食品照射の安全性が気になるリョウ。タクヤは疑問点に一つひとつ答えていこうとするが、2人とも相変わらずの脱線ぶり。
アフラトキシンに気をつけろ
リョウ 「来たか。ごくろう」
タクヤ 「千葉の農家が落花生をたくさん送ってくれましたので、これ、おすそわけです。おいしいナカテユタカですよ」
リョウ 「おお、サンキュー。でも、落花生ウチにも残ってたな……。たしか去年もらったものがまだ。……あ、あった、あった。こっち先に食おう」
タクヤ 「うわ。それ大丈夫ですか? カビ生えてないでしょうね」
リョウ 「さあね」
タクヤ 「落花生のカビはやばいですよ。アフラトキシンという物質にやられる可能性がありますよ」
リョウ 「え! それはまずいな。せっかくの食べ物なんだが、これで体壊してもなぁ。やれやれ、捨てるしかないか」
タクヤ 「おいしいものは取っておかないで、さっさと食べましょう」
リョウ 「で、アフラトキシンて、なんだい?」
タクヤ 「カビ毒の一種で、『自然界最悪の発がん性物質』と言われています。主に熱帯、亜熱帯のカビで発生するので、そうびくびくすることもないとは思うんですが、用心に越したことはないでしょう」
リョウ 「熱帯、亜熱帯ということは、この間の話に出たスパイスにも関係ありそうだな」
タクヤ 「アフラトキシンは輸入したスパイスやナッツからはしばしば検出されるようですね。だいたいは基準値以下のようですが」
リョウ 「ふーむ。やっぱり食品照射で微生物をやっつけるのが安心ということになるのかな」
タクヤ 「全日本スパイス協会は2000年に『香辛料の微生物汚染の低減化を目的とする放射線照射の許可の要請』というのを当時の厚生省に出しています」
リョウ 「そうだったんだ。食品扱う仕事をしていれば、誰だってより安全なものを出したいって考えるものだよな」
タクヤ 「ほかにも、レバーなど、モツ、ホルモンの有効活用を推進している日本畜産副産物協会が食品照射のセミナーを行ったり、食品のいろいろな企業・団体が調査や研究をしていますよ」
無菌酢豆腐のお味は?
リョウ 「しかし、なんだね。放射線というのは何かこう、得体のしれないパワーがありそうだから、そのカビで発生しちゃったアフラトキシンとかも分解とかしてくれるんじゃないかね?」
タクヤ 「いやー、隊長。今日も素人らしいボケ役際立ってますね。ナイスです」
リョウ 「まじめに聞いておる」
タクヤ 「あはは。すみません。まずですね、傷んだ食品に放射線を照射することで元通りにすることはできないということは、覚えておいてください」
リョウ 「落語に『酢豆腐』というのがあるが」
タクヤ 「上方で言う『ちりとてちん』ですね」
リョウ 「あれは鍋の中にほったらかしにしておいた豆腐がカビて腐って臭ってというやつなんだが、もしもあれに放射線を当てると……」
タクヤ 「カビとか腐敗菌の死んだ酢豆腐になるでしょうね」
リョウ 「食えるか?」
タクヤ 「目にピリピリッとくるところがなんとも言えなくて、食べた途端に目を白黒させて扇子で顔をバァ~ッと扇ぐという具合でしょうね」
リョウ 「やっぱり一口に限るか」
タクヤ 「食べないほうがいいでしょう。ていうか、食べられませんて」
リョウ 「カビたピーナッツはどうだ?」
タクヤ 「カビの死骸の付いたピーナッツになるでしょうね。カビ毒が出来ちゃっていれば、それが消えるということもないと思いますよ」
リョウ 「そうか。じゃ、いかれた食品を買い叩いて仕入れて、放射線当てて食品に変えちゃうなんてことは……」
タクヤ 「ムリ。放射線照射は魔法じゃありません」
リョウ 「巨大化して怪獣になっちゃったりして。怪獣チリトテチン」
タクヤ 「それは『ゴジラ』とか『ウルトラマン』とか、映画やテレビの世界の作り話ですって」
リョウ 「なんだつまらん」
歪んだ実験
タクヤ 「ところで、食品照射とアフラトキシンについては、ちょっと因縁があります」
リョウ 「おぅ、因縁つけようってのか」
タクヤ 「食品照射で、アフラトシキンを作るカビが増殖する可能性を指摘した人がいます」
リョウ 「へぇ。そりゃやばいじゃないか」
タクヤ 「でも、それを指摘するために行った実験というのは、普通の食品に対して施すようなものではないプロセスでやったようなんです。実際のところは、適切に放射線を照射した後きちんと貯蔵した食品でアフラトキシンが増えることはありません」
リョウ 「まあ、変な実験する人はいるよな。生の大豆には毒があるのに(「大豆変身物語」マメ類の有害物質参照)、生でラットに食わせて『有害だっ!』て騒いだり、食べ物をラットの体の中に注射して『がんになったぞーっ!』て騒いだり」
タクヤ 「予断の圧力が強いと歪んだサーベイの設計しちゃうっていうのは社会調査でもありますし、ま、どの業界にもありがちな話です」
リョウ 「じゃさ、放射線を照射することで微生物を増殖させることはないとしてだ、何かこう、不都合な物質が出来ちゃうということはないのか」
タクヤ 「食品に放射線を照射することで何かの物質が出来るということは、たしかにあります」
リョウ 「そら来た!」
タクヤ 「ただし、そういうもののほとんどは、放射線の照射をしなくても出来る類の物質です」
リョウ 「なんだ。トーストでもフリーラジカルが出来るというのと似たような話か」
タクヤ 「まあ、そんなところで。とは言え、例外的なものもあるのでして、『放射線照射のみによって特異的に生成する放射線特異的分解生成物』というものが、なくはないです」
リョウ 「そら来た!」
タクヤ 「と、盛り上がっているところ恐縮ですが、ほかの人にも配って歩かなくちゃなので、今日はこのへんで。次回続きを」
リョウ 「配るって、何を?」
タクヤ 「落花生」
リョウ 「勝手にせい」