こんにちは、コロです。前回は除草剤耐性とはどういうことなのかというお話をしました。今回は、なぜ除草剤耐性遺伝子組換え作物にはグリホサートが効かないのかを説明します。
ルル:グリホサートが効かないということは、きっと、除草剤耐性遺伝子組換え作物には、そのアミノ酸を作る経路、えっとシキミ酸経路でしたよね……。それがないんですか?
コロ:そうではないんです。ちゃんと、グリホサートが止めてしまうシキミ酸経路はあるんですよ。ただ、グリホサートが効かない「酵素」を作らせるようにしたんです。玉転がしを使った説明を思い出してください。体の中に入った栄養分を玉転がしの玉にたとえると、何人もの人が玉をリレーしてゴールに持っていくように、玉に飾りをつけたり、削ったり、半分に割ったりして、ゴールに着いたときには体の成分やエネルギー源になるのでしたね。
ルル:そう、そう、そうでした。そうやって、アミノ酸が作られるのでしたね。
コロ:グリホサートは、この玉転がしの中にいる特定の1人の「人」が作業をして玉を次の人に渡すことをできなくしてしまい、その結果、そのアミノ酸が作れなくなってしまうのでしたね。まず、グリホサートは、自分が止めてしまうEPSPSと呼ばれる「酵素」に当たるところで玉を転がす人を見つけ出します。ここでは例えば、グリホサートが、そのEPSPS酵素の人が必ず赤い帽子をかぶっていて、それを目印に探し出すとしましょう。
ルル:赤い帽子を目印にそのEPSPS酵素の人を見つけて、それに思いっきり手かせをして動きを止めてしまうのですね。
コロ:そのとおりです。植物の持っているEPSPS酵素はすべて同じ赤い帽子をかぶっています。だから、グリホサートはすべての植物を枯らしてしまうのです。同じ働きをするEPSPS酵素をある種の微生物も持っていますが、赤い帽子をかぶっていないのです。
ルル:赤い帽子をかぶっていなくても、酵素の働きに変わりはないのですか?
コロ:作業をして次の「人」に渡す部分は変わりありません。だから、酵素の働きとしては同じなんです。
ルル:グリホサートは赤い帽子をかぶっていないEPSPS酵素を探し出すことができないのですね
コロ:その通りです。探し出して止めることができないんです。このグリホサートの効かないEPSPS酵素が体の中にあれば、その植物はグリホサートがかかっても枯れないようになります。このグリホサート耐性の酵素は微生物が持っていたんですよね。
ルル:あ、わかりました! このグリホサートの効かない微生物のEPSPS酵素の遺伝子をその微生物から植物に遺伝子組換えで入れて使っているのですね。
コロ:その通りです!アグロバクテリウムとよばれる土壌中の細菌の一種は、このEPSPS酵素の遺伝子を持っていますが、この酵素に対してはグリホサートが効きません。そこで、この酵素遺伝子をアグロバクテリウムから取り出して、植物の中に入れたのです。その結果、グリホサートの効かないEPSPS酵素が植物の中で作られるようになり、その植物はグリホサートがあっても、生きることができるようになるんです。
ルル:グリホサートがあって、赤い帽子をかぶった人が働けなくなっても、代わりに微生物から導入されたEPSPS酵素が働くので、アミノ酸はちゃんと作られるのですね。
コロ:もう少し専門的におさらいしてみましょう。グリホサートは、植物が持っている特定のアミノ酸(芳香族アミノ酸)を作るのに必要なEPSPS(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素)という酵素を阻害します。これによって植物がアミノ酸を作れなくなり、枯れるという仕組みです。このEPSPS酵素は植物や微生物だけが持っているものなので、もともと酵素を持っていない人間や動物に対してグリホサートは作用しません。米Monsanto社は、アグロバクテリウムという微生物の一種がグリホサートの影響を受けないCP4EPSPSというたんぱく質を作る遺伝子を持っていることを発見し、その遺伝子を作物に組み込むことで、グリホサートに耐性を持った作物を開発することに成功したんです。
ルル:どんな植物でも枯らせてしまうから、とても恐いものだと思ったけれど、実はそういうことだったんですね。とてもよく分かりました。ところで、このグリホサートに耐性の遺伝子が周囲の雑草などの植物に移って、除草剤の効かない「スーパー雑草」を作るっていう話を聞いたことがあるんですが?
コロ:そのようなことは考えられないんですよ。それでは次回はその点について説明しましょう。
※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。