2008年産米。風のように、水のように……

この欄であまり食べ物の味を細かくぬんぬんしたくはないのだが、コメの話。昨秋の新米の時節、ある農家から送ってもらった5kgのコメを半分ぐらいまで食べて、残り2~3kgになった袋からいつものようにコメを計って炊いた。「あれ?」と目をぱちくり。味がない。すーすーと、コクも甘みもなく通り過ぎていく。

 上と下で圃場が変わったか、収穫年が変わったのだろう。とにかく、味が全く違った。

 ほどなく、その人の隣の県(どちらも関東)の別な農家からもコメが届いた。この人自身はコメは主力ではないながら、いつも近隣の上手な人から調達したコメを送って来てくれる。いやはや。またしても、目をぱちくり。これもすーすーと、舌の上を通り過ぎていった。どちらもおいしくないわけではないのだけれど、おかずとコメがうまくなじんでくれない。

 いちおう弁明しておくけれど、いろいろなものの味はちゃんと感じるので、にわかに味盲になったのではない。

 あるお米マイスターにその話をしたら、すぐ「猛暑ですよ」と教えてくれた。「暑すぎて、夜も気温が下がらなかったでしょう。だから、イネが休む暇がなかったんですよ」と、この人の分析。なるほど、働き過ぎでメタボになる暇もなかったわけ。

 夜間暑かったということもそうだろうし、登熟期にも暑かったことの影響も大きいに違いない。最後まで栄養の消費が止まらず、ためる分にあまり回らなかったのだろう。

 全国的に、こんな傾向があるという。案外と、保存状態のよい古米のほうが濃い味を残しているかもしれない。もしもそうなら、こんなときこそ、米の売り手は古米とのブレンドを試みるといいはず。もちろん、それを開示してどころか、腕の見せ所、自慢話としてお客に説明しながら。

 ほかに、とくに味の濃い品種も作られるようになってきた。そういうものとのブレンドも自慢しながら売ってほしい。

 私が「あれ?」と思った2人の農家のコメは、どちらもコシヒカリだ。単一品種で押す限界を、こういう天候の年に感じる。作付ける品種の多様化と、ブレンド技術の復権を願う。

 農家も、「オレのコメを喰ってくれ!」と突っ張るのもいいけれど、腕のよい米穀店を見つけて、侃侃諤諤やりながら連携することも考えてほしいもの。食べる人のことを考えるなら、その方向がいいと思う。

※このコラムは個人ブログで公開していたものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →