中国における鍋料理が火鍋(フオグオ)である。日本の鍋料理同様、多くの市民に愛される料理と言える。とくに寒い冬季には欠かすことができない。そして、広大な国土であれば、食材や味付けもさまざまだ。
火鍋の形状
火鍋の起源は諸説あるが、殷(紀元前17世紀頃〜1046年)の中期に登場する鼎(かなえ。鍋型の胴体に3本の脚が備わる土器または青銅器)という食器の料理を起源としているとも言われる。
現代の火鍋に用いる鍋の形状はいくつかあるが、浅底の丸鍋が一つのスタイルである。中央に仕切りを入れたものを鴛鴦火鍋(ユアンヤンフオグオ)という(鴛鴦はオシドリの意)。仕切った一方には四川風の赤く辛いスープ(紅湯=ホンタン)、他方には白湯(パイタン)など薄味のスープを張ることが多い。日本でもなじみのあるものは仕切りが直線でなく、太極(陰陽を生ずる万物の根源)を表現する巴の図案のように逆S字の曲線で仕切ったものだが、これは意外なことに1980年代に考案されたものである。
北京で楽しまれる火鍋の一種である涮羊肉(シュワンヤンロウ)に用いられる鍋は中央に煙突がついた独特の形状をしている。昔は煙突内に炭を入れて、鍋のスープが冷めないようにしていたという。
火鍋は外食で
火鍋が庶民の間に普及したのは宋(960年〜1279年)の時代と言われる。清(1616年〜1912年)では宮廷でも楽しまれたという。
今日の火鍋は、鍋料理の楽しみ方としては日本と大きく異なる点がある。火鍋は通常は家庭で作ることはないという。外食として楽しむものなのだ。
そして、中国の火鍋は、日本の鍋料理にもまして多様である。鍋の形だけでなく、用いられる食材も味付けも幅が広い。
前述の涮羊肉は羊肉の薄切りをしゃぶしゃぶとして楽しむ火鍋である。羊肉は冷凍肉を薄く切るのでクルクル丸まった状態だ。これをさっと湯がいて好みのタレにつけて食べるのである。なお、この料理法が関西に伝わって現在のしゃぶしゃぶになったと言われる。
広東地域では各種の火鍋が打邊爐(ダーピンロー)と呼ばれているが、香港では牛肉など、広東では海鮮などが人気だ。江蘇省の蘇州・杭州の菊花火鍋は白色菊花などを用いたさわやかな香りと独特の風味で、エビ、牛ヒレ、豚の尾根部、鶏肉などを食べる。湘西(湖南省西部)の狗肉火鍋は犬肉のしゃぶしゃぶだが、「神様も思わず顔を出す」といった表現が使われる。重慶では毛肚火鍋(マオドゥフオグオ)を食べる。毛肚はセンマイ(牛の第三胃)だが、辛味と深みのある香りが持ち味である。さらに、ほかにも各地に多くの火鍋がある。
日本でも三鮮火鍋の「海底撈」、鴛鴦火鍋の「小肥羊」など、本格的な火鍋が食べられる料理店が増えてきた。