豆乳や豆腐等の製造に伴い、おからが大量に発生する。その多くが産業廃棄物として処分されてきたが、近年は有効活用が進んでいる。それでも、食用としての活用はごく一部に止まっており、もったいないと思う。だが、究極のおから処理の試みも進捗しつつある。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
おからの特徴
大豆から豆乳を搾った残さがおからである。豆乳・豆腐・豆腐加工品の製造に伴い、副産物として生ずる。その量は、使用した大豆(乾燥)の1.35倍程度と大量である。一方、豆乳として抽出されるタンパク質や脂質の割合は8割程度になるので、かなりの栄養成分が残っていることになる。また、おから中の炭水化物の多くは食物繊維であり、注目される。食品やバイオマス資源として有効活用したいものである。ただし、絞り方によりバラツキがあるが、七十数%程度の水分を含み、腐敗しやすいという欠点がある。
大豆製品/成分値 | 水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 |
---|---|---|---|---|---|
おから | 75.5 | 6.1 | 3.6 | 13.8 | 1.0 |
おから(無水) | 0.0 | 24.9 | 14.7 | 56.3 | 4.1 |
大豆(米国産、無水) | 0.0 | 37.4 | 24.6 | 32.6 | 5.4 |
豆乳(無水) | 0.0 | 39.1 | 21.7 | 33.7 | 5.4 |
大豆製品/成分値 | 水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 |
---|---|---|---|---|---|
豆乳抽出率% | ― | 78 | 80 | 43 | 75 |
おからは白色で、見た目が似ていることからウノハナ(卯の花。主に関東)、切らずに食べられるためキラズ(雪花菜。主に関西)とも呼ばれる。いずれも縁起を担いだ呼称である。
油揚げ・椎茸・にんじん等の材料と合わせて、炒って甘めに煮付けた料理も卯の花である。わが家の常備菜になっている。ハンバーグに混ぜて使うことも行われることがある。近年では、ケーキやドーナツといった菓子類に使われることも増えている。
中国語では豆渣(トウジャ)、または豆腐渣(トウフジャ)、韓国語ではピジと呼ばれ、家庭料理や精進料理に用いられる。米国では、ソイパルプ(soy pulp)と呼ばれて軽視されてきたが、近年は食物繊維が注目され食材としての活用が増えているという。
しかしながら、いずれの国であっても食用として消費される量はごく一部に限られるようである。
おからの行方
おからについて、産業廃棄物か否かが問われたことがある。有名な「おから裁判」である。1999年、最高裁判所は「豆腐製造業者から処理料金を徴収しており、おからは産業廃棄物である」と最終的な判定を下した。産廃の収集・運搬・処理等には、県知事等の許可が必要になる。被告は無許可だったため、有罪となったのである。
産廃の処理は外部委託できるが、責任は排出者にある。なお、自営店舗で、豆腐等を製造・販売する小規模事業者から排出される場合、一般廃棄物扱いになる。この場合、市町村に処理を委ねることができる。
本裁判の印象もあったため、筆者はおからの多くが産廃として処理されているものと考えていた。だが、最近では様子が変わっているようである。
日本豆腐協会の資料(「食品リサイクル法に係る発生抑制」日本豆腐協会、2011.12.2)によると、豆腐関連の大豆使用量は年間約49万tで、約66万tのおからが発生。利用形態として、飼料用65%、肥料用25%、その他10%となっている。産廃はその他の5~9割で、食用は1%以下である。流通実態では、乾燥処理40%(有償大部分が飼料、一部キノコの培地用)、強制醗酵及び乳酸発酵20%(有償:大部分が飼料)、生のまま40%(有償、逆有償)とある。大手豆腐メーカーでは、乾燥や発酵処理により日持ちを向上させて有償販売されている。
有効利用が進んだ大きな理由は、食品リサイクル法であろう。食品廃棄物の排出抑制や資源としての有効活用を促進する法律である。廃棄処分を減らし、環境負荷の少ない循環型社会の構築を目指している。食品に関わる製造・小売り・外食等の全事業者が対象になる。食品廃棄物の年間発生量が100t以上の大規模事業者の場合、発生抑制の目標値が設定され、リサイクル率の報告義務が課せられる。努力が不十分な場合、企業名公表や罰金といった厳しい措置が盛り込まれている。
可食部分の廃棄が多く、重要性が高い16業種に発生抑制の暫定目標値が設定されている。豆腐・油揚製造業もその一つだが、売上高百万円あたり2,560kg(2012年4~2014年3月)と、他業種とは桁違いに高い値に設定されている。これは大量のおからが発生するという事情によるもので、理解できる。
究極のおから処理
食品リサイクル法が推奨するリサイクルの順番をご存じだろうか。
(1)リデュース(reduce/発生抑制)
(2)リユース(reuse/再使用。通い箱等)
(3)リサイクル(recycle/再利用。資源化等)
が3Rである。2007年に改正された食品リサイクル法では
(4)熱回収(サーマルリサイクル)
(5)適正処分
が加わっている。
上位の順位の処理ほど、環境負荷が少ないと考えられている。しかし、最も好ましいのは、食用利用であることは言うまでもない。
おからを使用した料理レシピを検索すると、大量にヒットする。淡泊で“自己主張”が少ない食材なので、たいていの料理に加えることができる。とくに油脂との相性がよさそうである。一般家庭では、通常の食材としておから活用を勧めたい。日々の食事におからを取り入れるのである。
おから利用について、さらに望ましい方法が存在する。おからそのものを発生させない処理方法である。豆乳では、大豆種皮を除去し、すりつぶしをきめ細やかに行い、ろ過しない処理法がある。ろ過工程とおからの処理が不要で、歩留りが改善する。また、食物繊維も摂ることができる。よいことが多いが、JAS規格から外れるため、豆乳と呼べないのは残念である(第2回「豆乳ブーム継続中」参照)。このような規格のため、「まるごと大豆飲料」等と呼ばれることが多い。「大豆まるごと豆乳」と謳っている事業者もあるが、法令上「豆乳」という言葉を入れるのは具合が悪い。
豆腐でも、同様な考え方によりおからをろ過することなく凝固させる製品が存在する。食感は問題なく、大豆本来の旨味とコクがあるという。豆腐には法令による定義がないので、このような製法でも「豆腐」という呼称を用いることができるだろう。微粉化した大豆パウダーを原料にするため、必要な設備も少なく、製造時間が大幅に短縮できるという。
原料供給を専門のメーカーに依存することになるが、本システムによる「大豆まるごと豆腐」の生産事業者は増加しているという。なお、大豆パウダーを用いて豆乳様飲料も製造できる。
おからは、処理のコストダウンと有効活用の努力を継続する必要がある。さらに、究極の処理策としておからを発生しない豆乳様飲料・豆腐の製造システムのレベルアップに期待している。