【チキンの商品開発 2】今回は、チキン加工品の製造から提供までの新しい形について紹介したい。
コンビニエンスストア(以下CVS)のカウンターフードとして、今やフライドチキンは欠かせない存在だ。今日、このような鶏の加工品は海外で生産した最終加工品を輸入するという形が当たり前になっているが、それを始めたのは1990年代前半であった。
その第一期を本稿では1990年代前半から2000年代の初めまでとする。というのは、2010年代に新しい段階=第二期に入ったと考えているからだ。
輸出国での加工による高品質・低価格化
まず、1990年前後に、日本の冷凍食品メーカー各社がこぞって鶏肉加工品の生産拠点をタイや中国に移し始めた。このあたりのことは、前稿で述べたとおりだ。
当時、とくにタイは鶏原料輸出国としてすでに重要な地位を占めていたが、冷凍肉を輸入して日本国内で加工するのではなく、タイで最終加工品まで仕上げてしまえば品質とコストの両面で有利になるのではないかという発想が生まれる。
品質がよくなる事情はこういうことだ。
タイ産の未加工の原料を輸入して日本国内で唐揚げ製品などを製造する場合は、冷凍品として届いた鶏肉を解凍し、これを調理加工し、その後でまた冷凍して店舗に届けるという形となる。つまり、2回冷凍される(ダブルフローズン)となる。
しかし、これは鶏肉以外の原料でも言えることだが、ダブルフローズンとはつまり原料の温度変化の回数を増やすことである。これによってジューシー感は失われ、鮮度が落ちることで独特の“鶏臭さ”が出てしまう。「チキンは嫌い」という人の多くはこの鶏臭さを理由として挙げるので、ダブルフローズンが鶏嫌いを増やしていると推測できる。
一方、タイ国内で、冷凍していない原料を使って調理加工を行えば、冷凍は加工後の1回だけ(シングルフローズン)とすることが可能になる。このほうがジューシー感が保たれ、臭みも出にくい。むしろ圧倒的に高鮮度の製品を提供できるのだ。
しかも、タイは国策として鶏産業に取り組んでおり、タイの鶏加工メーカーは同国の産業界でエリート集団であることを押えておきたい。量、品質、コスト、そして新しい取り組みへの対応力などで他の国と比べてもアドバンテージが高い。加えて、オンシップ(海上輸送の所要時間)が2週間程度という距離感も魅力となる。
そして、タイのチキン加工工場はスローターハウスを併設している場合が多いのである。屠鳥からチルドのまま迅速に調理加工にかかる体系が可能な工場が揃っているということだ。
現在、CVSや多くの外食が扱っているチキン商品はほとんどがこのパターンだ。チキンのフライもほとんどの場合、タイの工場でフライまでの加熱加工をして輸入し、店内で再加熱することで提供している。
生鮮解禁を商品開発に活かす
さて、第二期とは何か。これはチキン産業大国タイを襲った不幸な出来事から話が始まる。
2004年、タイで高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された。このため、タイから日本への生鮮家禽肉(冷蔵・冷凍とも)の輸入停止措置が取られることとなった。以降、タイからの輸入は加熱加工品のみ許可されており、生鮮は輸入できないという暗黒の時代が長く続いた。
ところが、2013年12月25日、日本の農林水産省はタイにおける鳥インフルエンザの清浄性を確認したため、タイからの生鮮家禽(かきん)肉(冷蔵・冷凍を含む)の輸入停止措置を解除したと発表したのだ。輸入停止から約10年ぶりの快挙であった。
私はこのニュースに大きな商機を感じた。このニュースを受けてのメーカーの輸入担当者たちの反応としては、生鮮原料を輸入する先が増えたという受け止めが多かったのだが、前段で述べたように、未加工の生鮮原料を国内に持ち込んでも我々にとってメリットはない。私の場合、これは新しい狙いどころではないかと、全く違うことを考えた。
つまり、この生鮮解禁を、生鮮原料の輸入で考えるのではなく、“生加工品”という考え方で生かそうと考えたのだ。それによって、タイからの鶏加工品の鮮度をさらに上げることが出来るのではないか?
タイ現地では、屠鳥してからチルド保管し24時間以内で加工される原料が使える。いわば、鶏刺しにできるほどの品質の鮮度のよい原料だ。これに味付けをして衣を付けて、加熱調理をせずに冷凍して輸入するのだ。こうすると、料理としての加熱は店内のフライヤーだけになる。
実は、現状一般的な工場で揚げて、店舗でも揚げる二度揚げ体系ではジューシー感が落ちていることも事実なのだ。だが、非加熱の冷凍品とすれば、この問題を一気に解決できる。
ただし、この方法にはリスクもある。加熱不良があれば、中身が赤いものを出してしまうことがあり得るということだ。現在CVS等で採用されている製品は管理レベルの高い工場で完全加熱したもので、このリスクは低い。しかし、店舗でのフライが唯一の加熱プロセスという場合はどうか。
とは言え、この過当競争のなか、生加工品によって高品質を打ち出せるのは魅力だ。私はぜひこれを実現しようと考えた。
前職では、チキンにピックル(調味液)を打ち込んで味付けしたIQF(Individual Quick Freezing/急速バラ凍結)のポーションを店舗で解凍してチルド原料として扱うオペレーションを採用した。解凍後の鶏生肉に通常のバッター液を付けてフライすればクリスピーチキン、辛いバッターを付けてフライすればスパイシーチキン、またグリドルで焼き上げればグリルドチキンという形で3アイテムを展開した。
この結果、工場での加熱コストがかからなくなったことと、数量をまとめることで品質アップとコストダウンを同時に実現することができた。
現職では、ほぼ同じ手法ではあるが、工場で生から衣だけを付けてIQFをかける形を採った。店舗では解凍のプロセスを廃止し、冷凍状態の製品をフライヤーに直接投入する。前のやり方では、店舗で解凍後に冷蔵保管をすることでの鮮度落ちがあったが、これを防ぎ、鮮度を上げることが出来た。
また、前のやり方では、チルド化したものを調理するため受注後のオペレーション時間は短くできたが、解凍したはずでも中心温度がチルドの温度帯まで上がっていなかった場合には生が出やすい欠点があった。しかし、新しいやり方では、冷凍状態から6分15秒という長時間フライとすることで、結果的には品位を安定させることが出来た。
この取り組みは、政府決定事項をうまく商品開発に活かすことができた事例だと考えている。世の中が動くときに切り口を考えれば面白いことが出来るのが、商品企画開発の醍醐味だと思っている。