凍り豆腐は、寒冷な気候の各地でそれぞれ独自に誕生したに違いない。栄養価も高く、最近は水に溶いた粉末だしに入れてレンジにかけるだけで食べられる手軽な製品もある。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
凍り豆腐の誕生
豆腐の誕生には、豆乳とにがりの出合いが必要になる。どういう状況であればそれが起こるか考えていた。それを調べている中で「第4回 人気者の豆腐」に記したように、不老不死の研究中に偶然できたとする伝説が中国にあることを知った。「さもありなん」という感想を抱く話である。
これに対し、凍り豆腐が出来たきっかけを想像することは容易である。豆腐が凍る地域であれば簡単に発明されたに違いない。夜間、気温の低下により豆腐が凍ってしまえばあと一歩。この状態で、豆腐の固形分は氷の粒の隙間に追いやられてしまう(宇宙の大規模構造に似ている)。その後、昼間に氷が溶けて流れ出れば、スポンジ状になった豆腐の固形分が残る。水分が蒸発すれば、凍り豆腐の完成である。
凍り豆腐の呼称はさまざまである。一般的な高野豆腐(こうやどうふ)や凍み豆腐(しみどうふ)の他に、凝豆腐(こごりどうふ)、連豆腐(れんどうふ)、ちはや豆腐とも呼ばれている。さまざまな呼び方があるということから、自然発生的に各地で誕生したと考えるのが妥当だろう。大陸にも同様な食材が存在するので、中国から伝わったとする説もある。
なお、JAS(日本農林規格)の品質表示基準では、「凍り豆腐」を正式な名称としている。
現在の製造法
現在でも、基本的な製造方法は変わっていない。ただし、機械化・大規模化されており、冷凍機で凍結し、乾燥機を用いて乾燥する。また、工程の一部は改良され、一般に重曹が加えられている。伝統的な方法で作る凍り豆腐は、水戻しに長時間かかる欠点があったが、重曹添加により戻しやすくなっている。
高野豆腐とも呼ばれる理由は江戸時代に高野山(現在の和歌山県)で盛んに作られ、土産物として珍重されたためである。現在、高野山周辺では全く製造されていない。最大の生産地は、かつての製造スポットの一つ長野県になっている。
凍り豆腐の特徴
凍り豆腐の栄養成分は豆腐と同じで、たんぱく質と脂質を多く含んでいる。水分は8%程度で、乾物のため日持ちはよい。ただし、多孔質で脂質を多く含むため、ゆば同様に酸化には配慮する必要がある。褐変し易く、他の匂いも移りやすい。包装品であっても、冷暗所保存が好ましく、賞味期間はおよそ6カ月である。
料理としては、なんと言っても薄味のだしによる含め煮がおいしい。いわゆる精進料理に用いられることが多い。ちらしずしの具としても存在感を発揮する。すき焼きや茶わん蒸しに入れられることもある。近年は、粉末だしが同梱されていることが少なくない。水に溶いただしに入れ、レンジでチンすれば完成である(写真)。
凍り豆腐は東アジアでは普通の食材だが、欧米では入手が困難な模様である。
日本における生産量は年間2万2000t程度。順調だった需要は、伸び悩み状態にあるという。料理に手間がかかることや味付けがやや難しいことが原因ではないだろうか。これから消費を伸ばしたい健全な健康食品と言える。
関西圏で8割が消費されており、地域的な偏りが大きい。関東での需要拡大が課題である。