バーテンダー諸兄に贈るFOODEX JAPAN 2015洋酒レポート(2)

今年もFOODEX会場を歩き回って探し出したとっておきの洋酒をご紹介する。第2回はアメリカとメキシコから。

アメリカンなオヤジが「これぞアメリカ」なウイスキーを/「ムーンシャイン」

シルキーな味わいの「アラスカ・ピュア/ムーンシャイン」。
シルキーな味わいの「アラスカ・ピュア/ムーンシャイン」。

「これぞアメリカ」的なラベルや「ムーンシャイン」(Moonshine/密造酒の意)というネーミング、カウボーイハットが似合いそうな担当者とは裏腹に味わいは“シルキー”という表現がふさわしい滑らかさの「アラスカ・ピュア」ウイスキー。

 アラスカ氷河の雪溶け水とアラスカ産の大麦で作ったウイスキーにチュギアク地方の野生花蜜を加えている。味わいはバーボンよりは上質なアイリッシュに近く、会場では確認し忘れたがムーンシャインという名称からも熟成は敢えてしていないと考えられる。力強さを加えるためかアルコール度数は45度と少々強め。(日本未入荷)

マンゴー、マンゴー!/「エル・タラスコ」

メキシコ。マンゴー果汁も加えた「エル・タラスコ」。
メキシコ。マンゴー果汁も加えた「エル・タラスコ」。

 日本ではメキシコはテキーラの国として有名だが、この国で産出するラム(チャランダ)も高品質なものが多い。このラムをベースに地元ミチョワカン州の特産品であるマンゴーとマカダミアナッツのリキュールがちょっと驚くほどの出来のよさだった。

 とくに「エル・タラスコ」(マンゴー)は甘さが尖らず、南国の香気にあふれている。聞けばマンゴーの香味を活かすために、ラムにマンゴーを漬け込むだけでなく、マンゴー果汁をたっぷり加えていると言う。試しに瓶を振ってくれた。果汁感あふれるクラウディー(濁り)・タイプなのが写真からおわかりいただけるだろうか。

メキシコ中南米市場 シンコ扱い)

コラム・昨年のライム品薄事情

メキシコのライム生産者に2014年の品薄について聞いた。
メキシコのライム生産者に2014年の品薄について聞いた。

 ここで少し新製品紹介から離れて読者の皆さんにお伝えしておこうと思うことがある。今回のFOODEX取材目的の一つが、昨年春に日本中のバーテンダーたちを大いに悩ませたメキシコ・ライムの品不足問題の顚末だった。テキーラの合間にかじるだけならまだしも、たぶん日本のバーで一番飲まれているカクテルであるジントニックに不可欠の素材だから、どこのバーテンダーに聞いても、あのときの苦労話の一つや二つはあるだろう。幸いメキシコ現地のライム生産者が今回のFOODEXでいくつかブースを開いていたので、当時の状況を直接うかがうことにした。

 彼らメキシコ人業者に通訳を介して聞いたところ「メキシコの長雨でライムの木が弱ったところに病虫害が発生した」のが主因で、他に治安がよくない地区からの輸送が一時期困難だったことも一因となったという話が聞けた。答えにくい質問かとは思ったが、品薄な状況の中で輸出量の9割を占めるアメリカ向けが、扱い量が少ない割に品質に厳しい日本向けより優先されたという話の真偽について尋ねると、それも事実だったという。

 有り体に言えば、昨年現地から帰国した方々からうかがった話とネットで探した話をまとめて3回に渡って書いた拙稿(筆者ブログ「洋酒文化こぼれ話」ライムについて参照)の追認という結果になった。

 バーテンダーの方が今いちばん気になるのは「また、あんなことが起きるのか?」ということだろう。騒ぎになった前年(2013年)の統計で見ると日本の輸入量の99.9%をメキシコが占めており(参考までに書くと対日輸出量2250tのメキシコに続くのはベトナムの2.2t、3位のアメリカが145kg。財務省貿易統計より)、ライムに関して日本の極端なメキシコ依存の姿は急には変えようがなく、地球の裏側にあるメキシコの作柄が他人事ではないからだ。

 メキシコのライム業者に聞いてみると「自分も10年以上ライムの輸出に携わっているが、あんな凶作は初めて経験した」と言っていたので、お天気次第ではあるものの、そうそう起こるアクシデントではないらしく、今年も順調に実っているという。

