中国では「味千ラーメン」が大成功しており、上海や北京などの大都市で日本のラーメンが人気を集めている。また「餃子の王将」も大連から多店化を開始した。これら中国に進出する中華料理チェーンの成功の秘訣は何か。まず、立地戦略と商品戦略から見ていく。
中国へ進出する日本の中華料理チェーン
日本発の「中華料理」が、近年グローバル化の波にも乗り、中国への進出を果たしている。つまり、「中国料理」の“現地化”によって生まれた日本の「中華料理」が、本場である中国へ逆輸出されている。日本で現地化された料理が、本場である国の大衆の口にも合う“新しい料理”として受け容れられることもあるということだ。
上海や北京などの大都市では、日本のラーメンが大人気である。日本のラーメン店は、今や中国で多くの中国人客を引き寄せている。
たとえば、熊本発祥のラーメン・チェーン「味千ラーメン」が、2010年4月、中国における「ファストフード企業トップ50」の第4位にランクインした。
「味千ラーメン」が海外ですでに650以上の店舗展開を行い、驚くべきペースで成長を続けていることは、日本ではあまり知られていないようだ。また、関西発祥の「餃子の王将」も中国の大連に進出して、4店舗を展開している。餃子の故郷である中国で、日式(日本式)焼きギョーザも知られつつある。
しかし、日本のラーメンなどの「中華料理」が中国や東南アジアへ進出した例は、これまでにもたくさんある。それらの多くはそれほど有名にはならなかったし、ランキング上位に名を連ねるような多店化には至らなかった。それに対して、「味千ラーメン」は中国で大いに成長し、「餃子の王将」も店舗網を拡大する様子を見せている。彼らの違いはなんだろうか。
チェーン・オペレーションのマニュアルがしっかりしているだとか、さまざまな説明はあるだろう。ただ、私が注目しているのは、やはりローカライズという点だ。実際に中国の「味千ラーメン」や「餃子の王将」の展開状況を見ると、彼らは日本で成功したやり方を中国にそのまま持ち込んでいるわけではないとわかる。中国の市場に合わせて、変えるべきところは変える、守るべきところは守るという、ローカライズが行われていることがわかる。以下、何を変え、何を守っているのかを見ていきたい。
中国では一等地狙い
まず、これら中国に進出した日本の中華料理チェーンの中国での立地が、日本での立地と全く異なるのが印象的だ。
第1回で書いたように、日本の中華料理店の立地は多様だ。損益分岐点が低く、小商圏に対応できるフォーマットになっているので、住宅地や小さな商店街などに出店できる半面、わざわざ地価の高い中心街に出店したり、賃料の高いデパートにテナント出店するというのは少数派だ。日本国内の「味千ラーメン」や「餃子の王将」に行ったことがあるが、それらは一等立地狙いではなく、二等立地、三等立地で展開しているのがわかる。
ところが、中国での「味千ラーメン」「餃子の王将」は、ほとんどが中心繁華街、ショッピングモール、空港などの一等地に出店している。
また、これら中国へ進出した日本の中華料理店は、店舗のデザインも高級そうな雰囲気を演出し、価格は中国地場のラーメン店や餃子店の数倍ぐらいの設定となっており、中国におけるラーメンやギョーザのイメージを大きく変えたと言える。と言うのも、中国地場のラーメン店や餃子店も、日本の中華料理店と同じく、一等地に立地しているものは少ないのだ。高コストとなる一等地への出店が可能なことは、日本発の中華料理が中国で相当な人気を持続できていること、また利益率も相当高いことをうかがわせる。
豊富なメニュー・バリエーション
中国に進出した中華料理店は、商品も日本でとは違うものを提供している。
ラーメンは、基本のスープと麺が同じでも、トッピングを変えることによってさまざまな種類を提供することができる。中国に進出した中華料理店では、日本ではお目にかかれないラーメンも提供している。
たとえば、麺の上に大きな皮付きの海老を数尾トッピングした「エビラーメン」。皮付きのエビ、とくに有頭エビは見た目がよいだけではなく、むきエビよりおいしい。しかし皮を剥くときに手が汚れるから、日本ではあまり見かけない。中国の店ではお客は平気でむいて食べている。また、スープにカボチャを溶かしてカボチャの天ぷらを載せた「カボチャラーメン」というユニークなものもある。
さらに、中国で人気のあるラーメン以外の日本食メニューも数多く提供している。すし、うなぎ、焼鳥など、メニュー表を見ると、ラーメン店や中華料理店と言うよりは、日本の居酒屋やファミリーレストランのようでさえある。日本で中華料理店のラーメン以外のメニューと言えば、チャーハン、焼きギョーザ、各種の炒め物ぐらいだが、中国ではかなりの種類が提供され、さらに、人気に応じて品ぞろえを替えているという。同じメニューだけでは、すぐに飽きられてしまうからだ。
「餃子の王将」も、中国人がなじみの餃子の具をさまざまに用意して、日本で提供している焼きギョーザの具の種類よりかなり多い。また、焼きギョーザと水餃子を両方提供している。