矢場とんの模倣店を作った男が韓国に現れて問題になっているという――そんな話を聞いて、本物の矢場とんのホームページをチェック。
学生時代に岐阜県内で調査合宿をした折、高速道路のサービスエリアやあちこちの喫茶店などでみそかつは随分見かけた。
しかし、恥ずかしながら、中京名物のみそかつは、この店であるらしいと今になって知る。矢場とんのホームページの「矢場とんのルーツ」、最初のそもそも話がユーモラスで楽しく、中身にも納得。
で、「みそかつへのこだわり」には、もともととんかつも味噌もくどい食べ物なので、上手に作らないと「胸焼けがしそうなしつこい味」になってしまうと書いてあって、じゃあどんな味になってるんだろうとものすごく気になる。
さらに、なんといってもこのブーちゃんが可愛い。実はつれあいがブーちゃんグッズが好きなので、これは手に入れたい。
……ので、さっそく、行ってみた。
「名物の『わらじとんかつ』です」と出て来た大きなとんかつ(「わらじとんかつ」1260円)。「大きいので、みそとソースと両方半々にできます」と言われたものの、全部みそにしてもらう。昔、岐阜の喫茶店で見たみそかつは、とんかつの上に味噌ペーストをかけたようなものだったけれど、矢場とんのみそかつは、みそだれに“ドボンと浸して”あるような感じ。これは、「矢場とんのルーツ」からのこだわりなのだそう。
「くどい」とか「甘い」とかと思われないか、店はいろいろに気を遣っているらしい。みそとソース半々にできるというのもそうだろう。カウンターでは、「食べ方」と書いた紙片が目の前に貼ってある。曰く、最初はそのまま食べて。甘かったら練りカラシをつけて。味の趣を変えたくなったらすりごまをかけて(お客に擦らせるのではなく、擦ったものを置いている)。唐辛子(一味と七味を置いている)も合うので試して……。
せっかくなので、おすすめの「食べ方」を一通り、試してみる。前半はビールで、後半はご飯でなどと食べ始めたら、いやはやビールの進むこと。生中を干したら、お店の人が「おかわりは?」と。上手だなぁー。生小をお願いする。
とんかつが浮くほどひたひたになっていたみそだれ、「最後は残っちゃうんだろうなー、もったいないなー」などと思っていたら、意外や温度が下がって硬さが出て、とんかつで皿を拭いながら食べていたら、きれいさっぱりなくなってしまった。贅沢を言うなら、キャベツがもう少し多くついていると、後味もさっぱりしていいかな。
おかげさまで動けなくなるほど満腹。次回は串かつ(1本210円)とビールぐらいにしておこう。
さてさて、話は戻って。これの模倣店を韓国にそのまんま出そうという人の神経が分からない。
韓国の人が、このようにコピー商品を作ることを「ベンチマーキング」と言うらしい。恐らく彼らは、ベンチマーキングの方法、あるいはその言葉の意味を間違っている。半導体のように、機能や性能を数値化できるもので、国や文化を問わず同じ機能や性能が求められるものであれば、ライバル製品そのまんまかそれ以上の数字を目指せばいい。それはいい。
ところが、機能や性能を数値化できないもので、しかも国や文化が違えば、その魅力も全く無効になり得るもの(「とんかつ店」もそれに該当する)は、そうは行かない。
日本国内でだって、隣町の繁盛店のコピーを作ったからと言って、こっちの町で繁盛するとは限らないのだ。ここでベンチマーキングすべきなのは、繁盛店を作るまでのプロセスと思考法であって、今の店そのものではない(「日経レストラン」で連載を担当させていただいている小阪裕司さんが、近著「ビジネス脳を磨く」でそのあたりのことを詳しく書いている)。
矢場とんのベンチマーキングをするなら、店名やブーちゃんのビジュアルや商品などをパクるのではなく、ヒット商品の出来方、着想、店舗展開などを学び、それを韓国なり、自分の地域や状況、自分自身に合わせて、何をすべきかを改めて考える、というのが正しい。
そうそう。日本でも、昔は米国などの製品や店舗のコピーはたくさんあったけれど、今はそういうものはほとんどない。特に昔は、アメリカ人になりたいと思う日本人が多かったからそうしたんだけれど、今はたいていの人はアメリカ人になろうとは思わなくなったから、そんなことは普通はしない。
韓国の消費社会の発達具合というのは、たぶん、そんな30~40年前の日本のレベルなのだろう。もしも矢場とんの模倣店が韓国で繁盛するとすれば、“日本人になりたい韓国人”がいっぱいいるということなのだろう。韓国人なら、韓国人の、韓国人による、韓国人のための繁盛店を作ればいいのに。
※このコラムは個人ブログで公開していたものです。