 今後、去年の春に起きたような事態が再来した場合のバーテンダーの方の対策について筆者なりに考えてみた。自分でも購入したのだが、外資系の「カルフール」などでは上記の優先事情(米>日)も関連してか比較的に入手が容易だったので、そういう拠点を今のうちに探しておくことが一つ。また、昨年から輸入が再開されたキーライム(メキシカンライム)という小ぶりなライムの生産エリアが、通常我々が目にするライムであるメキシコ産のタヒチアンライムとは異なっているらしいので、キーライムを扱う青果業者のルートを確保しておくと、万が一の事態にもあわてなくて済みそうだ。

 実は、テキーラをストレートで飲む場合、現地で一般的なのは小ぶりなキーライムであることから、ジントニックに使うタヒチアンライムと分けて仕入れをしておくのが、もし可能ならば理想だと思う。去年は青果店にも聞いて回ったが、品不足になってからあわててキーライムを探しても一見の客には売ってくれない場合もあるというから、日頃の青果店とのお付き合いが大事ということだ。

 キーライムを扱った経験がないバーテンダーの方は果実の小ささから採算(歩留まり)を心配するかと思われるので付言しておくと、キーライムを扱った経験のあるバーテンダーは皆、皮が薄く搾汁率(そんな言葉があるのかどうか不明だが)が高いことに驚くという。

 ライムの話はこの辺にしてFOODEX会場に戻ろう。

今年も元気だったメキシコ・ブース

メキシコの展示は今年も積極的だった。
メキシコの展示は今年も積極的だった。

 メジャーどころのテキーラ紹介はメキシコ・ブースでも一服した感があるものの、中南米エリアが元気なのは例年と変わらない。紹介する酒の比重がテキーラからメスカルにシフトしつつあるのが今回のメキシコ・ブースの特徴だった。六本木のテキーラ・バーもこれを象徴するかのようにメスカル・バー「JICARA」(ヒカラ)を、昨年同じ六本木に出店している。

 バーになじみのない層がテキーラに対して抱く“強い酒”という根強いイメージと、一部のアヴァンギャルド(先端的)なバーが提供する幅広いメキシカン・スピリッツとの乖離は、今後一層顕著になっていきそうだ。洋酒のプロ集団JUAST(ジャスト/公式サイトhttp://www.juast.jp/)と日本テキーラ協会(公式サイトhttp://www.tequila.jp.net/)が次から次へと音楽イベントとコラボレーションしたイベントを開催しているので、相次ぐプレミアム・テキーラの日本市場参画ともあいまって、2015年もテキーラ関連のニュースが酒場の話題に上りそうだ。

メキシコ幻の醸造酒が缶入りで登場/「プルケ1881」

「プルケ1881」。幻の醸造酒が缶入りで登場。
「プルケ1881」。幻の醸造酒が缶入りで登場。

 そんな今年も目が離せないメキシコ・ブースでプルケ(リュウゼツランを発酵させて作った醸造酒で、かなりざっくりした言い方をするとテキーラやメスカルを蒸留する前の酒。パイナップルジュースを加えて飲むのが一般的だという)が出ていた。保存と醗酵の問題からメキシコでも今まではプルケリアと呼ばれる地元の酒場でしか飲むことができなかった酒なのだが、今回紹介する「プルケ1881」(PULQUE 1881)は製法を工夫することにより輸出と長期保存が可能な缶入りにできたという。

 メキシコに行ったことのない筆者もプルケの名前はテキーラ絡みで耳にしたことがあるが、口にしたのは今回が初めての経験だった。現地のプルケリアでの飲み方と同様にパイナップルジュースを加えた味はなかなか爽快で、テキーラの強さにハードルの高さを感じる人にも、5%のプルケなら問題はなさそうだ。テキーラ・バーでこれをおいてくれれば酒に弱い人への間口を開くメキシコの秘密兵器と言っていい。

 ここのところ右肩上がりの国内テキーラ市場なので、日本上陸が待たれるアイテムだ。

●日本未入荷

《つづく》

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About 石倉一雄 129 Articles
Absinthe 研究/洋酒ライター いしくら・かずお 1961年北海道生まれ。周囲の誰も興味を持たないものを丹念に調べる楽しさに魅入られ、学生時代はロシアの文物にのめり込む。その後、幻に包まれた戦前の洋酒文化の調査に没頭し、大正、明治、さらに江戸時代と史料をあたり、行動は図書館にバーにと神出鬼没。これまでにダイナースクラブ会員誌「Signature」、「男の隠れ家」(朝日新聞出版)に誰も知らない洋酒の話を連載。研究は幻の酒アブサン(Absinthe)にも及び、「日経MJ」に寄稿したほか、J-WAVE、FM静岡にも出演。こよなく愛する酒は「Moskovskaya」。