中国の牛乳に関して、過去にはメラミンが混入されるという残念な事件が発生した。そんな事件があったとしても、現在の中国では牛乳に強い需要があるようだ。なんといっても、栄養があっておいしいからである。高まる需要に対して、中国には秘策があるという。
メラミン汚染ミルク事件
2008年9月、中国乳製品メーカー三鹿集団製造の粉ミルクに結石などの病気を発生させるメラミンが混入していることが発覚した。この粉ミルクを飲んだ乳児1人が腎臓結石で死亡している。また、5万4000人の乳児が腎臓結石にかかり医療機関で治療を受けている。そのうち、重症患者は104人とされている。
さらに、その他にも21社の粉ミルクからもメラミンが検出され、中国国内の粉ミルクの半数以上からメラミンが検出される事態になった。各社は汚染ミルクの回収を進めて、スーパーの店頭からほとんどの中国産粉ミルクが消滅した。
なんということだろう、混入の原因は酪農家自身にあったのだ。搾った牛乳を水で増量し、不足したタンパク質(窒素成分)の比率を高めるため故意に有害物質メラミンを混入したことによるという。
中国ではLL牛乳の流通が多い
牛乳には栄養があっておいしいことは中国人にもよく知られている。牛乳の栄養成分に関して、各種栄養素がバランスよく含まれた“準完全栄養食品”と言える。生命維持のために不可欠な三大栄養素であるタンパク質、脂質、炭水化物に加え、カルシウムなどのミネラルやビタミンA、B2などを豊富に含んでいる。
中国における牛乳の流通を見ると、LL(ロングライフ)タイプが一般的である。牛乳の殺菌法はいくつか存在するが、「超高温瞬間殺菌」(UHT法120〜135℃1〜3秒間)や「UHT滅菌法」(135〜150℃1〜3秒間)による殺菌を行って無菌充填したものがLL牛乳であり、常温流通が可能である。
日本でもLL牛乳を生産すれば牛乳の常温流通が可能である。だが、流通業および一般市民の理解不足により、普及が進んでいない。実は豆腐についても同じことが言えるのだが、今は置いておくとしよう。
乳量2倍のスーパーカウ
さて、前述の通り現在の中国で牛乳の需要が伸びている。ただし、中国国内の牛乳生産量はこの10年ほぼ横ばいで推移している。増産しなくてはならないが、どうすればいいだろうか。これまでの考え方で対応するのであれば、飼育する牛の数を増やすことが考えられる。だが、現代中国の考え方はそうではない。中国では「スーパーカウ」というものがつくられた。それは、乳量が従来の2倍になる乳牛である。これをクローンにより大量生産することを目指している。
動物のクローンにはいくつかのバリエーションがあるが、一般的な方法を説明する(※1)。ドナーとなる生体の体細胞と、未受精卵から核を除去したレシピエント卵子を準備する。この両者を電気融合させたものが、クローン胚である。これを着床が可能となる胚盤胞期胚まで培養後、借腹のメスに移植して誕生させる。この方法では、山羊、豚、猫、馬、猿などの成功例が報告されている。この体細胞クローン動物クローン技術により得られた動物由来の食品に安全上の懸念は全く存在しないというのが、日本の食品安全委員会の見解である(※2)。
だが、クローン技術は基本的に高コスト(数百〜一千万円)である。しかしそうであっても、作成した個体がそのコストを上回る価値を持つならばよい。たとえば、錦鯉などは有望なテーマだろう。模様は個体ごとに異なるが、クローンによって高評価な個体を得られる可能性は高い。そして中国の場合、スーパーカウもまた、高コストであってもクローン技術を用いる価値があるものの一つに該当しそうだというわけだ。
ちなみに、話は変わるが、2010年に宮崎県で発生した口蹄疫を思い出してほしい。あのときには重要な種雄牛の多くも失ってしまった。仮に殺処分が必要となる場合でも、一部組織は凍結保存しておきたい。クローン技術で元の個体まで再生可能だからである。種雄牛のクローンであれば、コスト高は問題にならないだろう。
さて、中国のスーパーカウが今後どうなるか注目している。成功すれば、輸入国から輸出国への変貌も夢ではない。
※1 クローン牛のおいしさ,JAS情報,No.11(2018)https://cir.nii.ac.jp/crid/1520010380678104832
※2食品安全委員会「体細胞クローン動物に関する状況について」https://www.fsc.go.jp/emerg/clone_03.html