今日はホンダ創業者・故本田宗一郎氏の命日です。
ビジネス界にはときどき“流出文書”というものが現れます。ある会社の内部文書であるはずのものが、どうしたわけか外部に流出し、コピーされて同業者の間で読み継がれ“影のベストセラー”になってしまう。たとえば流通業界では、バブル崩壊の頃にセゾングループの堤清二氏の長い談話と社員への問いかけが書き起こされた「サマーレビュー」なるものが出回りました。
こういうものは真贋はわかりません。それでも、同業に身を置く自分たちの仕事を振り返る材料として、折々にこの種の文書が出回るものです。
ホンダについては「入交文書」なるものが伝わっていて、かつて自動車業界の記者であった上司から見せてもらったことがあります。これももちろん真贋は不明ですが、本田宗一郎氏についてまことしやかに伝えられる、あの方ならそう言ったに違いないと思わせる伝説として、味わい深いものがあります。
ざっくりと言えば、あるオートバイのハンドルの設計について本田宗一郎が激怒し、当時その設計の責任者であった入交昭一郎氏がお詫びに行って、そこで叱られた内容をまとめたもの、ということになっています。
およそこのようなことが書いてありました。
- 開発の考え方を転換する、体質改善を行わなければわが社の将来はない。
- 第一に、命を預かる商品を作っている企業としての自覚を取り戻せ。
- 専門家の理屈で自分を縛りひとの意見を聞けなくなっていることを戒め、柔軟に考えよ。
- 贅沢に金を使わずに頭を使え。市販の標準品があるものはそれを活用することを考えよ。
- 独りよがりの設計は遊びである。世の中の仕組みを理解し、世の中と融和するように設計せよ。しかも、その上で徹底して思い切ったことをせよ。
繰り返しますが、この文書が伝えられる通りのものであるかどうかはわかりません。ただ、「命を預かる商品を作っている企業としての自覚」「世の中との融和を踏まえた上での圧倒的なオリジナリティ」が、今日のホンダのバックボーンにあることは、しかり、しかりと、十分うなずけます。
食の仕事でも、そこは学びたいものです。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。