榎町の隠れた名店「幸せのはし」の志(神楽坂)

「幸せのはし」(東京・神楽坂)
榎町界隈の路地裏にある名店

  • 「幸せのはし」(東京・神楽坂)
    榎町界隈の路地裏にある名店
  • オススメ限定チャーハン
    ランチタイムの「オススメ限定チャーハン」はサラダ、みそ汁、杏仁豆腐付きで790円。筆者が食べた写真の「和風チャーハン」も本当にパラッパラ! どんどん口の中に放り込んでいくと、ご飯粒が舌の上でおどって、そして絶妙な塩加減。ひじき、ごぼう、さつまあげ、鳥のそぼろ、そして緑豆の具の取り合わせも絶妙。まさにしあわせのチャーハン

江戸川橋から神楽坂までの街並みは、古くからの出版や印刷所が軒を連ねており、今でも中小の会社があちこちにある。隣接する界隈の古くからの地名「榎町」と呼ぶのがふさわしく感じる。その一角、さる小路を入ったところに、今回ご紹介する「幸せのはし」さんがある。

手練れの出版人の隠れ家

 こちらは、昔からある出版社の、すれっからしで一癖も二癖もあるような名だたる出版人が、自分独りだけのために、そっと身を寄せ、密かに食事を楽しむような隠れ家と思わせるような名店なのだ。ただ、“名店”と言ったって、老舗の気後れのするような雰囲気のお店じゃない。店主の寺内良三さん(38)が一人で切り盛りする、とてもアットホームなお店なのだ。

 ランチタイムには、東京中のチャーハン好きを引きつけるようなオリジナルチャーハンを食べさせてくれるお店になる。ラーメン店のチャーハンとはちょっと違う。米の一粒ひとつぶがパラリとして、お腹にやさしくて、一度食べるとクセになるうっとりするようなチャーハンは、たくさんのリピーターを呼んでいる。

 そのチャーハンだけでも、このコラムの上・下編まるまる使ってしまいそうなのであるが、今回は敢えて、夜の創作料理のメニューに焦点を当てたい。

 念を押しておきますが、「あ・え・て、夜の創作メニュー」と言うほど、こちらのランチの和風チャーハンのお味はハンパなく素晴らしいので御銘記あれ。

各国料理の経験がすべて生きる

ディナー帯のメニュー
ディナー帯のメニュー

 そもそも店主の寺内さんの料理は、言わばハイブリッド(混合種)。それには修業の経歴が現れている。洋食から始まり、フレンチ→イタリアン→エジプト料理→スペイン料理、さらに日本料理の仕事場にも立ちと、さまざま料理を経験し、なおかつご自身の血肉にされ、そのすべてが「幸せのはし」に全面的に生かされているのだ。

 さてお立ち会い。こうした“多国籍タイプ”のお店とくれば、FoodWatchJapan編集部の連中はじめとする左党なら「じゃあ飲みに行こう」と言い出すところ、私は下戸なんである。で今回、酒を飲まない自分が「しっかり食べたい夕食」としてお薦めされたのは、次の4品なのであった。

「幸せのはしサラダ」(ハーフ・580円)
「ぷりぷりエビとコーンのクリームコロッケ」(3個・660円)
「サーモンとマグロのカルパッチョ」(820円)
「海鮮たまごのあんかけチャーハン」(ハーフ・850円)

 いずれもとても素敵な出来栄えだった。

あんがチャーハンと卵を包み込み……

 まず、定番の「幸せのはしサラダ」。これはシャキシャキのサラダとパリパリの春巻きの皮のフライが舌触りもよく、導入部としては間違いない一品。

 次の「ぷりぷりエビとコーンのクリームコロッケ」。カニクリームコロッケの応用だと言うが、エビの食感がまさにぷりぷり! で、クリームのしっとりの中で際立って主張している。そのコロッケを、自家製のトマトソースが、酸味を生かして、うまく包み込んで箸が止まらない味になった。

  • 「幸せのはしサラダ」(ハーフ・580円)
    「幸せのはしサラダ」(ハーフ・580円)
  • 「ぷりぷりエビとコーンのクリームコロッケ」(3個・660円)
    「ぷりぷりエビとコーンのクリームコロッケ」(3個・660円)

「サーモンとマグロのカルパッチョ」は、たっぷりのサーモンとマグロの身が、これまたごくうまソースをまとって、皿の真ん中にこんもりと鎮座ましましている。

 このソース、単なるマヨネーズではなく、白ワインとニンニクで味を調えたステキなヴィネグレットソースで、生のマグロの身とサーモンに実によくからみつき、濃厚な味になった。

 そして、最後に、本日のメインイベント、「海鮮たまごのあんかけチャーハン」。これが実にヤバいくらいのお味で。

 まず、トロトロの半熟たまごがチャーハンを包みこんでいる。その半熟たまごにかかるあんかけがまた……。おなじみの中国料理風のあんではなくて、鶏ガラとカツオブシからしっかりとった和風のだしを贅沢に使い、独特のうま味と甘味を出している。やわらかく、ソフトで、とろけるような甘味。

 そのあんが、チャーハンと卵を包み込んで……天国へ連れていってくれるのだ。

 チャーハンの中身についても賛美したい。まず、混ぜ込まれたレタスのシャキシャキ加減が思わず膝を打つような新鮮さ。海鮮を中心とした他の具とのバランスもよく、一度食べたら止まらない、マヤクのようなチャーハンだった。今思い返してもうっとりするほどだ。

  • 「サーモンとマグロのカルパッチョ」(820円)
    「サーモンとマグロのカルパッチョ」(820円)
  • 「海鮮たまごのあんかけチャーハン」(ハーフ・850円)
    「海鮮たまごのあんかけチャーハン」(ハーフ・850円)

原点はおふくろの味

 実際に名うての出版人たちの隠れ家としてあり続ける「幸せのはし」。店主の寺内さんの情熱の原点は、お母様の料理だったと言う。

 男ばかり3人兄弟の末っ子だった寺内さん。お母様が作ってくれたたくさんのおいしいものが心にある。ハンバーグにしてもとんかつにしても、それはそれは幸せな、おふくろのお味。それが、彼の料理の原点だったのだ。

 彼は言う。「食べることが大好きで、料理が大好き。この仕事には底がなくて、一生の仕事だからこそ、やり甲斐があるんです」。

 料理に真摯な態度を持ち続け、日々研鑽を続ける寺内さん。そんな彼の姿勢が、たくさんのファンを引き付けてやまないのだろう。

 メニューを見ていただいてもわかると思うが、夜の料理でも驚くほどリーズナブル。

 是非、近くにお寄りの際には、行ってみてください。損はさせません!


●「幸せのはし」

東京都新宿区天神町22-5 天神ハイツ1F
Tel.03-5228-6084
営業時間:
月~金
11:30~14:30(L.O.14:00)
17:30~23:30(L.O.フード22:30、ドリンク23:00)

17:00~22:30(L.O.フード21:30、ドリンク22:00)
定休日:日曜・祝日

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About 上荻吾朗 40 Articles
編集者 かみおぎ・ごろう 1964年生まれ。北海道出身。週刊誌記者、漫画編集者を経て、WEB製作会社で勤務。震災後、通勤困難を経験して、メタボ対策のためにも、自転車通勤をするようになる。おいしいものを食べることが何より好きな健康チューネン。いかにも飲めそうなヒゲ面のくせに下戸。