農業生産と環境への負荷について、次にハイブリッド品種(F1、一代雑種)について考えよう。最近、これの使用を問題視する論を目にするが、実際のところどうだろうか。
ハイブリッド品種とは何か?
まず最初に、ハイブリッド(F1)品種の問題と遺伝子組換え品種を混同されている方がときどきいるので、そこは注意していただきたい。ハイブリッド品種と遺伝子組換え品種というのは、分類の基準が違う、全く別な話題だ。
ハイブリッド品種というのは、通常の交配方法をさらに高度化した方法で、純粋な全く違う性質を持った親同士を交配させて出来る品種のことだ。
これは植物でも動物でもある。たとえば、牛にもハイブリッド品種というものがある。
ホルスタインという有名な乳用品種の牛があるが、ホルスタインは非常に体が大きい。対して、日本の和牛は、非常に小ぶりな牛だ。このホルスタインと和牛を交配すると、体の大きさはホルスタイン並みで、肉質は和牛に近い品種を得ることができる(ただし、純粋な和牛ほどの肉質にはならない)。これが、ハイブリッド品種というものだ。両方の“いいとこ取り”をしようとしている交配技術ということで、交配であるという意味では通常の交配技術と変わらない。
ハイブリッド品種が問題とされる論点の一つは、あまりにもよい品種だと、単一品種になってしまい、自然の多様性が失われるという指摘だ。
しかし、皆さんご存知のとおり、現在の日本で栽培されているコメの品種ではコシヒカリが圧倒的に多く、多様性という観点ではそれを危うくするような状態になっているのだが、これはハイブリッド品種ではないので問題にされない。通常の交配品種では問題にされないのに、ハイブリッド品種では問題にされてしまうというのは不思議だ。
また、ハイブリッド品種にはもう一つ特徴がある。ハイブリッド品種そのものつまり雑種第一代の次の世代では、ほとんどの場合、雑種第一代の優れた性質は失われる。したがって、ハイブリッド品種の種を買ってきて栽培し、その種子を採って翌年それを植えても、同じ性質の作物は出来ないのだ。これは、遺伝子に何か操作をしておいて、雑種第一代だけにその性質が現れて二代目以降にはその性質を受けつがせないようにしているということではない。遺伝の法則に従ってそうなるというだけのことである。
ハイブリッドは種苗会社の陰謀か?
しかし、栽培した作物から種子を採ること(自家採種という)ができないのは、農家に支出を強いることで問題だという論もよく目にする。しかし、農家が種苗を買うということは特別なことではなく、ハイブリッド品種でも、そうではない自家採種が可能な品種でも普通に行われていることだ。農家が種苗会社から種苗を買うのは、優良な品種を選びたいということのほかに、発芽に失敗がなく安定した生産を期待するという面もある。もちろん、毎年自家採種で栽培し続けているという農家もいるが、それにはそのための土地が必要でコストも手間もかかる。それよりも種苗の確保は専門家に任せるのが合理的と考える生産者がいることで、種苗会社は成り立っていると考えるといいだろう。
品種という問題については、最近在来種を守ることを意識されている方が多くなっている。これは、非常に重要なことだ。なぜなら、遺伝子は一度失われば戻ってこないからだ。
その観点からハイブリッド品種をよくないものと考える人もいるようだが、ハイブリッド品種が作物生産の現場でメジャーになることがすなわち在来種を絶滅させることにはならない。在来種を熱心に栽培し続ける農家や、ハイブリッド品種以外に在来種を扱っている種苗メーカーは多い。種苗メーカーにしても、多様な遺伝子資源を持っていることは、新しい優良な品種を開発するために必要であるから、その保存には力を入れている。また、国や各国の研究機関は、遺伝子資源を保存するためのジーンバンクを整備してもいる。
ハイブリッド品種については、もう一つ、その栽培には農薬や化学肥料の使用が必須であるということを言う人もいるが、別にそのようなことはない。ハイブリッド品種を有機栽培で育てることは可能だし、実際にそうしている農家もいる。
このようなわけで、ハイブリッド品種であるから環境上の問題を生ずるということはない。その点では、通常の品種改良をされた種苗と同じことである。
いずれにせよ、栽培しやすく、多収で、品質のよいものとして、バイブリッド品種は栽培現場で非常に重宝され、現在の農業生産にとって不可欠のものとなっている。