やはりこの季節になると、子供の頃、海水浴に行ったときのことを思い出す。
ある時、海に入る前に喉がからからに渇いた。母も一緒であれば、きっと水筒を持っていったに違いないが、あの時は父と兄とだけで行ったのだった。男親というもの、そこまで気が回らない。それで、父にジュースなり買ってほしいとせがんだ。
とは言え、近隣にそうそう店はない。今のように、あちこちに自動販売機があるわけでもない。甘いものなど、そう簡単に買って口にさせるような父でもなかった。
で、父が言うには、海に入ってしまえば、不思議に渇きは癒えると言う。藻類が専門で仕事柄よく海に入っていた。それで体得した渇きの解消術らしい。
当てが外れて、口をとがらせたまま海に入った。しばらく大騒ぎで遊んだり泳いだりしていると、父が喉の渇きのことを尋ねてきた。なるほど、渇きは癒えていた。
あの時父は、水に浸かって体表から水を吸うためなのかなと、確証ないながらの自分の考えを言っていた。
本当にそうなの? 海水と人体と、どちらが浸透圧高いのかな?
変だなと思いながら、幾星霜。
真相はどうも違うらしい。
宇宙飛行で無重量状態の中にあると、人は渇きを感じにくくなると言う。地上では血液が足の下の方にたまりがちになるが、無重量状態では、血液が胸や心臓に回り過ぎる。体はその状態を是正しようとして、排泄を増やし、渇きの感覚を抑える――そのような説明が「アポロ13号奇跡の生還」に書いてある。
海で泳いでいる間も、同様の効果があるのではないか。もしそうならば、あのとき私は、脱水ぎみな上にさらに脱水ぎみになりながら、しかも渇きを忘れている状態になっていたことになる。
危ない、危ない。
泳ぐ前には、水分を十分に。
※このコラムは個人ブログで公開していたものです。