11月も来週の月曜日まで。慌ただしい師走がやって来ます。
まだ少し早いですが、筆者の今年を振り返りますと、「有機野菜はウソをつく」なるタイトルの本を、さまざまな節目に当たる2015年に上梓できたことがいちばん大きな出来事でした。
※『有機野菜はウソをつく』SB新書(齋藤訓之著、SBクリエイティブ) →こちら
“節目”と言うのは、まず今年は「FoodWatchJapan」スタート5周年の年であるわけですが、それはすなわち「FoodWatchJapan」開設のきっかけとなった食の機能と安全に関するWebサイト「FoodScience」(日経BP社)が閉鎖されて5年が経ったことを意味します。当時筆者は同サイトに「食の損得感情」(“損得感情”は“勘定”を“感情”に変えた駄洒落です)というコラムを連載していましたが、その中で書ききれなかった農業の骨格のとらえ方を書くことができ、完全でないとしても一つ整理できたと安堵しています。
※FoodScience(日経BP社)過去記事一覧 →こちら
そして、今年は国際土壌年(International Year of Soils/IYS 2015)です。「食の源の一つである土壌のことをよく知り、食料確保、飢餓の撲滅、気候変動への対応、生態系の維持、持続可能な開発へ向けて、一人ひとりが活動する」というこの年に、土壌に注目して農業の基本的なコンセプトを紹介する機会を得たこともありがたいことでした。
※International Year of Soils 2015 – IYS 2015 →こちら
なお、読者のみなさまはすでにご存知のことですが、土壌についてより詳しくは関祐二氏の連載「土を知る、土を使う」をお読みいただければと思います。
また、農産物の品質と安全については、岡本信一氏の連載「『よい農産物』とはどんな農産物か?」をお読みください。岡本氏はまた、近く、土壌の質を超えた土壌の管理と効果について重要な情報を発信してくれるでしょう。
今年は農業にとってもう一つの節目でもありました。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の公開年で、その主人公の住む日常の世界は1985年でした。彼はタイムマシンでその30年前の1955年に移動して難題を解決しましたが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」では、その30年後の2015年にやって来たのでした。つまり、あの映画シリーズを通して、2015年は60年前の1955年とつながっているのです。
その映画にまつわる時間がなぜ農業の節目ということになるのか? それは、1955年前後にアメリカで盛んに叫ばれた、この映画のタイトルによく似たフレーズと、映画の中で1955年の不良グループが主人公を追いかけ回した挙げ句に激突したトラックの積荷と関係があります。本では、有機農業の発祥を、この映画の場面を紹介しながら紐解きました。
筆者は、人々が有機農業を求めたムーベントには一定の価値があると考えています。それはおよそ60年前に起こったことです。今日の農業と食品安全の進歩は、このムーブメントの成果という側面は小さくありません。しかし、今日の我々にとってより重要なことは、進歩があったというそのことです。
我々は過去を知り、現在の評価を行い、そして未来志向の立場に戻るということを繰り返し行っていくべきです。将来に生きる子孫たちの健康と、金銭的に損をしないことと、さらに心が満たされること、それらを満足する食を持続可能な形で確保するために、過去と未来を訪ねる頭の働かせ方を楽しんでいきたいものです。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。