だんごをもちもちしたままにできるトレハロースについて話していたはずが、ネムリユスリカが宇宙に行った話になって盛り上がりすぎた二人だったが。
干しシイタケもトレハロースで
リョウ 「来たか。ごくろう」
タクヤ 「知り合いが干しシイタケをたくさん送ってくれたので、おすそわけです。はいどうぞ」
リョウ 「おー、サンキュー。今日の酒のアテに煮しめてやるか。水に戻しておこう」
タクヤ 「それですよ、隊長」
リョウ 「なんだ?」
タクヤ 「乾燥したシイタケを水に戻すと、だいたい元の形になりますよね」
リョウ 「まあ、そうだな。そのものの元の姿見てたわけじゃないけど、だいたいシイタケってこんなもんだわなって形にはなる」
タクヤ 「それも、トレハロースのおかげなんですよ」
リョウ 「お。干しネムリユスリカだけでなく干しシイタケもトレハロース抱えてるんだ」
タクヤ 「あと、イワヒバって植物知ってます?」
リョウ 「じいさんの盆栽棚にあった気がする」
タクヤ 「あの植物は乾燥すると、くる~っと丸まっちゃうんですが……」
リョウ 「水をかけると戻るのか?」
タクヤ 「数時間とかで、元どおり“生きてる”イワヒバになります。なので、この仲間は『復活草』なんて呼ばれるんですね」
リョウ 「それもトレハロースで?」
タクヤ 「はい。それからクマムシというのがいまして」
リョウ 「熊本のゆるキャラな」
タクヤ 「それクマモンです。クマムシ」
リョウ 「クマなのかムシなのかはっきりしてほしいな。どこに棲んでるんだ、そんなムシ」
タクヤ 「海の底深~くから、高いお山のてっぺんまで。暑い国から寒い国まで。温泉の中にまでいるという、神出鬼没ぶりでして」
リョウ 「どこにでもいるったって、オレは見たことねーぞ」
タクヤ 「50μから2mm近くまでの大きさの小さな動物でして」
リョウ 「ミクロン(μ)ではなくマイクロメートル(μm)と言いたまえ」
タクヤ 「失礼しました」
リョウ 「で、それがまた干しクマムシになってもトレハロースで生き返ると?」
タクヤ 「なのです。干しクマムシになっていれば、乾燥にも、高温にも、極低温にも、放射線にも、超高圧にも、耐えるそうです。これもトレハロースが関係していると」
リョウ 「ネムリの野郎もすごいが、クマの野郎もすごいな」
タクヤ 「フルネームで呼んであげてください。あと、酵母とか、カビの胞子とか、アルテミアなんかも、やはりトレハロースのおかげで乾燥しても大丈夫だと」
リョウ 「アルテミア知ってるぞ。『シーモンキー』ってやつだ。塩水に乾燥した卵を振り入れとくとエビみたいなもんになるという」
タクヤ 「あはは。私も飼ってました」
「ヒドロキシ基」のひどい説明
リョウ 「いろいろな生き物がトレハロースのおかげで乾燥した後も生き返ることはわかった。干しなんとかがいっぱい出て来て呼びにくくなったけどな」
タクヤ 「こんな風に乾燥した状態で死なないでいる生き物は、その状態で代謝が止まっていて、それでも組織が壊れずにいるわけですが、こういう状態を干しネムリユスリカとかとは言わないでクリプトビオシスと言います」
リョウ 「出た難しい横文字」
タクヤ 「難しいとか言わないで暗記しといてください」
リョウ 「クリプトビオシス、クリプトビオシス、ク・リ・プ・ト・ビ・オ・シ・ス、と。しかしな、トレハロースがあるとどうしてそうなるのかがわからんね。メカニズムの話をはよ」
タクヤ 「トレハロースの分子構造を調べると、水と似たヒドロキシ基の配列になっているそうです」
リョウ 「あ、いま棒読みっぽかったぞ。お前、その意味ちゃんとわかってないだろ」
タクヤ 「あはは(汗)。あの、たとえばですよ、隊長ネギマの焼鳥好きですよね?」
リョウ 「突然何だ? ネギマはな、むね肉とネギをパクッと一口で食うのが好きだね。うん」
タクヤ 「でも、砂肝とレバーは苦手なんですよね」
リョウ 「やだ」
タクヤ 「もしも『砂肝→レバー→砂肝→レバー』っていう風に串に刺さってたら……」
リョウ 「腹立つ」
タクヤ 「ところが、『むね肉→ネギ→砂肝→レバー』ってなってたら?」
リョウ 「先っちょのむね肉とネギをパクッといくね」
タクヤ 「ま、なんかそんな感じなんじゃないですか。中身違うけど、先っちょが似てるから取っつきやすいなぁなんて」
リョウ 「お前、理科の人にあとで怒鳴られても知らねぇからな」
タクヤ 「そこはまぁ、北遥が謝る手はずになってますんで」
リョウ 「読んでるみなさん、この説明がおかしいと思ったら連絡してやってください」
タクヤ 「お手数おかけします」
リョウ 「と言いながら、帰るしたくしてるね」
タクヤ 「またお目にかかるでござる」