秋分の日はいかが過ごされましたか。
今日9月23日は農学者・大井上康氏の命日です(1952年没、享年60)。大井上氏はブドウの「巨峰」®を育種し、栄養週期理論を提唱したことで知られています。
日本巨峰会によりますと、「巨峰」は一般の農家には栽培が難しいことを理由に品種登録が認められず、それでも権利を確保するために商標登録をしたということです。ところが、これも心ない人々によってなし崩しにされ、現在では多くの生産者や団体が氏の功績を無償で享受する形となっています(裁判で「巨峰」の名称が「ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な名称として認識されているもの」と判断されました)。
栄養週期理論も、今日でこそ植物の栽培の基本的な理論に取り入れられていますが、発表当時は学界で異端視され、普及にはさまざまな妨害も受けたといいます。
栄養週期理論をかいつまんで説明すれば、植物の生長ステージに合った栄養をタイムリーに与えたり切ったりすることで適切かつ効果的に生長を促すというものです。すなわち、播種時には窒素を全く与えず、十分に根が張ったところで窒素を与え、花芽が付く頃には窒素を切ってリン酸とカリウムを与え、登熟期にはリン酸とカリを切ってカルシウムを与える。これにさまざまな微量要素の与え方のノウハウが加わって栄養週期理論として整理されています。
古くから栄養週期理論を実践している農家によれば、戦中・戦後のモノのない時代、肥料が高価だった時代に、少ない肥料で大きな効果が上がる、たいへんありがたい理論であったと言います。しかし、肥料が必要以上に売れないと困る企業・団体はあるわけです。かつて栄養週期理論の実証実験圃場の作物がすべて抜かれるなどの不法行為があったことは、そうした組織との関係をどうしても想像させます(10年ほど前、茨城県で遺伝子組換えダイズの試験栽培圃場に不法に侵入し栽培中の作物を無断で鋤き込むという事件があったことを思い出します。つまり、この種のことは昔のことではなく、昔からあることというわけです)。
人の働きを正しく評価すること、その功績に報いること、よいことを讃えることは大切なことです。なぜなら、それによって若い人が夢を抱き、さらによい働きをしてくれるはずだからです。ただ、それには、程度の差こそあれ、誰しもが今の自分の立場や既得権益を超えて、新しい時代に乗る勇気を持つ必要があります。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。