これまで10回にわたって「値下げするとお客が減るのはなぜか?」というお話をしてきましたので、価格を集客や販売促進の決め手にすることは誤りだということは理解していただけたと思います。では、集客・販促は一体どのような方法で行ったらいいのか、そのことを説明します。
広告には2種類がある
「値下げするとお客が減るのはなぜか?」全10回の中では、クーポンプログラム、ポイントプログラムの利用は慎重にというお話もしました。しかし、その中でもお伝えしたように、これらには上手な使い方というものがあります。ですから、これらを活用する雑誌やWebサイト、自店・自社で企画するDMやチラシなどのツールが全く無効とか有害とかということではありません。
集客・販促のためで大切なことは、利用するツールで何を伝えるかを適切に考え、まとめ、発信することです。これから説明する事柄は、店頭に置く黒板やバナー、ポスターについても同じことが言えます。
取り組むに当たっては、まず最初に以下のことを確認してください。
飲食店や食品の販売など、商業にとって重要なことは、持続可能な繁盛である。
つまり、今週売れても来週は売れないとか、今年繁盛しても来年は閑古鳥が鳴くということを目指すのではなく、長期にわたってなるべく自然にお客が集まることや商品が売れることを目指すべきだということです。
なぜそうすべきかと言えば、集客・販促とは、自店・自社の利用を考えていなかった人に働きかけて利用を促すことであり、当然にコストがかかるものだからです。しかも、それに頼った経営であれば、集客・販促の手をゆるめた途端に売上げは落ちるのです。
とは言え、もちろん何の働きかけもなく多くの人に来店・利用を継続してもらうことは至難の業です。また、どんなに名声を博す繁盛店とはいえ、常に何らかの活動によって、ある割合で新規顧客を増やしていなければ、客数・購買数は徐々に下がっていくものです。
では集客・販促につながる活動にはどのようなものがあるでしょうか。それはおよそ以下の3つに分けられます。
(1)顧客の経験
(2)ブランド広告
(3)レスポンス広告
このうち(1)は、お客が店舗や商品の利用によってその価値を感じ、再来店や継続利用をしようと思うようになることです。
続く(2)と(3)はいずれも広告ですが、同じ広告でも、(2)ブランド広告と(3)レスポンス広告の2種類がある点に注意してください。
レスポンス広告というのは、その広告に接触することによって、直接的に来店や購買が促されるというものです。クーポンプログラムを持つ有償・無償のメディア(新聞・雑誌・Web等)掲載やDMやチラシなどは、これに含まれます。
これに対してブランド広告とはイメージ広告ともいって、その店や商品に対してよいイメージを与え、お客がその店や商品を選択しやすくするものです。
(1)顧客の経験および(2)ブランド広告については、今後の連載でじっくり説明していきます。今回説明するのは、(3)レスポンス広告についてです。
理論化されているレスポンス広告の極意
広告というものはクリエイティブがかかわるため、とかくどう作ったら“効く”ものかわからないものと思われがちです。しかし、少なくともレスポンス広告の効果的な作り方については理論化されています。それを成し遂げたのは、広告制作をしているディーズという会社の阪尾圭司さんという方です。ディーズはその理論に沿って制作を行って実績を上げているだけでなく、その理論を同社Webサイトや阪尾さんの著書(『お客のすごい集め方』ダイヤモンド社)で完全に公開しています。
彼がその理論にたどり着くまでの苦闘のお話が私は大好きなのですが、それを書いていると結論が遠くなってしまうので割愛します。とにかく苦労して見つけた極意であり、それに従って制作した広告が成功し、彼は社長になったということだけ、押さえておいてください。それだけの力を持った理論だということです。
結果・実証・信頼・安心を伝える
ディーズ式のレスポンス広告制作、阪尾理論によれば、重要なのは次に掲げる4つの要素+1であるということです。
I) 結果(ベネフィット)
II) 実証(実証説明・データ)
III)信頼(第三者評価)
IV) 安心(ユーザーボイス)
+1) ニュース
結果(ベネフィット)とは、その店や商品を利用すると、お客にとってどんないいことがあるか、です。
