先日、友人と仙台料理を食べに行ったときに、意外な発見がありました。メインは仙台名物の牛タン料理だったのですが、他にもいくつかの料理を注文しました。その中に、宮城県の名物である「せり鍋」がありました。これを見て驚いたのです。
日本のセリは私の故郷の水芹菜だった
テーブルに用意されたせり鍋の食材に、私の目は釘付けになりました。皿に盛られたせりには、なんと根っこも付いているではありませんか。もちろん洗ってありますが、土の色が残っています。
しかし、驚いたのはそのビジュアルよりも味でした。私はこれまでにも書いているように、日本のスーパーでよく買い物をします。しかし、せりを買って食べたことはありませんでした。しかし、その日、初めて日本のせりを一口食べて、私は思わずちょっと大きな声を出してしまったのです。
「これは水芹菜(シュイツィンツァイ/shuǐ qín cài)だ!」
と。急にあげた声に、周りの人も驚いた表情をした様子は今も印象に残っています。
水芹菜は、実は私が好きな野菜の一つだったのです。大陸南部の地方ではよく食べる野菜ですが、北の地方ではあまり見かけないものです。私は西北にある西安の育ちですが、両親は南の地方の出身なので、市場で水芹菜を見付けると必ず買っていました。ですから、私にとっての水芹菜は、他の野菜にもまして特別な家族の“香り”を感じる野菜なのです。
なぜ、こんなおいしいものを日本に来てから今まで食べていなかったのか。なぜ今までこれが水芹菜だと気づいていなかったのか。それからの数日、私はほとんど悔やんでいました。そして、近所のスーパーへ行って、せりを使った昔の好物を作ってみました。
懐かしい水芹菜と豆腐香干の炒め
日本でセリを漢字で書くときは芹と書きます。そのセリを私たちは「水芹菜」と呼んでいます。この「水」を取った後半の「芹菜」は、日本で言うセロリのことです。セリとセロリは同じセリ科だけあって見た目が似ています。そして、セリは水辺に育つ植物で、その食感もセロリよりは水分を感じるため、「水芹菜」となるのはとても合理的なネーミングだと感じます。
日本ではセリを芹と書く一方、セロリには漢字を使いません。それで、セリとセロリの関係に気付きにくいものです。これには、セロリが日本に入って来たいきさつと関係があるようですが、今回はそこは割愛します。
さて、せりの特徴というと、その爽やかな香りと歯ざわりです。和食ではおひたし、和え物、鍋などに使われます。しかし、中国の料理では炒める場合が多い。とくに人気なのは、せりと豆腐香干(ドウフシャンガン)の炒め物だ。豆腐香干というのは豆腐を乾燥させて燻製にしたもので、その香りとプニンプニンという食感が、せりのきっぱりとした香りと歯ざわりにマッチします。
日本では、豆腐香干はほとんど見かけないので、今回は厚揚げを使ってみました。豆腐香干に比べれば味が足りませんが、それなりに懐かしい味になってうれしくなりました。
それにしても、仙台のせり鍋の根っこ付きせりには驚かされました。せりは根も食べられて、しかも栄養豊富ということは知りませんでした。しかし、これからは根を捨てずに活用したいと思います。
私の故郷の味と日本の味覚をつなげるような食材は、きっとまだあるでしょう。せりの次の発見は何でしょう。楽しみにしています。
【編集部・齋藤訓之より】
徐さん、せり/水芹菜のお話を3月に送ってくださったのに、すっかり時間が経ってしまいごめんなさい。しかし、4月もまだ露地もののせりが手に入るようです。私も厚揚げで炒めものを作ってみます。
日本でせりが食用にされてきた歴史は古いようで、万葉集にも芹を扱った歌が見られます。春の早いうちから水辺に瑞々しい緑を見せて生えてくる様子に、日本人は自然の生命力を感じていたようです。そして日本では水田が発達しましたから、その畔(あぜ)や水路のほとりでよく見かける身近な植物となったようです。
ご両親も、北の広大な大地に住みながら、市場で水芹菜を見付けたときには、味と香りだけでなく、南の故郷の景色も思い出されるのではないでしょうか。