「桃太郎」という名のトマト品種をタキイ種苗が発売したのが1985年。したがって、今年が桃太郎30周年ということになります。
その開発のきっかけは、「トマトがまずくなった」という噂が立ったことだったと言います。高度成長に伴う爆発的な都市化に対応するように、野菜産地は遠隔地に形成されるようになりました。トマトをその長距離輸送に耐えるようにするには、完熟前のまだ青く硬い段階で収穫する必要があり、これが味の悪さにつながったと言われています。
そこで種苗会社各社が完熟後も硬さを保ち傷みにくい品種の開発に取り組んだのですが、その多くは実の色が赤いものでした。タキイ種苗によれば、「赤色のトマトは加工用だというイメージがあり、消費者に避けられてしまう」(同社Webサイトhttp://www.takii.co.jp/brand/momotaro2.html)という市場での“欠点”があったのでした(一方、他社では赤いトマトのよさを伝えるプロモーションも行われました)。
そこでタキイ種苗は、味のよさと輸送に耐える硬さに加えて、ピンク色であることを条件に新しいトマト品種の開発に取り組んだということです。品種名「桃太郎」の「桃」は色を表していたわけです。
その開発着手から発売までには十数年を要し、その間膨大な数の交配と試験が繰り返されました。最初に選んだ50種ほどの品種間で交配を行い、その中で得られた良好な品種に、さらに「何百という品種」を掛け合わせたと言いますから、同社の遺伝資源の豊富さにも驚かされます。
これがヒットし、現在では「桃太郎」系は25種類があり、およそ7割のシェアを取ると言われています。
市場への対応から開発を開始したこと、さらに生産環境や市場環境に合わせてバリエーションを広げていったこと、しかもそれらすべてに「桃太郎」ブランドを統一的に用いていることなどなど、「桃太郎」開発物語は、農業分野以外でも参考になるブランド構築物語でもあります。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。