、ですから」という。
たとえば、パテを作るにしても、手を抜こうと思えば挽いた肉を買ってきて材料と混ぜて火を通す、ということで、形だけは整えられる。でも、ルカンケのパテは、そうではなく、肉を切り、マリネにし、それをまた挽いたあとで火入れをして……という工程で4日間はかかるのだという。その手間をどれだけかけるかで味が決まるのだ、と言う古屋シェフ。
「食材に頼り切るのではなく、手間を惜しまず、手をかけることによって、高級食材を使う店にも負けない思いで作ってるんです」というシェフ。
当日は、その手をかけた品のどれを選ぶか、全員で悩みに悩んだ。
黒板に書かれたその日のオススメの前菜、メインのほかに、定番の前菜、メインが目白押し。その全てが、心をこめて工夫を凝らされ、手をかけられた料理だからたまらない。
ちなみに3人で食べるのであれば、前菜とメインをそれぞれ1つづずつ注文し、それをシェアして食べるのが楽しい。そうすれば、3種の前菜と3種のメインを食べられることになる。
悩みに悩んだ末に頼んだ結果は、これ!
前菜
ブーダンノワールと半熟卵のブリック包み
ニシンの燻製と温かいじゃが芋のサラダ ビーツのソース添え
テリーヌドカンパーニュ
メイン
シャラン鴨のコンフィとレンズ豆のブレビ
蝦夷鹿とフォアグラのパイ包み サルミソース
黒毛和牛のテールとほほ肉の赤ワイン煮
それにご褒美の一口として、
真ガキのトマトコンソメジュレ キュウリのウィネブレッド
を3人それぞれ1個ずつ出してもらうように注文した。
結果的にこれが大当たりだったのだった!!
どれだけおなかがいっぱいになろうとも
「真ガキのトマトコンソメジュレ キュウリのウィネブレッド」。もう、カキ一個まんまが大ぶりの殻つきのまま出てくる。
カキ本体は半分にナイフが入っていて、それをジュレごと豪快にかぶりつく!
そうすると、どういうことだろう。
まんま、生ではない。ちゃんと火が通っているのにジューシーさは失われず、絶妙な食感のカキとジュレとキュウリの渾然一帯さといったら……。
口に入れた瞬間に、「むうううう!」と唸ってしまった。
今まで食べた牡蠣の中で一番かもしれない予感がしたほど!
そして前菜。
テリーヌは“テッパン”の味。
古屋シェフ言うところの、手間と時間を惜しまず作られた逸品が口の中に入る瞬間。濃厚な肉の味と、まわりの野菜の味が、挽肉のほどよい食感とともに口いっぱいに広がるのだ。
一方のニシン!
これがまた、素晴らしい酢の締め加減で。ビネガーで漬けているかもしれないが、その味と下の赤いビーツのソースが感激するぐらいマッチするのだ。
そして、ブーダンノワール。
血の料理であるブーダンノワールこそ、手間をかけなければおいしいものはできない。それを当たり前のように出して、ふわふわの卵と並べて包む技術と言ったら……。
泡立てた卵白とブーダンノワールの濃厚な味がうっとりと合わさって、それはそれはあとを引く味になるのであった。
そうやって感嘆の声を上げていると、自家製のパンがやってくる。しかもうれしいことに、それには、豚肉のリエットとオリーブのタプナードが贅沢についてくるのだ!これだけで、パンが進んで、ワインが進んで仕方ないのだ。
そしてそして、いよいよメイン。蝦夷鹿とフォアグラのパイ包み サルミソース。
しっかりしたパイ包みの中から見えるのが、どっしりとした蝦夷鹿、そしてフォアグラ。濃厚で大好きなサルミソース(焼いた野鳥のガラで作るソース)が、これらの中身のうまさを一層引き立てて……。どこまでもどこまでも食べて行ってしまいたくなる。
牛頬肉とテールのワイン煮は、定番のフレンチ料理。
でも、こちらのワイン煮のやわらさかと言ったら! スッとナイフが入ってしまい、お口に入れると、それはもう濃厚で。
うれしくなってしまうのだ。
シャラン鴨のコンフィとレンズ豆のブレビに至っては……。鴨もレンズ豆も大好きな自分としては、ただただ、エンドレスになってしまうのだった。どれだけおなかがいっぱいになろうとも。
そして、不思議なことに! デザートは入るのだ。不思議だ。
実際、ルカンケに来て、自家製のデザートを食べないのは犯罪行為に等しい。
ラム酒のアイスクリームを詰めた和栗のモンブラン
なめらかなガトーショコラとキャラメルのアイス
クレームタンジェ
全部食べた。
「濃厚で、陶酔して、溶けるよなデザートは幸いである……」
などと、つい口をついて出てきそうになったほどの美味!
三人共に、ため息をつきながら
「ああ……おいしかった……素晴らしかった……」とつぶやくしかなかった。
それだけの充実度とコストパフォーマンスがあるお店、「ルカンケ」。フレンチが好きな人だったら、必ず行ってみてほしい。
食事のあと、冬の寒さにもかかわらず、我々は、幸せな気分で体の内側から暖かくして帰途に就いたのだった。
●「ルカンケ」(REQUNQUER)
住所:東京都港区白金台5-17-11
Tel.03-5422-8099
営業時間:11:30~15:00(L.O.13:30)、18:00~23:00(L.O.21:30)
定休日:月曜(祝日の場合は営業、翌日火曜休み)
Webサイト:http://requinquer.jp/
ブログ:http://requinquer.jp/blog/