「よい農産物」とはどんな農産物か?

特定農薬に指定されていない木酢液

リスクの考え方、農薬の一般的な説明と現在の日本の農産物の残留農薬の状況について説明してきたが、これらを危険・安全どちらと考えるか、仕事や生活に受け容れるかどうかの判断は、新幹線を利用するか利用しないかを考えるのと同じように(第2回参照)読者一人ひとりに委ねられている。 “農薬ならぬ農薬”木酢液をどう考えるか  ところで、ここで“農薬ならぬ農薬”についてお話しておきたい。すなわち、天然物由来の各種資 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

市販農産物による健康被害の可能性は低い

また、残留農薬の基準を超えていると聞くと、あたかも農薬がベットリと付着しているイメージを抱くかもしれないが、そのイメージは修正する必要があるだろう。ポジティブリストに入っていない農薬の残留基準は一律に0.01ppmである。1ppmというのは100万分の1ということだから、0.01ppmとは1億分の1ということだ。  100gの農産物から100万分の1gの農薬が検出されると、残留農薬の基準を超えてい […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

「240万件のうち65件に残留」をどう評価するか

現在日本で市販されている農薬は、使用量、使用回数、使用方法、収穫までの日数による制限など、使用に際してのさまざまな事柄が細かく定められている。1作の中で定められた使用回数を超えて使用してはならないし、収穫日に近い日に使用する場合も、収穫までの日数によって使用できるか、できないかの制限がある。これら使用基準を守っていれば、残留基準を超えないという基準である。 農薬の残留基準は個別に厳密に定められてい […]
理想的な灌水量を求める試験風景
土を知る、土を使う

世界の土 vi/中国東北部(2)

北京郊外から東北部に分布するオリーブ色の土は、日本の土壌に慣れた人にとっては、営農上、非常に扱いにくいものです。粒子が細かく、しかも粒径がそろっているために、この土は非常に固く締まります。このため、耕す作業にも苦労しますし、根が張りにくく、また灌漑の方法に注意しなければ根が窒息することも考えられます。 栄養面での心配は少ない土壌  しかし、現実にはトウモロコシや小麦などの作物が大面積で栽培されてい […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

絶対的な評価を下したい心を警戒する

ところが、人はわかりやすい一般的な解決策を求めたがるものだし、どこかに何にでも効く万能薬があると信じたがる傾向がある。それで、栽培の勉強会で最も多く質問されるのがこの質問である――「何かよい肥料/農薬はないですか?」  この質問の意味は、「効果が高く、安くて、副作用がない肥料/農薬はないか」ということだ。  筆者はこの質問が出たとき、必ず反対に質問することにしている――「石灰はいい資材だと思います […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

50年前の考え方で今日の農薬を評価することはできない

消費者の間ではよく理解されていないが、農薬はこの50年あまりの間に大きな変化を遂げている。「沈黙の春」(レイチェル・カーソン)が発表された1960年代から「複合汚染」(有吉佐和子)が発表された1970年代の農薬と、今日の農薬とを同じように考えることには無理がある。 現在の農薬は危険性がコントロールされている  まず、これまで述べたような残留性のある化学合成農薬の大部分は、すでに淘汰され、黎明期の農 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

化学肥料の問題点は“依存”にある

先に、化学肥料を与えるだけの栽培を続けていると、農産物を生産する畑としての機能を失ってしまうと書いた。そのメカニズムをもう少し詳しく見ておく。 化学肥料自体に問題はなく化学肥料依存が問題  化学肥料というのは、植物に必要な栄養分を人工的に化合して作ったもので、たとえば窒素肥料であれば、窒素と別の物質がくっついている。窒素肥料の代表的なものに硫安があるが、これはアンモニウムイオン(NH4+)と硫酸根 […]
中国東北部の土
土を知る、土を使う

世界の土 v/中国東北部(1)

中国の土はその土色で大きく4種類に分けられます。南の赤い土、揚子江流域から山東半島の黄色い土、北京郊外から長春あたりにかけてのオリーブ色の土、そしてチチハルから内モンゴルに分布する黒い土という具合です。この分類は実はかなり古い中国の土壌研究の文献にも登場しています。 ゴビ砂漠から飛んできた微細な粒子  今回は、この中から北京郊外から東北部に分布するオリーブ色の土について話をしていきます。  この土 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

