前回ご紹介した東京都健康長寿医療センターによる、食事と健康長寿の関係の疫学的な研究の成果をもう一つご紹介します。
それは、疫学的な調査の結果、次の10種類の食品をバランスよく食べている人は健康寿命を長く保つことがわかっているということです。
果物の摂取が足りない
そこで、同センターではこれらをバランスよく摂っているか自己診断できるツール(下図のように表をプリントした印刷物)を作り、それを使って、10種の食品をバランスよく摂るように指導する活動も行っているということです。
- 肉
- 魚介類
- 卵
- 大豆・大豆製品
- 牛乳・乳製品
- 緑黄色野菜
- 海藻類
- いも
- 果物
- 油を使った料理
ただ、これを指導する活動の中で、メンバーたちは社会にも問題があることに気付いています。たとえば、これを説明してくれた同研究所在宅療養支援研究部長の大渕修一氏は、10のうち生活者がなかなか食べないものが2つあると指摘します。
「いもと果物です。いもは食べようと考えていないとなかなか食卓に上らない。社会的な課題と感じるのは果物です。(留学や視察で海外で買い物をした経験と比べると)日本の果物には短所が2つあります。1つは値段が高いこと。もう1つは、ものがない時期があること。これで、日本人は諸外国の人に比べると果物を食べる習慣が身につかない」
日本の果物の価格が高いのは、贈答用やごちそうとして発達したこと、したがって手間をかけ単価を上げることを是としてきたことが強く関係しているでしょう。
また、米や各種の野菜に比べれば、毎日揃わなくてもよいという感覚もあるでしょう。日本の果物は、桃のように極端に短い旬をつなぐ品種をはじめ、収穫期の短いものが主流です。となれば、深い谷底のような端境期があるのは当然で、それを埋める必要を生産者サイドでも消費サイドでも感じていないかもしれません。この空白期間が、また果物の購買意欲を冷やします。
また、アソビグイ(遊び食い。年貢を納めるため以外の作物)という言葉が残る地域も多く、生産者・生活者ともに、戦前や明治維新前からそのイメージを引きずって、毎日の食卓に載せなければという気持ちが希薄なままということもあるかもしれません。
ここに応える農業生産者が現れれば、国民の健康寿命の延伸に寄与するヒーローということになるわけですが。
ところで、ここに述べた「10種類の食品」のリストを笑う人もいるということを付記しておきましょう。どういうことかというと、この「10種類」は栄養学的には全く意味がないということです。栄養学からの指導は、たとえば小中学校の家庭科でも教わるように「6つの基礎食品群」を柱としたものです。それと比べると、この「10種類」は重複と偏りがあり、「6つの基礎食品群」を推奨する狙いが感じられません。ですから、管理栄養士からは「何を言っているんだ」と見られることもあり得るわけです。
なにしろ、「10種類の食品」のバランスを取ると健康長寿につながるというのは統計的に明確に現れた現実である半面、それがなぜ健康長寿につながるのかのメカニズムはまだ解明されていません。ですから、メカニズムを積み重ねることで発達してきた近代栄養学の視点からはいかにも奇妙に見えるのでしょう。ここは、現実とメカニズムを近づける努力を両方の学問の協力で進めていってくれることを待ちたいところです。
※このコラムは日本食農連携機構のメールマガジンで公開したものを改題し、一部修正したものです。