現在日本で市販されている農薬は、使用量、使用回数、使用方法、収穫までの日数による制限など、使用に際してのさまざまな事柄が細かく定められている。1作の中で定められた使用回数を超えて使用してはならないし、収穫日に近い日に使用する場合も、収穫までの日数によって使用できるか、できないかの制限がある。これら使用基準を守っていれば、残留基準を超えないという基準である。
農薬の残留基準は個別に厳密に定められている
では、農薬の残留基準とは、どのように決められているのだろうか。それは、ヒトの1日の許容摂取量を元に算出される。農薬全体が一律の基準で決められているのではなく、それぞれの農薬の特性に応じて個別に基準が定められているため、それぞれ農薬によって使用基準の内容はさまざまになっている。
また、農薬の一つひとつについて、試験や測定を重ねて基準を定めるため、これには膨大な手間と時間と金がかかっている。
1日当たりの許容摂取量というのは、ヒトが毎日口から体に取り込んでも影響がないと計算した量の1/100で定められている。言い換えれば、毎日食べ続けても問題が起こらないであろう量の1/100である。逆に言えば、仮に残留基準の100倍の量を毎日食べ続けても障害は起こらないであろうと考えることもできるから、安全を担保し得る余裕を相当に見積もっていると言える。とは言え、この1/100の余裕を持たせているのは、未知の事柄や個人差など不確定のものを避けるにはこれだけあればよかろうという意味であるから、やはり基準を超えてはいけないし、試しに食べてみるということもやめていただきたい。
いずれにせよ、現在の残留農薬基準というものは、厳密に調べた上でさらに100倍の余裕を持たせるというように、非常に厳しく定められている。
ポジティブリスト制度で残留してはならないものが増えた
一方、日本では2006年から、残留農薬などのポジティブリスト制度というものが施行され、従来より格段に厳しい残留農薬基準が定められた。
ポジティブリスト制度とはどのような制度か。ざっくり説明すると、残留基準を定めている農薬等はその基準に従うこととしてリストアップし(ポジティブリスト)、それ以外の農薬等は一律に0.01ppmを超えてはならないとする(一律基準)しくみだ。
それ以前は、残留していてはならないものをリストアップする(ネガティブリスト)という逆のしくみであった。この違いは何を意味するかと言うと、ポジティブリスト制度では、これまでより多くの農薬等に対して残留が認められなくなったということだ(なお、農薬として使用されたものでも、亜鉛、クエン酸など65種の物質はヒトが摂取しても問題がないものとして対象外物質とされている)。
それでは、実際の日本の農産物の残留農薬の状況はどのようになっているだろうか。これは、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課が「農産物中の残留農薬検査結果等」として公表している。検査数240万件という膨大な検査の結果である。以下に引用する。
平成16年度に実施された農産物中の残留農薬検査結果を取りまとめるため、地方公共団体における検査結果(98団体より資料提供の協力を得た。)及び検疫所における検査結果を合わせて集計した。その概要は次のとおりである。
1 検査数2,439,341件
2 農薬検出数4,895件(0.20%)
国産品1,260件(0.32%)輸入品3,635件(0.18%)
3 基準値を超えた数65件(0.01%)
国産品14件(0.01%)輸入品51件(0.01%)
※農産物中の残留農薬検査結果等の公表について(概要)(平成16年度)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/081224-1.html
基準値を超えていたのは、240万件中、65件である。
240万件中65件ということは、約3万7000の農産物があったら、そのうち1つが残留基準を超えた農産物であるということだ。
試みにこれを確率の数字として考えてみると、1日に1個の農産物を買っていった場合、100年に1回残留基準を超えた農産物をつかむ、ということになる。ただし、240万件という母集団がどのように集められた農産物であるかは不明なので、単純な確率の数字として実生活に当てはめて考えることは適切でないかもしれない。
また、厚労省当局は数年に渡る検査結果も公表しているが、それも同様の結果を示している。筆者は、これらから、日本で残留農薬が検出される農産物が見つかる確率は極めて低い水準にあると受け止めている。読者はどのようにとらえるだろうか。