7日函館市で、親子3人がトリカブトを食べたことによると見られる中毒症状を呈し、2人が死亡するという事故がありました。トリカブトの若葉をニリンソウと誤って採取、おひたしにして食べたようです。とてもいたましく気の毒なことです。
改めて、毒物、有害なものの周知徹底の大切さが痛感されます。また、アマチュアが山菜やキノコを取りに行くときには、プロの同行を含め効果に結び付くアドバイスを受けられるしくみ作りが必要なようにも考えさせられます。
一方、3月30日、厚生労働省は、飲食店が生の牛レバーを刺身など生食する商品として提供することを禁止する方針を決めました。薬事・食品衛生審議会食中毒・乳肉水産食品合同部会の見解によるものです。
このことは、死亡につながる可能性も高い腸管出血性大腸菌による食中毒事故を減らすだけでなく、ウイルス性肝炎を含むその他の感染症の原因ともなり得る食肉の生食の危険についての理解を広げるきっかけとしていくこともできるでしょう。
ところが、意外や巷は大騒ぎです。Twitterやブログなどネット上には、禁止に反対する声が多数上がっています。
また、新聞やテレビも、「いきなりの禁止」に反対の声や「混乱」を多く扱っています。中には「こうも短絡的な『禁止令』がまかり通っていいのだろうか」とする強い調子の論説を掲載した新聞もあります。
しかし、これは「いきなりの」でも「短絡的」に決めた方針でもありません。昨年7月同同審議会の部会で、牛レバーを原因とする食中毒の発生状況に鑑みて対応を検討する必要ありということになりました。これを受けて同省は牛レバー内部の腸管出血性大腸菌等の汚染実態調査を実施し、12月に結果を乳肉水産食品部会に報告。さらに、多岐にわたる検討課題を整理、情報収集を行い、関係業界団体へのヒアリングも行いました。それを踏まえて改めて招集した同審議会の食中毒・乳肉水産食品合同部会が見解をまとめたのです。
必要な時間を充てて手順を踏んで至った結論ではないでしょうか。これを「短絡的」とばっさり斬るには、これらのプロセスが実はそのように発表しただけで実態はなかったということなりを証明できる必要があるでしょう。
論説ではレバー生食による食中毒の件数の少なさもあげつらっているようですが、私がいつも新聞を読んでいる感覚からすると、腸管出血性大腸菌による食中毒は新聞は重要なニュースとして扱う傾向があると見ています。死者が1人でも出ればなおのことです。その真っ当さと比べると、どうしてもギャップを感じてしまいます。
また、「生食は食文化」という意見から反対している人も多いようです。しかし、すべての食事は食文化の面を持っているのです。ですから、腸管出血性大腸菌のように劇症を呈し、低くない確率で死にさえ至る重篤な結果を招き得るとわかっている食中毒の原因を、文化を根拠としてとくに放置すべきとする主張は、暴論というものではないでしょうか。
それに、今後汚染防止策が見つかれば、改めて生食する商品としての提供の可否を検討するということになっています。有無を言わさず永久に取り上げるという話ではないのです。どうしてもレバ刺しが食べたいという消費者が多ければ、民間は真剣に高い安全性を確保するための研究をするでしょう。それは、もちろん大きなコストを要することでしょうけれども、その活動は食肉産業や外食産業を強くする力になっていくはずです。消費者も、プロのそうした活動を歓迎、賞賛するでしょう。
ただ、国側の反省点としては、食肉の生食の危険についてと、同審議会の活動についての周知が十分でなかったかもしれません。いいえ、食肉の生食の危険はかねて指摘され、国も地方もさまざまな方法・手段で周知活動を行ってきました。しかし、ここまで反対の声が上がったり、多くの情報に触れているはずのクオリティ・ペーパーの社説子が「短絡的」と受け取ってしまった原因はあるはずです。そこを調べ、広報活動やパブリック・リレーションのあり方を評価・検討しておく必要はあるでしょう。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。