作物が健康に育つかどうか、そしてよいものが出来るかどうかは、個々の田畑の条件や、生産している人の管理の上手下手で決まる。有機栽培か慣行栽培か「○○農法」かによる違いよりも、どの田や畑で誰が作ったものかによる違いのほうがはるかに大きい。どの栽培方法を採っている場合でも、出来上がる作物の品質が安定して高い人とそうでない人がいるのである。
宣伝文句を鵜呑みにしない
消費者・需用者が求めるのは、「どの栽培方法ならよい農産物なのか」というわかりやすい答えであろうが、実は農産物にはそのようなわかりやすさはないと言ってよい。いわゆる栽培方法の違いによる品質差よりも、個々の田畑、農家の差のほうが大きい。
第20回で説明した、どんな農産物がおいしいものになるものかを決める重要条件を思い出していただきたい。
(1)栽培に適した地域・条件で作られていること
(2)旬のもの
(3)新鮮なもの
(4)品種の特徴としておいしい
(5)栽培方法がよい
(5)の栽培方法というのは、有機栽培や「○○農法」と呼ばれるものといった特定の農法や栽培方法を指す意味に限らず、個々の田畑や生産者の管理の問題である。
適地でない場所で、旬でない時期に、古いものを食べたら、必ずおいしくない。これは断言できる。また、それらのうち一つでも該当すれば、おいしいものを提供するのは難しい。どのような素晴らしい栽培方法を採ろうとも、これは乗り越えることのできない壁だ。つまり、(5)によって(1)~(4)にある欠点を補うことはできない。ということは、逆に(1)~(4)がクリアされていれば、(5)による差が出る可能性はあるわけだ。
いずれにせよ、「有機栽培」「○○農法」との表示があるからといって、それがよい農産物であるとは限らない。それでは、よい農産物を見つける基準がわからなくなり、よい農産物を見つけて手に入れる方法がないではないかと困る方が多いだろう。
おいしい野菜を手に入れるには、どの農法をやっているかどうかにかかわらず腕のいい生産者を見つけておいて、その人から旬の新鮮なものを購入するというのが最も簡単、確実で、正しい選択だ。最近は個人の農家が直接販売しているケースも多いから、いろいろな人のものを試しに購入してみて探していくのがいいだろう。
魅力的な表示や宣伝文句を鵜呑みにせず、自分の舌で判断することが大切だということも忘れないでいただきたい。昨今はどうも自分の舌に自信がない人が多いようだが、本来最も頼りにすべきはそこだ。消費者のすべてにそれを求めるのは酷かもしれないが、少なくとも小売業、外食産業に携わっている方は、ぜひそこは大事にしていただきたい。
農業生産と環境負荷
次に、農業生産と環境への負荷について考えたい。今日、環境問題に関心の高い消費者・需用者は増えている。農産物の安全性、味、栄養のほかに、環境負荷の観点をもって農産物を選ぼうとしている人も多いだろう。
農業生産による環境負荷として関心を持たれる筆頭は化学合成農薬と化学肥料だろう。また、ハイブリッド品種(F1、一代雑種)を問題視する向きも多い。さらに、遺伝子組換え作物も話題に上ることが多い。
いずれも、栽培において非常に大きな貢献があった技術であるが、それぞれにいろいろな批判もある。これらについて考えてみたい。
まず、これらは新しい問題と考えている人も多いようだが、遺伝子組換え作物を除けば、化学肥料、化学合成農薬、ハイブリッド品種などの歴史は古い。化学肥料が作られ始めたのは19世紀のイギリス、ドイツである。化学合成農薬は何をもって最初とするかにもよるが、たとえばブドウ用の殺菌剤としてボルドー液が使われ出したのも19世紀である。また、アメリカでトウモロコシのハイブリッド品種が商業化されたのは20世紀初頭であった。
1940年代以降、これらの技術が急速に農産物の収量の増加に寄与し始め、「緑の革命」などと呼ばれている。以降急速に増え続けている世界人口に農業生産が対応できているのは、これによるところが非常に大きい。
とは言え、どの技術にも功罪両面がある。これまで大きな恩恵があったから、今後も手放しで推進していいというものではない。次回からそれぞれの技術について検証し、今後の方向性を考えていきたい。