大豆は油糧種子として、重要な存在である。大豆油は直接食べるだけでなく、たとえばマーガリン等に加工されても利用されている。また、食品に限らず広く工業用材料としても貢献している。大豆製品中に含まれる脂質の意義についても考えたい。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
大豆油の特徴と製造方法
世界の植物油生産量(含工業用)は約1億5800万t(2011/12年予測)であり、毎年4%前後の増加傾向が続いている。このうち最も多いのが、アブラヤシから得られる常温で固体のパーム油で32%を占める。これに、大豆油26%、菜種油15%と続く。日本における植物油の消費(含工業用)は、240万t(2011年)。内訳は菜種油44%、パーム油24%、大豆油17%、その他15%である。
食用植物油にはJAS(日本農林規格)があり、使用できる原材料や食品添加物を定めている。また、精製レベルと起源植物ごとに色、水分、比重等の数値も定めている。
大豆油の特徴としては、(1)脂肪酸の不飽和度が高い、(2)低温でも液状、(3)部分水素添加が可能、といった利点が挙げられる。欠点として、(1)リン脂質含量が多い、(2)酸化されやすいこと(高い不飽和度)が挙げられる。
大豆油の製造は、以下のように行われる。前処理工程として、原料精選→乾燥→破砕→加温→圧扁(つぶす)がある。抽出工程として、溶剤抽出→溶剤除去→脱ガムがある。精製工程として、脱色→脱臭を経て「精製大豆油」が製造される。さらに、0℃で清澄させる脱ろう工程を経て「大豆サラダ油」になる。
大豆油の用途
大豆油は食用として、天ぷらなどの揚げ油や、良好なエマルション(乳濁液)を作ることを利用してマヨネーズやドレッシングの原料として活用される。また、水素添加により硬化させてマーガリンやショートニングも製造されている。
用途は食用に止まらない。工業用として、ペイント、ワニス、リノリウム、印刷インキにも用いられる。エポキシ化(酸化剤を作用させて硬化させる)して可塑剤やアルキッド樹脂になる。また、近年はディーゼルエンジン用の代替バイオ燃料としても需要が拡大している。
これらに対して、“本来食用となる大豆油を使用すべきでない”とする議論がある。
工業用途で、印刷インキが注目されている。大気を汚染するVOC(揮発性有機化合物)を減らした環境対応商品として使用量が拡大してきた。大豆油インキで印刷した「PRINTED WITH SOYINK」と記したマーク(「ソイシール」)をご存じの方もいるだろう。この商標の権利者である米国大豆協会が「初期の目的は達した」として、更新を中止した。2011年4月以降、本商標は使用できなくなった。
この対策として、印刷インキ工業連合会は「植物油インキ」を提唱した。植物油インキの定義と基準を定め、大豆以外の植物油に範囲を広げた。大豆食用議論に配慮し、非食用の植物油や廃食用油の再生品を積極的に活用する。センスのよいマークもデザインした。よい方向に前進できたのではないだろうか。
大豆製品中の脂質の意義
大豆からはさまざまな大豆製品が造られている。その栄養成分値に注目したい。主な大豆製品の値を表に示す。
大豆製品 | 水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 | F/P |
---|---|---|---|---|---|---|
大豆:米国産 | 11.7 | 33.0 | 21.7 | 28.8 | 4.8 | 0.66 |
豆乳 | 90.8 | 3.6 | 2.0 | 3.1 | 0.5 | 0.56 |
木綿豆腐 | 86.8 | 6.6 | 4.2 | 1.6 | 0.8 | 0.64 |
ゆば | 59.1 | 21.8 | 13.7 | 4.1 | 1.3 | 0.63 |
豆みそ | 44.9 | 17.2 | 10.5 | 14.5 | 12.9 | 0.61 |
淡色辛みそ | 45.4 | 12.5 | 6.0 | 21.9 | 14.2 | 0.48 |
豆腐やゆばであれば、タンパク質に注目しがちだろう。ところが、これらは大豆そのものと同等の比率(F/P)で脂質を含んでいる。豆乳や淡色辛みそはやや低目だが、やはり脂質を含んでいる。これらの製品は脂質の存在でおいしくなっている。と言うのは、脱脂大豆を用いて豆乳、豆腐、ゆばを製造できるのだが、この場合、脂質含量は低くなり、おいしさも低下すると言われている。
甘味・塩味(鹹味)・酸味・苦味・うま味を、基本五原味という。甘味はエネルギー源、塩味はミネラル、うま味はタンパク質のシグナルと考えられる。いずれも人体に必要な栄養成分ため、心地よく感じるのである。一方、酸味は未熟果実や腐敗、苦味は毒物のシグナルとなるため、基本的に不快な味と言える。これらを楽しむには、訓練が必要になる。
さて、脂質は栄養成分としてだけでなくエネルギー減としても優れている。タンパク質と炭水化物のカロリーが約4kcal/gに対して、脂質は約9kcal/gである。味を示すのは、すべて水溶性物質のため、脂質には味がないはずである。しかし、重要な栄養成分を認識できないわけはない。事実、食品のおいしさとして、脂質は重要な役割を果たしている。霜降り牛肉やマグロのトロは脂質あってこそのおいしさなのである。
京都大学大学院農学研究科の伏木亨教授は「コクと旨味の秘密」(新潮新書)の中で、糖と脂肪とダシのうま味がコク形成の重要な三要素としている。また、マウスが油脂に「やみつき」になることも紹介している。大豆製品に含まれる脂質がおいしさに寄与していることが理解できる話だと考える。