おひとり様の前菜の楽しみ「ボン・グゥ 神楽坂」(東京・神楽坂)

「ボン・グゥ 神楽坂」(東京・神楽坂)
「ボン・グゥ 神楽坂」(東京・神楽坂)

「ボン・グゥ 神楽坂」(東京・神楽坂)
「ボン・グゥ 神楽坂」(東京・神楽坂)

まだ梅雨明けはしませんが、梅雨の晴れ間の空気や夕焼けは格別ですね。夕焼け偏愛者の自分としては、この季節から夏にかけての夕焼けが大好きで、切なくて、サイコーなのです。どういうわけか、刻々と色を変えていく空を見ていると、ときに胸が締め付けられる気持ちになります。きっと無意識に、戻ってこない“今”をいとおしんでいるんでしょうね。そういう年齢になりました。

前菜を自由に選べる楽しみ

 自転車で通勤していると、建物の工事中だったり、新店が出来つつある様子だったりが目に入ることがあります。こちらのお店も、行き帰りになんとなく眺め、新しい店ができそうだなぁ、と思ってはいました。

 そして、この春、東西線の神楽坂駅の飯田橋寄り出口近くの、2Fに上がる階段の先にそのお店はオープンしたのです。それが、今回ご紹介する「ボン・グウ」さん。

 気になったのが、「フレンチ前菜食堂」というキャッチフレーズ。

 “前菜を主体に、ひとりでも食事を楽しめます”との触れ込みにとても興味が湧きました。

 なにせ、フレンチでは、元々、テリーヌやパテやカルパッチョがものすごく好き。高田馬場のビストロの名店「ラミティエ」さんの名物のテリーヌなど、あのみっしり詰まったお肉の彩りを見ると、途端にうっとりしてしまうんですね。

 お酒を飲む人は、それでワインをガブガブいけるんでしょうけれど、自分は、自転車もあって発泡水でじゅうぶん幸せ。

 そんな、前菜を、サイズもハーフ、レギュラー、ダブルと自由にチョイスしながらリーズナブルに何種類も楽しめるなんて!

 開店からほどなくして通い始め、大好きなお店の一つになりました。

  • 階段
    わくわくしながら昇る階段
  • 客席
    客席はおひとり様でも2人以上でも上手に対応できる組み合わせ

 こちらのお店のうれしいところは、ちゃんと「おひとり様」を考えたメニューにしてくれているところ。

 仕事の合間に、
 仕事のシメに、

 大人だったら、一人でも、しばし食事を楽しみたい夜だってある。

 そんな気持ちに、
 メニューも、
 こちらの設えも、
 お店の椅子も、
 優しく迎えてくれそうな気持ちになりました。

 それはこちらのスタッフの方々の努力にもよると思います。

大胆な発想と崩さぬ格調

 開店早々人目を集めたあとは、数々の企画でファンを増やしていきます。

 ランチでも、前菜の盛り合わせ + スープ + 一人前たっぷりあるタルトフランベ(フレンチのピザのようなもの)で1000円、という超お得セットを展開して、神楽坂の名物に。

 夜でも、ついに、「お好きな前菜2種と飲み物=1500円」という超お得な平日限定のセットを導入。

 もう、フレンチファンや、ご近所の、いわゆる“おひとり様”のお客さんも、ひっきりなしにやって来る状態になりました。

 実際、このセットは、実にお得。ずらり並んだフレンチのメニューの中から、大好きなもの、興味があるものをチョイスして食べてみることができるのですから。

  • ランチ(1000円)の前菜の盛り合わせ
    ランチ(1000円)の前菜の盛り合わせ
  • スープ
    同スープ

  • タルトフランベ
    同タルトフランベ
  • 黒板
    平日夜の超お得セットも登場

 どうしてこういうことが可能になったのか?

