正月におせち料理と雑煮は欠かせない。そのおせち料理の一角を占める黒豆は、決して目立つ存在ではないが、昔から大事にされてきた実力者である。近年、その機能性が明らかにされつつある。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
おせち料理と黒豆
おせち料理は、火を通す、濃い味にする、酢を使用する等、日持ちするように工夫されている。これは火をつかさどる荒神(こうじん)に配慮して、正月は極力料理の火の使用を避けるという風習に基づくと説明されることが多い。また、「正月くらいは主婦の料理の負担を軽くしよう」という意味もあるという。
おせち料理の内容は、地域により異なる。それでも、一般に黒豆、数の子、田作り、昆布巻きはラインアップに加わることが多いだろう。黒豆には「黒くなるほど日焼けして、マメ(健康、元気)に働ける」と、無病息災の意味があると言われる。ついでに言うと、数の子は「子孫繁栄」、田作りは田に関連して「五穀豊穣」、昆布巻きは「健康長寿」を祈っていると言われる。
最近は中国料理や西洋料理のメニューが加わることも珍しくなくなった。冷蔵庫が使えるので保存性をよくするために味を濃くする必要もなくなってきた。おせち料理は種類が多く手間がかかるので、市販品を購入する家庭が増えている。デパートや料亭のおせちに人気があるようだが、インターネットで手軽に注文できる時代になった。
わが家のおせち料理は煮しめとローストビーフ等を手作りし、黒豆、きんとん、かまぼこ等の市販品を揃えている。母から教わった料理もあり、娘たちにも伝えることができている。
食品の色
食品や料理の色はおいしさの大きな要素になっている。赤色は食肉や魚肉の色であり、果物や野菜の色でもある。野菜の色はいろいろで、緑色、黄色、オレンジ色、紫色、白色もある。野菜の色は、抗酸化作用やビタミン類とも関連する。
食品としてあまり見かけない色が青色である。カクテルには「ブルーハワイ」と言った青色が特徴のものがあるが、食品ではおいしそうには感じない。
黒色の食品はどうだろうか。黒い食品あるいは名前に「黒」がつく食品は、数多く存在する。作物では黒米、黒ゴマ等がある。また、黒砂糖、黒酢、黒コショウ、黒ウーロン茶、黒ビール、黒はんぺん、ブラックガムと多様である。食肉になる前であれば、黒豚に黒毛和牛というのもある。
江崎グリコでは黒色食品セットを販売していた。中身は黒カレー、黒はるさめスープ(黒酢使用)、黒チャーハンの素、イカスミライスの素である。どのくらい売れているか、興味深い試みである。
黒砂糖、黒酢等は、実際の色は褐色である。黒豚等は肉の色が黒いわけではない。それでも、「黒」を謳うのはイメージがよいからに他ならない。個々の食品で異なるだろうが、消費者が共通して黒色食品に感じている肯定的要素があると感じている。それは、邪気払いや健康的と言うやや信仰に近いイメージではないだろうか。
なお、黒色食品を作るには、着色料のカーボンブラックが使用できる。
黒豆の機能性
黒豆の場合、よいことはイメージだけではなさそうだ。黒大豆の代表的な品種「丹波黒」の産地は丹波・美作地方である。ここには、古くから黒大豆の煮汁が「のどによい」「冷え性改善」「利尿効果がある」と伝えられている。また、漢方でも生薬として多様な症状に活用されている。
近年では、黒豆の薬効や機能性か明らかになりつつある。「黒大豆の機能性研究会」(http://www.kurodaizu-lab.jp/)という研究会がある。黒大豆の研究者や関係する企業・団体が参加している。本研究会のサイトでは、科学的根拠に基づいた信頼性のある情報発信を行っている。一例が、黒大豆に抗酸化作用、抗メタボ作用、美白作用等が存在するという学会発表や文献紹介である。「黒大豆に美白作用がある」というのは意外である。
機能性を示す主な成分は、黒大豆ポリフェノールで、種皮に多く含まれている。その主要な化合物は、カテキン重合体のプロアントシアニジンで、全体の6割以上を占める。また、重合度2~9の低分子の割合が多いため、吸収されやすく効果が高いという。
本研究会の協賛企業であるフジッコでは、「クロノケアSP」を販売している。黒大豆ポリフェノールを58%以上含む食品素材である。また、黒大豆を利用した食品も開発している。ユニークな原材料であり、今後の発展に期待したい。