ブランド枝豆をしのぐ“絶品の枝豆”

わが家で生育中の“絶品の枝豆”
わが家で生育中の“絶品の枝豆”

夏は何と言ってもビールに枝豆と言いたい。ビール以外の酒でも、つまみには枝豆が選ばれることが多い。歴史の永い食材であり、枝豆の将来は明るいと信じている。ところで、枝豆には「だだちゃ豆」等のブランド品が存在するが、これをしのぐ“絶品の枝豆”があることをご存じだろうか?

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醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。

横山勉「大豆変身物語」(香雪社)

とりあえず枝豆

わが家で生育中の“絶品の枝豆”
わが家で生育中の“絶品の枝豆”

 一般社会において、飲み会は「とりあえずビール」でスタートすることが多い。おじさん同士の場合、やはりビールで乾杯が定番だ。ハイボール派が増えたと言っても、おじさんたちにはビール党が多い。ところが、昨今の若い人たちは皆まちまちの酒類を求めるようだ。若者の多くはそれぞれ好みの味のチューハイ等を頼むのである。乾杯するまで、時間がかかって仕方がない。

 酒類の好みは、そのように意見が分かれるかもしれない。しかし、初夏から残暑までの時期、つまみは「とりあえず枝豆」ではないだろうか。なんと言っても、飲み始めのビールと枝豆は相性がよい。暑い時期、美しい緑色が食欲をそそる。その上、悪酔い防止効果が期待できると聞けばなおさらである。

枝豆の特徴

 未熟のダイズを塩ゆでしたものが枝豆であり、農林水産省による分類は「野菜」になる。水分を補正すると、主な栄養成分は成熟豆と大差がない。ただし、ビタミンAとビタミンCの含量は高い。

 トマト・ナス・キュウリといった野菜は、一年中スーパーの棚を占めている。そのような野菜と一線を画すのが、枝豆である。生鮮品が店頭に並ぶのは、夏の時期だけである。

 枝豆を利用した料理もいろいろ存在する。枝豆ご飯やかき揚げは人気がありそうだ。サラダに入れても、色どりがきれいである。ゆでて潰せば「ずんだ」になり、餅を包むだけでなく和えもの等の料理にも活用できる。枝豆は近年はスナック菓子の原料にもなっている。

 冷凍品には季節はない。一時は姿を消した中国産の冷凍食品(※1)だが、徐々に戻ってきたようだ。中国産が敬遠された時期、枝豆を大量廃棄した記事を読んで心を痛めたものである。日本企業の輸入品は、栽培から製造・包装までしっかりと品質管理をしている。筆者は不安なく中国産を食べられる。

 枝豆の品質管理の項目にも、農薬の使用履歴等はもちろん含まれる。また、安全面だけでなくさやの大きさや粒数にも規格があり、人手をかけて選別している。筆者は小さなものや少ない粒数のものが入っていても変化があってよいと思うが、日本向けの商品は細部まで配慮する必要があると言う。

知らない方が幸せ? 絶品の枝豆

 枝豆には、茶豆・黒豆・だだちゃ豆といったブランド品がある。これらは確かにおいしいが、はるかに勝る枝豆が存在すると断言する。それは、朝採りをできるだけ早めにゆでた枝豆である。収穫して時間が経ったものと比べると、甘味とコクの深みが明らかに違う。一度この味わいを経験すると、スーパーに並んでいる枝豆が色あせて見えてしまう。知らない方が幸せなのである。

 穫れたてのおいしさは、すべての野菜に言えることである。ただ、枝豆とスイートコーンは、格段に差異が大きい。これらは、収穫後に糖分とアミノ酸の含量が急速に減少する。気温が高ければさらに減少の速度は早まる。だから、収穫後できるだけ低温に管理して、速やかにゆでるのだ。これが“絶品の枝豆”である。

 どうすれば、そのような枝豆を入手できるか。筆者の地元(東京都三鷹市)では、都市農家が頑張っている。都市近郊の農地には、避難場所確保、地下水涵養(※2)、児童の勉強の場、景観保全等の多面的役割がある。そしてなにより、新鮮な野菜の供給基地として重要だ。そうした農地では、枝豆も多く栽培している。これらは庭先でも販売しているが、確実に入手するには予約しておくことだ。

 もう一つの入手法は、自家栽培である。枝豆は陽が当たるならベランダでも栽培できる。プランター、土、肥料、種を調達する。近年は家庭菜園が人気で、これらは100円ショップですべて揃えることができる。酸性土壌を嫌うため、石灰を散布した方がよい(第3回参照)。収穫物を得るまでには手間と時間がかかるが、植物が育つ様には癒されることだろう。今年も、わが家でまいたダイズが育ち始めた(写真)。

枝豆の過去と将来

 枝豆と日本人のつき合いは永い。平安時代には、すでに現在と変わらない形態で食べられていたらしい。江戸時代になると、枝豆売りが街を売り歩いたという。枝についた状態で、ゆでたものを売っていたらしい。「枝付き豆」や「枝成り豆」と呼ばれ、「枝豆」という名前の由来になったという説がある。

 枝豆はわが国だけでなく、中国・韓国等の東アジアで広く食べられている。最近では、北米や欧州でも人気が高まっていて、英語でも“edamame”で通じるという。“tsunami”や“otaku”が英語になっているとは聞く。しかしそれ以上に、どの地域でも保守的なものである食文化というジャンルで、東アジアの一般食材が認められることをうれしく思う。

※1 2002年7月、塩ゆでされた中国産枝豆から生鮮枝豆の残留基準値を超えるクロルピリホスが検出され、厚生労働省は当該品全量の廃棄または積み戻しを指示した。

※2 地下水涵養:降雨などを地面に浸透させて帯水層に及ばせること。水害や地盤沈下の防止、水資源の確保、湧水の保全などの効果がある。

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。