 店長の高橋孝光さん(39)曰く、「シェフの野口がいるからこそ、こういう冒険ができているんです」という。

 元々、麹町の「オーグードゥジュール」に勤めていた高橋さんが、オーナーから「新しく料理人が来ることになった。ついては、前菜がいっぱい食べられるお店を出したら面白いと思うんだ。お前、店長でやらないか?」と言われたのがきっかけとか。

 ひらまつや和食などを経験した、腕っこきの料理人野口尚人さんが加わったおかげで、前菜だけでも十分成立する店舗設計が計画でき、これはいけるかも、と思った、と言う。

 そして、2012年3月13日開店。

 そこから、厨房2人、フロア2人での闘いが始まった。

 意欲的なランチメニューや、前菜主体という大胆な発想が功を奏し、ほどなくお客が増え始める。白を基調とした清潔な店内、前菜メインといっても格調は崩さないお店の姿勢、一人客にも優しい設え、そして温かみのある店内を外から見せる大きな窓などの雰囲気づくりも、近隣の目の肥えた勤め人たちに受けていったのである。

新鮮な魚貝にラタの爽やかさ

 さて、今回の料理。平日限定のボン・グウセットを攻めてみた。

 冷菜は、鯵とタイラ貝のマリネ ラタトゥイユ添え。 温菜は、エビとホタテのカダイフ包み揚げ 自家製タルタル。そして、飲み物は、あかね茶に。これに自動的にパンがつく。

 これで、1500円というのは、何度も言うけど、お得だ。

 ちなみに、あかね茶とは小豆のお茶のこと。健康にいいという。

 それを冷たいので出してくれるのがありがたい。

  • 鯵とタイラ貝のマリネ ラタトゥイユ添え
    鯵とタイラ貝のマリネ ラタトゥイユ添え
  • 鯵とタイラ貝のマリネ ラタトゥイユ添え
    鮮度のよいアジにタイラ貝がぴったり。そしてラタトゥイユの爽やかさが合う

 今回は調子にのって、このセットに、一品皿を増やした。

 フォアグラと豚肉のパテ。

 だって、大好きなのだもの。

 注文してほどなく、まず冷菜が運ばれてくる。鯵とタイラ貝のマリネ。アジが、まぁ新鮮でうれしくなる。脂がまたよくて…これがコリコリしたタイラ貝ととてもよく合うのだ。

 この季節、たまりませんね。

 そこにラタトゥイユの爽やかさ、ほどよい酸味や苦みが加えられて、スタートの冷菜としてはぴったりの品。

 そして、フォアグラと豚肉のパテが!

 このみっしり感、実にいい。肉を食べている、という気になり、パンが、すすむ。

  • フォアグラと豚肉のパテ
    フォアグラと豚肉のパテ
  • あかね茶
    ワインも合いそうだけれど、飲まない派は小豆で作るあかね茶で楽しみます

舌でも気持ちでも楽しむ“ご褒美タイム”

 そして、本日の味のメイン。

 エビとホタテのカダイフ包み揚げ!

 これがステキ。エビとホタテがぷりぷりで、カダイフがさっくさくで! これだけでもうれしいのに、ナスがいい具合に揚がっていて。

 極めつけがミニコーン。髭つきのまま揚げてあるのだけど、これが、甘いのだ!

 つい、身悶えながら「うまいなぁ~」とつぶやいた。

 ワインが飲める人間であれば、たまらないラインナップ、どこまでもワインが進むんだろうな、と思う。

 あかね茶や発泡水でもじゅうぶん素晴らしいのだけれども。

 夢中になりながらも、この料理の味を気持ち的にゆっくり楽しむ。

 ほんとうに、ご褒美の時間。

  • エビとホタテのカダイフ包み揚げ 自家製タルタル
    エビとホタテのカダイフ包み揚げ 自家製タルタル
  • エビとホタテのカダイフ包み揚げ 自家製タルタル
    ぷりぷりにさくさくにミニコーンの甘み

 入れ代わり立ち代わり、女性の一人客やカップルが訪れるのも、さすがだった。

 最近、神楽坂では、ワインバーの台頭や、「俺のフレンチ」など、お手軽フレンチ系列のお店が増えている。

 そんな流行に対しても、店長の高橋さんは、「他のお店が敵とかライバルだ、とか考えたことはないんです。あくまでもうちは、食べ物を楽しんでもらう“食堂”なんで。お客様がゆっくりお食事を楽しんでもらえればそれに勝る幸せはありません」と、はにかみながら答えてくれた。

 大満足してお店を後にしたら、もう、夕日は沈み、やわらかい夜がやってきていた。

 いい晩だった。


●「ボン・グゥ 神楽坂」

東京都新宿区矢来町107 細谷ビル2F
Tel.03-3268-0071
営業時間:11:00~15:00(L.O.)、16:00~22:30(L.O.)
定休日:月曜日

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。