有機栽培は作物の安全・安心のためではなかった

農薬にはどのような危険があるだろうか。また、どの程度危険なものなのだろうか。これはものによって一様ではなく、時代によっても異なる。たとえば、化学合成農薬の中でも、かつて販売されていたり広範に使用されていたものには、かなり危険なものがあったが、今日流通している農薬は、それらとはまた事情が異なる。 農薬の急性毒性・残留性・催奇性  農薬の危険性として、まずいちばんわかりやすいものは、飲むと死んでしまう […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

有機農業を理解するには農薬と化学肥料を理解する必要がある

現在、安全や安心な農産物と言った場合、多くの人がイメージするのは、“科学技術に頼らない”有機栽培などの栽培方法を行なっている農産物ということになるだろう。では、有機農産物は実際に安全・安心で栄養価が高いと言えるだろうか。 化学農業時代が有機栽培を生んだ  それを考える前に、まず有機栽培とは何かということを押さえておきたい。  かつて化学肥料は“金肥”(きんぴ)などと呼ばれていた。金で買う肥料、高価 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

時代によって変わった“安全”の中身

前回の、利益(ベネフィット)と危険性(リスク)を秤にかけて考えるということは、もちろん交通機関だけの話ではない。危険性を最少にするという努力こそ、あらゆるリスク管理に通じる対応だと言うことができる。 安全でなければ危険ということではない “安全ではない”=“危険で利用できない”ということにはならないのだ。「誰も安全と言い切ってくれないから危険」ということにもならない。  裏を返せば、便利だと使われ […]
オーストラリアの茶園
土を知る、土を使う

世界の土 iv/オーストラリアでの茶栽培(2)

前回書いたように、2000年2月、筆者はオーストラリアでの茶栽培の可能性を調べる調査のため、シドニーの北に位置する地帯と、西オーストラリア南端に出向きました。  日本の茶業試験場に相談したところ、「全くダメだろう」ということでしたが、そういう回答だった理由から考えてみましょう。 オーストラリアの全土が乾燥帯なのではない  茶樹(チャノキ)という植物と、オーストラリアという立地の組み合わせを考えた場 […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

安全と断定できない新幹線を利用するのはなぜか

それにつけても、“安全”というテーマは書きにくいものだ。まず第一に、安全という概念を説明するのが難しい。  安全とはいったい何か?  農産物の安全性について考える前に、安全ということについて、ちょっと考えてみたい。 新幹線は安全な乗り物か?  実は、「安全」と言い切ることは不可能というほど難しい。たとえば、「新幹線は安全な乗り物だ」と言えるだろうか?  日本の新幹線は、これまで死亡事故が起きていな […]
「よい農産物」とはどんな農産物か?

農産物を評価するには実態を知る必要がある

かつてないほど、農産物の安全性が注目されるようになってきた。口にする食品であるから安全性が大事であるのは当然のことだが、農産物ほどさまざまな観点から安全性が注目されているものはないだろう。 需要の現場に生産の現場の情報が不足している  現在の日本では、食品が安全であるというのは大前提で、食中毒はおろか表示ミスがあったというだけでニュースになるほどだが、実際には、世界的に見ても日本は食に関して最も安 […]
Camellia sinensis. by Franz Eugen Kohler, Kohler's Medizinal-Pflanzen 1897.
土を知る、土を使う

世界の土 iii/オーストラリアでの茶栽培(1)

茶樹(チャノキ)の原産地は中国雲南省、ラオスとミャンマーに接するシーサンパンナと言われています。当地での茶は、古くから薬草としての位置づけが強く、大事に利用されてきた植物であったことは確かです。  これが陸路で朝鮮半島を伝って我が国に入ってきたようですが、「チャ」という言葉は広東語から来ています。  これに対して、福建省の港から海路ヨーロッパに渡った伝播もあります。こちらの方は、福建語で茶を「テ」 […]