日本での中華料理の進化は、ラーメンと焼きギョーザといった新たなジャンルを生んだだけではない。味や種類の進化ではなく、料理を簡単に、誰でも作ることができるようにする“ファスト中華料理”と、さらに速くできる“インスタント中華料理”への進化も遂げている。
家庭でシェフの味が出来るファスト中華料理
“ファスト中華料理”の主役は、中華合わせ調味料だ。これは、コショウや唐辛子のような単純な調味料ではなくソース状などのもので、食材と混ぜれば料理店のシェフの腕に負けないほど、魔法のように、おいしい中華料理があっという間に出来上がる。たとえば、麻婆豆腐であれば、豆腐や挽肉に中華合わせ調味料を入れれば、おいしい麻婆豆腐が簡単に出来上がる。
筆者は妻にだまされて、本当に妻の腕が突然シェフと同等に上達したと思ったことがある。ある日、妻が作った酢豚を食べると、レストランから出されたものにも負けないおいしさに驚かされた。私が作った酢豚よりずいぶんおいしい。さすが女性が作った料理だ、やれば男よりうまく出来るのだろうと感心したものだ。
しかしその後で、冷蔵庫に見慣れぬスパゲティのソースのようなものを見つけた。それをよく見て、なるほどとわかった。妻は私を驚かせるため、わざと黙っていたのだ。
このような合わせ調味料は、いろいろな種類の料理について作られ市販されている。このおかげで、かつてレストランに行かなければ食べられなかった中華料理が、自宅で意外と簡単に作られるようになった。便利なだけではなく、経済的にもお買い得感がある。それだけに人気上々で、専用の売場を用意しているスーパーも多数存在する。
このように日本で人気のある中華合わせ調味料だが、中華料理の故郷である中国では、現在多分受け入れないかと思う。なぜかと言うと、中国では、男でも女でも多少料理ができる人が多いので、わざわざこのような加工調味料による中華料理を作る必要はないと考えられるからだ。また、中国では日本のような長い残業時間はなく、家に早く帰って料理ができることも理由の一つだ。また何より、中国の家庭料理はもともとそれほど複雑ではなくシンプルに作られるから、わざわざ合成調味料を買う気も起こらないはずだ。
ただし、最近の若者には料理をしない人も増えているから、将来、このような合わせ調味料を使う人も出てくるかもしれない。
日本人ならではの改善・組み合わせ
これらを使う調理は、伝統の料理法と全く違っていて、一種特殊なものだ。“シンプルな中華料理”とも言える新型の中華料理だろう。
ちょっと調べてみたところ、合わせ調味料とは、料理用のたれやドレッシングなどのように、ある料理の味と似た風味の調味料を複数混ぜ合わせてコクや深みを出したもので、中華合わせ調味料がそうであるようにさまざまなものが作り出せる。
理論上はどんな調味料同士でも混ぜ合わせて、合わせ調味料を作り出すことは可能だが、用いる料理や素材などにより、合わせる調味料の選定や割合など、しっかりと計算して掛け合わせなければならない。これは、改善や組み合せが得意な日本人ならではの趣向が強く出たものかもしれない。このような工夫を重ねたおかげで、中華料理のおいしさは不思議にその合わせ調味料に凝縮されたと言える。いわば、中華料理店は家のキッチンでも再現可能になるだろう。