「商品開発の仕事がしたい」という人は多い。しかし、どうしたらその夢を実現できるかがなかなかわからない。「商品開発」という言葉が表す範囲が広すぎて、実のところ何をしたいのかが特定できないからだ。
商品開発の範囲は広い
食品の商品開発に携わる人が集まって語り合う会を、定期的に開催している。最近は携わりたい人=学生さんも参加してくれるようになり、新鮮な会話ができて面白くなっている。
先日のその会で、ある学生さんから「商品開発の仕事に就きたいけど、どうしたらいいですか?」と聞かれた。なるほど思いはわかったが、私は答えようがなかった。むしろ、「商品開発とはなんだろう?」と、逆にこちらが考えさせられた。
こちらのテーマだけで本が1冊書けるくらい広いと思うので、まずは大枠の定義をしてみる。この学生さんと同じ気持ちの方々の参考になれば幸いだ。
「商品開発の仕事がしたいのですが」――これは本当によく聞く言葉だが、これほど曖昧で漠とした言葉はないと感じる。
この学生さんのイメージされているところは、外食業か食品メーカーで新商品を企画することなのではないかと思うが、考えれば考えるほど、「商品開発」というものは範囲が広い。第1次産業から第3次産業にわたって、それらのすべての仕事の中に、いわゆる「商品開発」というものはある。
原料生産から包材開発まで
たとえば豚肉の流れについて考えてみよう。
まず、畜産農家がおいしい豚肉を作ろうとして、豚の育て方を考えるのも商品開発であり、豚の品種や餌を選ぶことも当然含まれる。
おいしい豚肉になるように、豚の配合飼料を開発するメーカーにも商品開発の仕事はある。
おいしい豚が育って、それを解体する方法にもおいしくするノウハウはある。私の大先輩で、大手ハムソーメーカー100%子会社の精肉原料加工をしている会社の元社長が、「ウチは安い肉をそれなりの肉に、それなりの肉をおいしい肉にして売るのが仕事なんですわ!」と豪快に笑っていたのを思い出す。それだけ技術に自信をお持ちだ。
また倉庫業で、保管方法やエージングで肉のうまみを増す方法を開発している人もいる。運輸では、温度や湿度を保っておいしい状態で運ぶことを考えている人がいる。
その原料が今度はどこに行くか? メーカーの工場に入る場合もあるし、精肉店の店頭に並ぶこともあるだろう。あるいはレストランかもしれない。
メーカーには、そのメーカー独自の調理(加熱や味付け)を行う専用ラインを開発する人がいる。工場での保管方法にもさまざまな工夫があることだろう。
また外食チェーンであれば、店舗オペレーションにもノウハウがある。「お客様が召し上がる時に、いちばんおいしい状態になるようにするにはどうしたらいいか?」と知恵を絞る。テーブルサービスなら皿の上の視覚的なデザイン、ファストフードであればおいしく食べるための包装資材の開発も重要だ。たとえばマクドナルドの包装資材のパテントはかなり多く、しかもそのほとんどが気が利いている。
これら、商品そのものと商品にかかわるすべてが「商品開発」という言葉の範囲に入るはずである。
全体像の中で自分の長所を発揮する
この連載のタイトルは編集者が勝手に付けたものだが、「マーチャンダイザー」という言葉がある。チェーンストア業界では、マーチャンダイザーを「商品を原料から消費の瞬間までトータルでデザインする人」と定義しているが、最近ではおいしさや安全などの品質のほか、環境負荷まで考えなくてはならない。こうなると、「消費の瞬間」では足りず、「消費後の廃棄の瞬間」まで考慮しなければならない。
商品開発者として、このように全体をデザインするマーチャンダイザーになるのもいいが、一点集中の専門家になる道もある。食品のマーチャンダイジングであれば、味についての設計をする仕事に就きたいと考えている人が多いとは思うが、ひとくちに「商品開発」と言ってもさまざまなステージがあることを理解し、その中で自分がどんなことをしたいかということをイメージしてほしい。
食品業界の技術革新は日進月歩で、10年前に不可能だったことが今では当たり前になっているということも珍しくはない。その変化の中で、一人ひとりの役割もガラリと変わることがある。たとえばパティシエになってから、食品メーカーで活躍されている方もたくさんいらっしゃる。
こうしたことを踏まえて、では自分ならどんな商品をどうやって生み出し、どうやって世に問うか、どの分野にかかわっていきたいかを考えてみてほしい。自分の強みはどのステージに向いているのかを今一度よく考えて、その上で企業にチャレンジすることが肝要ではないかと思う。なぜなら、こうした全体像を理解して具体性を持つことができれば、企業の人事担当者に「他の希望者よりも商品開発について掘り下げている」と感じさせることができるに違いない。
もちろん、これは就活対策だけの話ではない。全体の商品の流れを把握して、どのポイントで差別化をしていくのかを考えられないと、他社との競争に勝てる時代ではないのだ。