ファミレス飲みは需要の潮目

 5月下旬から、外食のある傾向について雑誌やテレビから問い合わせがあり、取材に応じたり出演してお答えしたりということがありました。

 それは何かというと、「ファミリーレストランへお酒を飲みに行く人が増えているがなぜか」あるいは「午後の回転寿司店で女子高生が来店してお茶しているのをよく見かけるがなぜか」といった、“業態の変わった利用”に関するものでした。

「よく見かける」とは言っても、実際にどれくらい増えているかはわかりませんが、彼らがいくつかのチェーンに問い合わせたところ、確かに“ファミリーレストランの居酒屋利用”“回転寿司店のカフェ利用”は増えているとのことでした。

 お答えしたことはいくつかありますが、必ずしもすべて誌面や番組で採用されたわけではないので、メモ的に書き出してみます。

  • 飲食店で設計上想定したターゲットと違う層が無視できない数来店する例は珍しいことではない。
  • ファミリーレストランがアルコール需要を取り込もうとしたことは最近始まったわけではない。ファミリーレストランは休日のファミリーの利用が主力で始まり、平日はランチと喫茶を取り込んできた。その後90年代に多くのチェーンが24時間営業化を進めたなかで、強化が課題となった時間帯の一つが平日のディナー帯。ここにアルコール需要を取り込もうとしたが、居酒屋が強い時代にはまだ店側も本腰は入らず、客側もそうした利用をイメージできなかった。
  • 一方、たとえば「サイゼリヤ」は、お客が多種類をオーダーしても客単価が上がらないようにする政策上ワインの価格も徹底的に抑えた。同チェーンの多店化が進み、利用頻度も上がるにつれて、「飲みにも使える」と気づいたお客が増えた。そして、90年代以来のファミリーレストランの低価格化の流れの中、同じく“酔うほどに飲める”ファミリーレストランが増えた。
  • アルコール需要を取り込めると気づいたチェーンから、酒肴に対応する小皿メニューを強化している。これらには“どこにでもある”商品もあるが、チェーンごとの得意分野を生かした商品も見られる。
  • 概してファミリーレストランは食器の管理がよい。また、営業時間が長いために厨房温度の変化も少なく、これが生ビールの温度管理上のメリットとなっているとも考えられる。このため、生ビールの提供状態がよい。
  • とくに洋風ファミリーレストランの場合、小上がりというものがない。これがとくに女性客の来店しやすさにつながっている。
  • また、ファミリーレストランは“酒を飲むための店ではない”イメージがある上、充実したドリンクバーもあるため、アルコールを飲まない・好まない人もファミリーレストランであれば「飲みに行こう」というグループに入る抵抗感は低いと考えられる。
  • 他方、ここ数年居酒屋離れが進んでいるが、これは価格訴求が重視される一方、オリジナリティのある商品が相対的に減っていること、個性を喪失した店が増えていることが要因の一つになっていると考えられる。
  • 回転寿司店のカフェ利用については、平日のアイドル帯(ランチ帯後・ディナー帯前)にいかにお客を取り込むかは、ファミリーレストラン以上に重要課題だった。そこにカフェ利用が増えることは大歓迎。この場合、来店しているお客に合わせて臨機応変に軽食やスイーツをレーンに流すといった対応はたやすい。
  • 首都圏について言えば、郊外ロードサイド型の回転寿司店の出店が進んだのは他のローカルに比べると遅く、90年代後半から2000年代に入ってから。この時期に幼児で、休日にファミリーとして来店していた子たちが今の高校生の年代に当たる。彼らにとって回転寿司店は、なじみがあり、家族で食事をした楽しい記憶もある場所。したがって、学校の帰りに友達とおしゃべりをする場所を考えたときに、自然と選択肢に入ってくる。これは、「マクドナルド」が子供を重視した展開でファンを厚く長く獲得して成功してきたのと同様の構造。

 およそこんなところでしょうか。雑誌やテレビでは、こうした小理屈は「へぇ」と思わせる小道具程度で、記事や番組の主体は実際に利用している人たちの楽しげな様子、自分のセレクト自慢、おすすめのオーダーのしかたなどが紹介され、いずれも読んでいて・観ていて気分のよいものでした。身近な外食の楽しさが紹介されるのに触れられて、明るい気持ちも感じました。

 不易流行と言います。「午後、友達とお茶をしたい」「夜、仲間とお酒を飲んで帰りたい」というニーズは、消えることはないでしょう。そこは“不易”というものです。けれども、“どこで”“どんな風に”“何を”という部分は、いつも移り変わり続ける“流行”というものです。流行をつかむことが不易をつかむことなのだなとも感じます。

 業種・業態の設計のしかた、理解のしかたも、がらりと変える必要が出て来て、私たちは今そうした“潮目”に立っているのかもしれません。

※このコラムはメールマガジンで公開したものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →