今年の香港の「フード・エキスポ」では、日本人シェフによるプレゼンテーションと実演が高い関心を集めていたことも印象的だった。
日本文化の紹介から頂点の共有へ
JETROジャパン・ブースで行われた「木乃婦」(京都)の高橋拓児シェフのセッションは満席の状態で、とくにプロの料理人、料理学校の生徒、教師が熱心に聴き入っていた。高橋氏はとくに日本および京都の地理、歴史、気候風土、食材と水の特徴などを踏まえた説明を行った上で実演をし、聴衆はそれを聴き、見て、さらにその料理をその場で試食した。
聴衆からは「日本の食文化を理解することができた」「日本料理に関する知識をいっぱい聞くことができた!」というように、日本料理のファンづくりにつながったという声が多かった一方、「日本で非常に権威のある料理家であり、料理の基礎がよく理解できた」「日本と中国の料理の技法の違いもわかった」など、料理そのものの理解を深める機会になったという声もあった。
学生らとセッションに参加していた香港理工大学School of Hotel & Tourism Managementの羅啟聰氏も、「学生はこのように世界の料理を学ぶことが大切」と語った。
日本が香港で演じる役割として、日本の売り込みという目先のものだけでなく、知識や技術の頂点を目指す姿勢とその成果の共有というものが期待されているように思われた。
生活者もプロの技への関心が強い
JETROジャパン・ブースはプロ向けのトレードホールでの展開だが、一方、一般向けのグルメゾーンでも、日本のシェフのセッションに人気が集まった。香港の富裕層に人気の名店「名厨」の高橋淳シェフによる日本料理の実演セッションは、開場の30分以上前から行列が出来てやはり満席となった。
こちらに集まったのは一般市民が中心だが、ステージは料理学校と同じように仕事を俯瞰できるミラーを備えた本格的な料理セッションで、聴衆はその実演を食い入るように見聞していた。
香港人の食生活は外食が基本と言ってもいい。しかし、だからと言って料理のプロセスを知らないわけではなく、むしろプロの技を知ろうとするニーズが強いことを感じさせる。
ここでも思い出しておきたいのは、香港には日本式の飲食店が多いが、それだけでなく街には世界各国の料理がそろっているということだ。日本式の料理、日本の食材、日本の加工食品などが、その中でいかに突き抜けるか、突き抜け続けるかが重要だ。
香港人の食生活の意外な頑固さ
香港人の食生活は外食が基本と記したが、もちろん家庭で全く調理をしないわけではない。彼らにはまた独特の調理文化、食文化がある。香港人は合理的で進取の気性に富む印象があるが、食生活については意外な頑固さも持っている。
それはたとえば、香港独特の炊飯器の形に表れている。香港でも日本製家電製品は人気商品の一つだが、炊飯器は日本式のままではなく、香港バージョンというものがある。最大の特徴は、内釜上部にセットできる蒸し用バスケットが付いていることだ。
バスケットの使い方の一つは、炊飯と同時に蒸し料理も仕上げてしまうこと。また、バスケットで具を調理して、混ぜご飯にするといった使い方もある。地価が高い香港では一般にキッチンは広くない。しかも、彼らは忙しい。そこでこうした同時並行調理が役立つのだ。
また、このバスケットを使っていもやかぼちゃを蒸かしておやつに食べるということもよくあるという。香港は高層ビルが建ち並ぶ大都会で、人々は新しいもの好きでというイメージがあるが、日本でも忘れられてきているこうした懐かしいおやつがあるところが香港の人々の食に対する姿勢のもう一つの面を示しているようだ。新しいものを取り入れる一方、持っている文化を簡単には手放さない。