気象と食品の売れ行きの関係について、しばしば質問をいただきますので、以前ライフビジネスウェザー(LBW、東京都中央区、石川勝敏社長)に取材したメモからお伝えします。
昇温商品と降温商品の2つのグループがある
人間の欲求は気温や晴雨などの気象条件の影響を受け、それによって売れる商品も変化します。暑い日には冷たいものが売れ、寒い日には温かいものが売れるということは誰でもわかるわけですが、統計を用いた分析によって、より詳細なことや、直感的な理解からすると意外なこともわかってきています。
そうした知見を具体的な品ぞろえに生かせば、直接的に売上げを伸ばし得るだけでなく、「あの店にはいつも食べたいものがある」という評判を取ることも期待できるわけです。このような活動を、ウェザーマーチャンダイジング(WMD)と呼んでいます。LBWは、小売業や外食業などに、WMD上のコンサルティングや情報提供を行っている会社です。
WMDに取り組む第一歩は、商品を昇温商品と降温商品に分けて考えることです。昇温商品は気温が上がるほど売れる商品、降温商品は気温が下がるほど売れる商品のことです。
LBWによると、「気温によって、人体の基礎代謝量が変わり、それによってカロリーに対するニーズが変わる。一般的には、カロリーが低そうに感じられるものが昇温商品、高そうに感じられるものが降温商品となる」ということです。
以下の表は、LBWから教わった昇温商品と降温商品の例です。
昇温商品 | 気温が上昇するに従って売れる商品 | 焼きもの、葉もの野菜、和風、辛い味付け | ごはんもの | カレーライス、炊き込みご飯、牛丼、まぐろ丼、鶏そぼろ丼、巻きずし、幕の内弁当 |
おにぎり | 梅、サケ、明太子、辛子高菜 | |||
麺類 | 明太子スパゲティ、和風きのこスパゲティ、冷やし中華、割り子そば、冷やしうどん | |||
サラダ、そうざい | 豆腐サラダ、海藻サラダ、漬物、酢の物 | |||
パン | トマトサンド、ハム玉子サンド | |||
ドリンク、デザート | ビール、発泡酒、白ワイン、冷たい飲み物、お茶類、アイスクリーム、フローズンヨーグルト | |||
降温商品 | 気温が下降するに従って売れる商品 | 煮物、揚げもの、根菜類、洋風の味付け | ごはんもの | 天丼、ソースカツ丼、のり弁当 |
おにぎり | ツナマヨネーズ | |||
麺類 | ミートソーススパゲティ、ナポリタン、カルボナーラ、鍋焼きうどん | |||
サラダ、そうざい | ポテトサラダ、ツナコーンサラダ、フライ、煮物、オムレツ、おでん、フランクフルト、フライドポテト | |||
パン | カレーパン、そうざいパン、菓子パン、ハンバーガー、カツサンド、 | |||
ドリンク、デザート | 日本酒、赤ワイン、温かい飲み物、肉まん、あんまん、中華まん、 | |||
端境期に伸びる商品 | 昇温商品や降温商品の特徴に飽きて志向される | 中国料理、パン、スパゲティ、ハンバーグ、野菜炒め |
全体の傾向としては、夏季にはさっぱりとした和風メニュー、冬季には味の濃厚な洋風メニューが出やすいという傾向があります。
夏は和風・冬は洋風
昇温商品と降温商品について、さらに気温何℃以上、あるいは何℃以下で売れ行きが伸びるかの情報を出してもらいました。以下の表はその商品/気温の例です。
昇温商品と最高気温 | かき氷 | 32℃以上 | 降温商品と最低気温 | おでん | 18℃以下 |
アイスクリーム | 25℃以上 | シチュー | 16℃以下 | ||
ビール | 25℃以上 | 日本酒 | 15℃以下 | ||
すいか | 24℃以上 | コーヒー | 15℃以下 | ||
ぶどう | 24℃以上 | 鍋料理 | 15℃以下 | ||
メロン | 23℃以上 | ||||
牛乳 | 23℃以上 | ||||
ざるそば | 22℃以上 | ||||
アイスコーヒー | 20℃以上 |
こうした売れ筋の変化をイメージしやすくするため、気温の推移例(2005年、東京)のグラフに説明を加えてみます。
なお、気温というものは1日のうちにも大きく変動するものです。そこで、昇温商品は最高気温を、降温商品は最低気温をベースに考えるようにします。たとえば、下図ではかき氷は最高気温(下図の黒色線)が32℃以上になった日に、おでんは最低気温(下図の灰色線)が18℃以下になった日に、それぞれ売上増が期待できるというわけです。
●気温と売れ筋の変化
さらに、昇温商品・降温商品のほかに、中間的な商品があることも押さえておきます。つまり、夏季と冬季が入れ替わる春と秋に売れる中間的な商品があるということです。LBWによると、それはたとえば中国料理、パン、スパゲティなどであるということです。
そしてこの中間的な商品は、気温が上昇する時期に気温が下がったり、逆に気温が下降する時期に気温が上がったりと、気温が逆戻りした日にも売れやすいという傾向が見られます。
体感温度で予測精度を上げる
さて、ここまでの説明は気温で説明してきましたが、より精度の高い予測をするには体感温度を基準に考えるようにします。人は、湿度、風、前日の気温などの条件によって、温度計で観測する実際の気温よりも温度を高く感じたり低く感じたりします。そのように、人が感覚的に見積もる温度を体感温度と呼びます。
あくまで人が感じる温度ですから、これは人が感じた通りに受け容れればいいわけですが、個人差もありますから、体感温度も計算によって求められると便利です。これにはいくつかの算出方法があり、以下の図でその例を示します。
●体感温度をもとに昇温商品と降温商品を使い分ける
毎日の体感温度などは、LBWなど民間の気象会社から情報提供を受けることもできます。しかし、厳密な数字を得なくとも、現場の人間の感覚を生かすことも有効です。外に出てみて、自分が実際に感じる温度の印象と温度計で観測する結果を比べれば、「今日は実際の気温より高めだ」あるいは「低めだ」と修正ができます。そこで、「気温は30℃だけれども、体感ではそれより高く感じるから、かき氷を推奨してみよう」という風に考えるわけです。
実際、スーパーなどでは、スタッフが時間を決めて店外に出て、気温、湿度、風やその他の天気の様子を体で感じ取ってみることが業務の中に入っている会社もありということです。
また、先の表やグラフに示した商品と温度の関係は、全国的な統計から導いたものですが、地域や店の環境によって変わる部分もあります。
また、店のオリジナル商品など、上掲の表にはない商品については、材料や調理法によってある程度の予想は付けられますが、実際に記録をとって分析しておくことに越したことはありません。それには、毎日の天候、気温、湿度、風速などと、来客数、商品ごとの出数を記録していくことが基本となります。その記録がある程度たまれば、パソコンの表計算ソフトを使って表やグラフに加工して傾向をつかむことができます。統計に詳しい人であれば、各種データの相関を求めるなどに挑戦してみるといいでしょう。
もちろん、気象会社からWMDのコンサルティングを受けることもできます。費用は店の規模や必要とする情報によってさまざまですが、たとえばLBWでは月額数万円程度のサービスも提供しているということです。
※ライフビジネスウェザー
http://www.lbw.jp/