うまいラーメン――その虚と実。(笑)
ある時、食べ物にうるさいタイプの同僚が、仕事のついでに通りがかった都内某大学そばの有名なラーメン店に入った。15分程度並んだ甲斐あって、たいへんうまかったということだった。
その同僚、甘い物も好きで、ラーメン店を出てから目に付いた「ミニストップ」で、ちょうど評判になり始めたソフトクリームを注文。店頭に突っ立って、ネクタイ姿でなめ始めた。
と、ここで驚いた由。
「味がしなかった」と言う。「それだけ舌がしびれていた」。
すなわち、件のラーメン店は、「それほどまでに大量のうま味調味料を使っているはずだ。名声店でありながら、実はたいへんけしからんラーメン店であった」と、彼は僕に訴えた。
当座、まあそんなものなのかなと聞いておいた。
それから数週間後、僕はたまたま仕事で訪ねた別なラーメン店で、ラーメンを一杯ごちそうになった。
店は、別にディナーレストランを営業している会社のもの。他に、ポピュラー・プライスの業態を出すことになってトライした店だと言う。どうせやるならうま味調味料を使わないですごいスープを取ってみようと、地鶏のガラ、銘柄豚のトン骨、いずれも国内一級の名産地産の昆布、帆立貝柱、煮干などなど、これでもかとうま味のもとになるものをかき集めてたっぷり使っていると言う。「おかげさまで原価率は40%を軽く突破」と苦笑い。
うまい、うまい、とてもうまい、しょう油ラーメンだった。
さてさて、ところが。店を出て駅へ向かううちに、どういうことかなんとも嫌な気持ちがしてきた。口の中、舌がしびれてたまらない。
そこで気付いた。うま味で舌がしびれるのは、人工のうま味調味料によるのではない。天然だろうと人工だろうと、うま味が濃すぎると、しびれるのだとわかった。
同僚が先日行ったラーメン店も、あのように“悪口”を言われるには当たらなかったのではないか。
その随分後に、うま味調味料メーカーの研究者に聞いてみたことがある。果たして、工業的に作ったうま味と、天然の食品由来のうま味とを、普通の人間の舌がかみ分けるのは不可能とのことだった。
※このコラムは個人ブログで公開していたものです。