2008年前半は各種食材が急騰し、食料の安定供給の大切さを肌で感じた年になった。そのような中、牛久保明邦氏(東京農業大学国際食料情報学部教授)を座長とする農林水産省の食品ロスの削減に向けた検討会が8月にスタートした。日本では食品として年間約9,000万tの農林水産物を消費している。これに伴い、約1900万tの廃棄物が発生。この内、500万?900万tが喫食可能ないわゆる「食品ロス」と推定されている。食料自給率向上と併せて食品ロス削減は、食料の安定供給のために推進させなくてはならない課題である。
本検討会は08年末までに6回の会議を開き、12月には具体的な行動に向けた有意義な報告書をとりまとめた。わずか4カ月で、これほどの成果を挙げたことに敬意を表したい。09年3月、一般向けの分かりやすい資料「食品ロスの削減に向けて」が発表されている。内容を確認されていない方はもちろん、一度見た方も改めて目を通していただきたい。
食品ロスを社会全体として削減するために、学識経験者のほかに食品メーカー、流通、小売店、外食産業、そして消費者代表が同委員会を構成した。状況によっては利害関係が生じるが、踏み込んだ議論が行われた。議事録も公開されている。事務局として検討会を推進させた谷村栄二氏(農林水産省総合食料局食品環境対策室長)に伺った話を元に要点を、次に概観する。
食品ロスの大きな原因は、欠品防止と返品という商慣行にある。欠品を避けるためには、在庫を厚く準備せざるを得ない。販売が鈍った場合、ロスを生じやすいのである。返品も問題になる。小売店の中には、強い立場を利用して返品するケースも存在する。買取契約を原則として、必要があれば値引きなどの販促策により売り切っていただきたいものである。返品された商品の大部分が焼却処分されている。
谷村氏は、いわゆる3分の1ルールについても指摘した。賞味期間を3分の1に区切り、納品できるのが最初の3分の1、棚におけるのが次の3分の1までで、最後の3分の1は消費されるまでの期間というわけである。このルールに、法令上の根拠はない。季節商品など商品ごとの条件に柔軟性を持たせることができれば、食品ロス削減につながるだろう。
コンビニエンスストア(コンビニ)で特に問題になるのは、消費期限の短い弁当類への対応である。委員として社員が参加していたローソンでは、深夜早朝の時間帯では、欠品やむなしと考えていること、販売期限を過ぎたものを消費期限までに消費することを条件に寄付する試みなどの紹介があった。報告書では、コンビニ本部として避けたい値引き販売までは踏込んでいなかった。しかし、この動きが具体化してきた。コンビニ業界が弁当類の値引き販売を不当に制限していたかどうか、公正取引委員会が調査に乗り出している。
メーカーが食品ロス削減に取り組む第1のポイントは適切な賞味期間の設定である。そのためには、製品を保管して経時的に官能検査と理化学検査を行う。品質劣化までの期間を求め、1未満の安全係数を乗じて賞味期間とする。検討会では菓子類の係数について実態を調査し、短い場合が多く、0.3という極端な例があることを報告している。賞味期間を短くするのは、消費者から保存料使用などを疑われることを避けるためだという。しかし、期間を短く設定することにより自縄自縛になっているのは、赤福や白い恋人の事件を見ても明らかである。報告書では、0.8以上が好ましいと指導している。
加工食品には、製造時のトラブルなどにより規格外れの製品が生じることがある。中身の品質に問題がなければ、理由を明記した廉売やフードバンクの活用を推奨している。寄付された食品を生活困窮者に供給するのがフードバンク活動だが、代表的な団体がセカンドハーベスト・ジャパンである。
頻繁なリニューアルや新製品が、返品の原因となるという指摘は事実だろう。しかし、最近では核家族等に配慮した小容量の新製品開発が進んでおり、ロス削減に貢献している。従来、加工食品用の原材料で賞味期限切れは使用できなかったが、品質が確認されれば使用できるとする判断は画期的であった。
外食産業では、お客の食べ残しも食品ロスとなる。食べ残しを使いまわした船場吉兆は論外だが、いくつかの工夫を指摘している。食中毒のリスクはあるが、ドギーバッグ活用は推進させたいシステムである。素敵な容器をドギーバッグとして提供する飲食店が話題になっている。
消費者の努力により削減できる食品ロスは少なくない。買い過ぎない、作り過ぎない、過剰除去を避けるといった具体的な行動は大切である。こうした行動とともに、報告書では食を大切にする心を養うことの重要性を指摘している。また、期限表示の意味の理解が不十分であることも食品ロスにつながっているとしている。期限表示の意味を解説したパンフレットが作られているので、活用を進めていきたいものである。
谷村氏は「報告書作成で完了したのではない。これからがスタートである」という。確かにその通りで、報告書の提案それぞれを各所で実現し効果をあげていきたいものである。今後の課題として、(1)精度の高い需要予測のシステム構築(2)フードバンクの活用アピールと環境整備(3)全国の食品ロス削減成功例の収集と公開—-を進めたいと話す。(1)が実現すれば食品ロス削減に直結するだろう。
食品関連の多様な情報の中から、食品ロス削減に向けて世の中が動き出しつつあることを感じている。2009年が食品ロス削減活動元年になることを願っている。(食品技術士Y)
※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。