コーヒー相場高騰の中、仕入れ価格ダウンを実現

コーヒー豆暴騰の中、いかに価格を維持するか
コーヒー豆暴騰の中、いかに価格を維持するか

コーヒー豆暴騰の中、いかに価格を維持するか
コーヒー豆暴騰の中、いかに価格を維持するか

ファストフードチェーンの現役マーチャンダイザーが、最新の話題から仕入れ、商品開発の苦労と面白さを語ります。

1年で倍の価格はこの20年で初の経験

 食品関連の原料高はかつてない勢いで継続してきている。特にコーヒーは異常値といえる。

 私もチェーン本部の仕入れ担当の仕事を20年以上しているが、かつて経験がないレベルまできている。2010年クロップの相場上昇はコーヒー大手各社が家庭用価格の値上げに踏み切るほどのインパクトがあり、過去最高値になっている。

 通常コーヒーの価格決定要因はニューヨーク取引相場価格が原料価格の指標となっている。この原稿を書いている2月17日現在1lb(ポンド。453.6g)=269c(セント)だが、1年前は約130cだった。キロ単価換算すると、この1年間で260円/kgから540円/kgまで上昇している計算になる。

 為替相場が円高にふれているが、吸収できるレベルではない。過去にリーマン・ショック前に180cまで上がったことがあったが、その後110c程度まで落ち着いたので、現在の状況がいかに異常な数値かがうかがえる。

投機マネーが現物市場に

 相場上昇の理由は3つあると言われている。

 第一に、新興国のコーヒー消費上昇。ブラジルや中国での消費が増えてきている。

 第二に、天候異変とその対策のため。ラニーニャやエルニーニョによる洪水や酷暑による生産量減。

 コロンビアはこの異常気象に対応するため、災害に強い品種への植え替え(品種更新)を06年から07年にかけて実施した。コーヒーが安定的に生産されるようになるまで4年から5年かかることから、生産量が減っている。07年ころ植え替えを実施し、元々1100万~1200万tあった生産量が、09年800万t、10年900万tと言われている。

 第三に、米国の金融緩和政策により、金融系ファンドが株式市場から原料現物に資金注入し出した、投機マネーによる影響。需給バランスが狂ったことが根本的な高騰要因だが、その実態よりも上がっている理由は、三番目の投機マネーの影響が大きいと言われている。

 今後の動向は、今年度クロップが現在より良くなることと、金融市場が元気になってくれば、投機マネーがコーヒー相場から金融株式市場に戻る可能性があり、そうなれば落ち着くかもしれない。しかし、現時点ではなんともいえない。

産地との関係づくりが大切に

 さて、ここまでは一般論だが、では本当に相場上昇が仕入れ価格に直結するのか?答えは否である。

 相場というものは市場を通ったものの価格であるので、通ってないものについてはこの限りではないことをまず理解しなければならない。産地と直接契約栽培で原料調達をしている場合は、相場と連動しているとは考えづらい。

 例えば、国内の生鮮野菜の価格は市場相場よりも大手流通が直接契約栽培をし、市場を通さないで調達している比率のほうが高くなってきているので、昨今は相場というもの自体が崩壊していると言われている。この場合相場より人間関係が出来ていることのほうが重要らしい。

 ちなみにスターバックスさんは相場が安い時期にある程度高めに仕入れることで、契約栽培を実施するとともに農園指導を実施していた実績から、このところの原料高騰でも極端に仕入れ価格は上がっていないだろうと思われる。

 必要数量に対して極端に原料が薄くなれば、取引価格は上がってくるのは当たり前だが、投機的な要素を出来るだけ排除して調達することに配慮しなければならない。

原料価格以外の情報にも注目

 ロースターが販売価格を交渉してくるとき、通常当たり前のように相場の話をしてくるが、コーヒー豆は基本年間1回収穫なので、そのロースターがどのタイミングで原料を確保しているかがポイントになる。普通のロースターは原料在庫を半年から1年は持っているので、“相場高騰=値上げ”にはならないはずである。

 他の商品も含めて、モノによってはもっと長い期間を持ってしまっていることもある。原料相場高騰の期間と調達時期に注意を払わないといけない。基本的な話だが、価格を構成する要素は原料価格だけではないので、このあたりにも好条件を引き出せるネタがある場合も多い。原料高騰は当然価格に影響するが、メーカーごとの事情と言うものもあるので情報のアンテナ感度を良くしておきたい。

 例えば新築の工場の稼働率がいまひとつ上がらない場合は、通常の利益幅を削ってでも商売を取りたいという事情があるかもしれないし、メーカーごとに確保している原料の種類や調達コストも違う。またメーカー間競争のマーケットシェアの奪い合いに、うまく乗ってしまうというやり方もある。これは既存の商圏とライバル関係をよく知ることから交渉は始められる。

 なお、今回のコーヒー相場高騰については、ロースターとの商談の詳細は明かせないのだが、3月以降レインフォレスト認証農場コーヒーに変更し、大幅コストダウンの約束を取り付けることが実現できた。現在の相場高騰から考えると、通常であれば400円/kg以上はコストアップしてもなんら不思議はない話だったが、こういうラッキーなケースもあるということだ。

 また、その前の仕入れ価格も決して不利な条件ではなかったことをご報告しておきます。

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About 今井久 13 Articles
FFSチェーン マーケティング本部長 某ファストフードチェーンのマーケティング本部長。コンビニエンスストアチェーン、サンドイッチファストフードチェーン、ハンバーガーファストフードチェーンの商品開発に携わってきたこの道30年の現役マーチャンダイザー。仕入れのために日本中、世界中の産地と工場を訪ね、新商品の設計から物流までに知恵を絞る毎日。