以下、あるとんかつ店を例として解説していきましょう。たとえば「日本でも指折りのおいしいとんかつが食べられます」という情報が、これに当たります。まず、このようにお客が受け容れやすい魅力を明解に伝えることです。
実証(実証説明・データ)とは、上記のベネフィットを裏付ける情報です。たとえば、「当店の豚肉は○○産の最上級の肉」「パン粉は毎日自家製造の特製生パン粉」「揚げ油は吟味した植物油とラードを秘伝の比率でブレンドした」などなどといった情報です。
信頼(第三者評価)とは、その道の専門家・評論家や著名人による評価があることです。「この店のとんかつは私の知る店の中でも5本の指に入ります云々(料理評論家・○○先生)」といったコメントとか、「女優○○さんも来店」といった情報がこれに当たりますし、信頼されているメディアへの掲載であれば、それだけでこの情報はクリアできます。
とはいえ、それには手が届かないということも多いもの。しかし他に代替があります。営業歴が長い店ならば「創業○○年」とか、そこまで長くやっている店でなくとも「この街で愛されて○○年」「とんかつ揚げて○○年」という情報が使えます。新しい店であれば、1日の販売記録とか作り手の修業歴や受賞歴なども、これに充てられる可能性があります。
安心(ユーザーボイス)とは、上記の第三者評価に似ていますが、それとは違ってぐっと身近な人の声です。「先日家族で食べて、子供もおばあちゃんも大満足(○○町の△△さん)」「給料日後はこれが楽しみで(○○勤務の△△さん)」などといったコメントがこれに当たります。
ちなみに、第三者評価とユーザーボイスには顔写真などが付いていると効果的ということです。そうしたこまごまとしたノウハウはさらにいろいろあるわけですが、最も重要なことは、上記4つの要素がレスポンス広告には必須の内容であること、これさえうまく揃えられれば効果につながるということです。
さっそく、あなたの店や商品で何がどれに当てはまり、伝えやすいかを考えてみてください。
値引き情報はあと一押しに使う
では、最後のもう一つ、ニュースとは何かです。これは「今なら○○」「今だけ○○」といった情報で、上記4要素にこれを加えることで、今すぐの来店・利用につなげる、お客の背中を押す要素ということです。
ここで初めて割引きやポイント還元の話を使うことができます。たとえば、「○月○日感謝デー/ロースかつにヒレ2個つき!」「○日~△日期間限定20%オフ!」あるいは同じく「ポイント2倍サービス」など。
ここで理解していただきたいのは、こうした値引きに関する情報は、上記4要素という本質とは別で、あくまで最後の一押しに使うものであるということです。お客にとっての本当の魅力=来店動機の本体は、あくまでも価格情報とは別の、最初に提示する結果(ベネフィット)であり、それを裏付け、権威づけ、安心させる情報なのであって、値段が安いという話は、4要素で魅力を感じた人にすぐに行動してもらうためにあるのに過ぎません。
さらに、このニュースとは、価格に関するものである必要さえないのです。たとえば、「パリパリの春キャベツがとってもおいしい季節になりました!」「幻の○○豚の肉が△日まで期間限定入荷!」などが考えられます。
あるいは、「○月○日から店舗改装のため長期休業」といった情報さえ、伝え方によってはすぐの来店を促し得るのです。これはディズニーが得意とするものです――イベントをバージョンアップする際に新名称を付け、旧名称についてはいついつ終了すると伝えて「もう逢えない」という風に宣伝することがこれまでにあったことを覚えている方も多いでしょう。
ここはあまり工夫し過ぎるとあざといと見られますから注意が必要ですが、物事は伝え方次第なのです。
クーポンプログラムを持つメディア掲載を行う場合はとくに、今回説明した4つの要素をまずはっきりさせ、本当にお客の心に響くものかを吟味し、表現することを考えてみてください。それらをしっかり整えた上で、「今ならこのクーポンで○○%オフです」と、添えるのです。
それを十分考えずに、いちばん目立つ表現が「○○%オフ!」となれば、過去10回の連載で述べたようなつらいスパイラルに入ります。せっかくコストをかけて行う宣伝ですから、ここはよく考えて、ぜひ効果のあるものにしてください。